地震、台風、河川の氾濫など、毎年のように起きる自然災害。大災害が発生した際に、自衛隊、消防、警察、医療などの「公助」がすぐに対応できるとは限らない。
救助活動における発災後72時間は生死を分けるタイムリミットといわれている。その間を生き延びるためには、私たちはどうすればよいのか。「自助」でわが身を守るサバイバル術を自衛官から学んで、なにがあっても生き延びよう。
公的な支援が行われるまで自衛隊のテクニックで生き延びる
離島で災害が発生した場合、住民の7~8割が自助での避難が必要になるため、日ごろからその準備をしておくことが重要になる。
そのため、沖縄地方協力本部石垣出張所では、地元の小中学生に向けた、防災教育を実施している。そこで石垣出張所の防災教育や全国の自衛隊員に行ったアンケートから、生死を分ける72時間を生き抜くための自衛隊のサバイバル術を教えていただいた。
埋まったがれきから出たい!
土砂崩れなどで閉じ込められた場合、スマホで自分のいる場所などをラインやツイッターなどのSNSにアップすると、それを読んだ家族や友人などが捜索している自衛隊員などへ伝えることができるので発見されやすくなる。スマホがない場合は近くにある金属片を棒でたたき続けるなどして音を鳴らしながら救助を待つ。
河川が氾濫し落下!
大雨が降ると、自分がいる場所はそれほど降っていなくても、川の上流での雨量が増えると、予想以上の速さで河川の水かさが増すことがあるので、警報などが出たら早めに高台などへ避難しよう。
もし、自分が水に落ちてしまったら、慌てずにシャツを浮きの代わりにする。シャツの襟を立て左右の前身ごろをしっかりと閉じて片手でつかみ、もう片方の手では前身ごろの裾を閉じて持ち、静かに浮いている状態をキープする。
長時間歩くときに靴擦れを起こしにくくする!
災害時に交通機関が使用できなくなった場合、移動するためには長時間歩くため、靴擦れが起きて、思うように歩けないことも想定される。そのような場合には、あらかじめ靴と接する足の部位にベビーパウダーやワセリンを塗ると、靴擦れしにくくなるので覚えておこう。
指の骨折はペンで固定する!
指を骨折したり、捻挫した場合、添え木としてペンや割り箸などが活用できる。ペンなどが2本あれば指の前後に添え、1本の場合は指の外側に添えて、輪ゴムやセロハンテープなどで固定する。輪ゴムなら2カ所固定すると安定する。
ペットボトルを浮きにする!
豪雨で街が浸水したときや大地震で津波に流されたときは、キャップを閉めた空のペットボトル(1.5リットルなら1本ぐらい、500ミリリットルならば2本ぐらい)を胸とおなかの間あたりに抱え込み、浮きにする。全身の力を抜いてあおむけになり、その状態を静かにキープすると、顔が自然に水面から出て呼吸をすることができる。溺れている人にペットボトルを投げて救助する場合は、中身が少し入ったものを投げるようにすると、遠くへ飛ばしやすくなる。
空から発見されやすくする!
豪雨で川が氾濫したり、津波から逃れるために木や建物などの高い所へ登って避難した場合、ヘリコプターの音が聞こえたら枝をゆする。建物内にいる場合は屋上や窓から手を振ったり、白色のタオルなどを振る。こうした動きがあると察知されやすい。
住んでいる地域が孤立した!
住んでいる地域が孤立して支援物資などが必要な場合、学校や病院などの施設なら屋上にいすなどで「SOS」の文字を書く。また、畑など広い土地に石灰などで書いたり、書くモノが見当たらないときは衣服を置いて字を表すのも有効だ。さらに「水」、「食料」などと最も必要とする物資を書くのも効果的だ。
動画で学ぶ!自衛隊のサバイバルテクニック
危機管理のプロである自衛隊に伝わるサバイバルテクニックをユーチューブなどで紹介しているのはご存じだろうか。「自衛隊OFFICIAL LIFE HACK CHANNEL」と各地本情報である。
これらは災害が起こる前から知っておくことで、いざというときに役立つ、ちょっとしたアイデアやテクニックが満載だ。今すぐにチェックして防災に役立ててほしい。
火災が起きたときの初期消火
火災には消火器で対処するのが基本。複数のコンセントがついている電源タップや調理中の食用油から出火したときに水をかけてしまうと、感電や爆発の恐れがあるので厳禁だ。
動画はこちら▶︎https://www.youtube.com/watch?v=vlz6xt1MWx8
豪雨時の浸水を防ぐ!崩れにくい土のうのつくり方
土のう袋の6〜7分目まで土を入れてひもで縛り、角材などでたたいて台形と平行四辺形を作る。台形の土のうの横に平行四辺形の土のうを並べていけば完成だ。
正しい土のうの積み方▶︎https://www.youtube.com/watch?v=gCiiwuFC1IA
正しい土のうの積み方2▶︎https://www.youtube.com/watch?v=t4Lo8zeoXDg
1人でけが人を運ぶ方法
けが人に意識がある場合は背負って運ぶ「背負い搬送」を行う。意識がない場合は、けが人の体を肩に抱え上げて運ぶ「消防士搬送」を行う。
担ぐ際にけが人の体の重心(へそ)を自分の首の後ろのあたりに乗せると担ぎやすい。
動画はこちら▶︎https://www.youtube.com/watch?v=wZbT7bUwwqs
2人でけが人を運ぶ方法
けが人を体育座りにさせ、その両側から2人が膝の下と背中で手を組み、持ち上げて運ぶ「両手搬送」を行う。
動画はこちら▶︎https://www.youtube.com/watch?v=1h4N92cgf_c
人を運びたいが担架がない
物干しざおなど長くて丈夫な2本の棒と、厚手の生地で長袖の上着が2着あれば担架をつくることが可能だ。
動画はこちら▶︎https://twitter.com/pco_kochi/status/1541209695825928193
いざというときに役立つロープの結び方
災害時に備え、便利な「ねじ結び」や、「もやい結び」を習得しておこう。また、津波などで流されないように自分の体を木などの安全な場所に固定できる「命綱結び」や、氾濫した川などから人を引き上げるときにつかまりやすくするためにコブを作る「命綱結び(ノット)」も覚えておきたい。
ねじ結び▶︎https://www.youtube.com/watch?v=Xt2hMk-ufZ0
もやい結び▶︎https://www.youtube.com/watch?v=gs85EtDE4mE
命綱結び▶︎https://www.youtube.com/watch?v=aRyKyeYXex0
命綱結び(ノット)▶︎https://www.youtube.com/watch?v=Azjqf89aL_o
骨折した足を傘で固定する
足を骨折した場合、負傷した足の外側に添え木として傘などを当て、ネクタイやガムテープなどを使ってしっかり固定する。固定した後は安静にする。
動画はこちら▶︎https://www.youtube.com/watch?v=UwBhm5VaXDY
足まめのつぶし方
災害時は交通機関が使えず、長時間歩いて、足にまめができることがある。まずは、せっけんでしっかり足を洗ってから、針を熱して殺菌したら、まめの下部の端を針で刺してつぶし、水ほうの皮を取らずにばんそうこうで覆うようにする。
動画はこちら▶︎https://www.youtube.com/watch?v=KH1KK6Wc9Vw
非常用持出袋に入れる防災グッズは?
災害派遣で現場を見てきた自衛官たちが、個人の立場で家庭に用意している非常用持出袋の中身、気になりませんか? 現場を知る者が備える1品を教えていただいた。
ヘッドライト
停電の際の明かりになり、両手があくので、トイレに行く際や救援物資を運ぶ際などにも役立つ。また、足元の悪い道で転んでも、両手がつければ大きなけがを避けられる。
密閉保存袋
洋服や下着などを入れて空気を押し出して密閉すれば、かさばらないので多めに準備できる。また、雨に降られてカバンが濡れても袋の中身を濡らさずに済む。臭いの出るゴミも密閉すれば防臭できる。
お尻拭き用ウエットシート
赤ちゃんのお尻拭き用は肌への刺激が強くないため、体はもちろん顔まで使用でき、全身を清潔に保つのに役立つ。
生理用ナプキン
予備として持っておくほかに、けがをした際の止血、傷口の保護にも使える。
ガムテープ
テープの上に油性ペンで文字を書けば、付箋紙としても使えるし、穴が開いた靴底などに張れば簡易補修もできる。
折り畳みバケツ
水を確保したいときや、洗濯をするときなどにも使える。
スリッパ
避難所で靴を脱いでくつろぎたいときにあると便利。衛生面の上でも履きたい。
マッサージグッズ
ローラーやツボ押しなどのマッサージグッズを持っておくと、ストレスの多い避難所生活でのリフレッシュに役立つ。
チューインガム
歯磨きの代替品として。また、ガムをかむという動作を継続することで、脳内で働く神経伝達物質「セロトニン」が分泌され、気持ちを落ち着かせる効果も期待できる。
ビタミンなどのサプリメント
長期間の避難生活による野菜不足などで、便秘など体調不良を起こさないため、足りない栄養素を補う。
<文/魚本拓 イラスト/うぬまいちろう 写真提供/防衛省>
(MAMOR2022年9月号)