最近、われわれが耳にする報道には、聞き慣れない「ミサイル」が増えている。北朝鮮の列車や海中から発射されるミサイル、ロシアがウクライナ侵攻で使用した新型ミサイル、それに対抗するアメリカ軍から供与された対戦車ミサイルなどなど。
ミサイルに厳密な定義はないとされているのだが、本特集では自衛隊がミサイルを「誘導弾」と呼ぶことから、目標に向かって誘導され、自身の持つ推進装置で飛んでいく兵器、と定義する。そのミサイルの歴史から仕組み、そして各国のミサイル最新事情まで、ミサイルの基礎知識について、軍事研究家の井上孝司氏に解説してもらった。
エンジン:ロケットやジェットなど自ら持つ「推進装置」で飛ぶ
ミサイルは自らの推進装置、エンジンで飛翔する。そのエンジンにもいくつかの種類がある。
弾道ミサイルの元祖、V2ロケットは「液体燃料ロケット」(注1)を採用。その後も大型のICBMなどで採用されていた。一方、現在一般的にミサイルの推進装置として使われることが多いのは「固体燃料ロケット」(注2)だ。ロケットは外部から燃料を燃やすための酸素を取り入れずに飛ぶため、燃料のほかに酸素の役割を果たす酸化剤が必要になる。
液体燃料ロケットは、今でも衛星の打ち上げロケットや一部有人ロケットなどに使われているが、発射直前にアルコール水溶液や、石油の一種であるケロシンなどの液体燃料と、液体酸素などの酸化剤を注入する必要があり、管理も難しいのがデメリットといえる。扱いやすさという点では、燃料と酸化剤を混ぜて固体化した固体燃料ロケットに軍配が上がるだろう。
ロケット以外の推進装置としては、酸化剤を必要としない「大気吸入型エンジン」がある。代表例はジェットエンジンで、速度よりも航続力を求められる巡航ミサイルなどに使われる。中でも、シンプルかつ音速以上で優れた性能を示す「ターボジェットエンジン」の使用が多いようだ。
液体燃料ロケットの構成要素
燃料と酸化剤を別々に搭載し、それらをターボポンプで燃焼室に送り込み点火すると、燃焼ガスが発生し推進力を生み出す。
固体燃料ロケットの構成要素
燃料と酸化剤を混ぜて固めた推進剤の中心にあけた穴(燃焼室)で、燃料を燃焼させ、ガスを発生させて推進力を生み出す。
注1:液体の燃料と酸化剤を用いるロケット。燃料の効率が良く、発射後の燃焼制御が容易というメリットがある。毒性の強い燃料を用いることが多く、扱いが難しい一方で、大型のロケットに使うには効率的な構造
注2:燃料と酸化剤を混ぜて固体化したものを使うロケット。ロケット花火のように構造が単純、
扱いも比較的簡単で、発射前の燃料注入などの必要がないため、小型のミサイルではほとんどが固体燃料ロケットを使う。
誘導法:「シーカー装置」と「誘導制御装置」で誘導され、目標に向かう
目標に向かって誘導されてこその「誘導弾」。そこで重要になるのが、誘導・制御の部分だ。
多くのミサイルには、目標を捜索・探知および追尾するためのシーカー装置と、その情報に基づいてミサイルの飛翔方向などをコントロールする誘導制御装置がある。ミサイルを目標に誘導する方法はいくつかあり、その1つが赤外線誘導だ。高熱のエンジンなどから発生する赤外線を目掛けてミサイルが飛んでいくもので、空対空ミサイルなどに多い。フレア(発光弾)など、高温を発する『おとり』に弱いというデメリットがある。レーダー誘導も主流の1つ。
また、画像誘導は、センサーが捉えた『画像』で目標を指定してロックオンするもの。最近では、画像の判定にAIの力を活用するケースもある。GPS誘導は弾道ミサイル、巡航ミサイルなどに多い方式で、カーナビのようにGPS衛星からの情報を使って目的地まで誘導する。
このほかにも、電波の代わりにレーザーを目標に照射し、その反射波に沿って飛ぶようにする「レーザー誘導」、ラジコンで人が操作して目標まで誘導する「指令誘導」など、多様な誘導法がある。
赤外線誘導の図
「赤外線誘導ミサイル」は、目標とする航空機などのエンジン排気が発する赤外線を、ミサイルが追いかける仕組み。初期のものは太陽に向かったり、おとりのフレアなどに引っかかる失敗も今より多かったそう。
セミアクティブ・レーダー誘導の図
ミサイルにはレーダーの受信機だけを組み込み、送信機はミサイルの発射元となるプラットフォームに搭載するのが「セミアクティブ・レーダー誘導」。電子機器の小型化が困難だった時代には、この方式が主流だった。
1:ミサイルの発射元となる航空機が誘導電波を発して目標物を捜索
2:誘導電波が目標物に当たって反射波が返ってくると、その反射波にミサイルが向かうよう操縦指令を出す
アクティブ・レーダー誘導の図
ミサイルにレーダー装置一式(送信機と受信機)を内蔵して、自ら目標を捉え、誘導するのが「アクティブ・レーダー誘導」だ。
1:ミサイルが誘導電波を発して目標物を捜索
2:誘導電波が目標物に当たって反射波が返ってくると、ミサイルがその反射波に向かうよう操縦指令を出す
破壊法:「弾頭」で「直撃」もしくは「爆発」させて破壊する
ミサイルのうち「破壊」を受け持つ部分が「弾頭」で、破壊法は「爆発」と「直撃」に大別される。
「爆発」は、弾頭に収められた炸薬が信管(炸薬を作動させるための装置)によって点火、爆発し、それによって起こる爆風や、炸薬とともに収められた金属片などの飛散、もしくはその両方によって対象物を破壊する。
炸薬の燃焼という点では同じだが、高温の「メタルジェット」(注3)を発生させ厚い鉄板などを突き破る「成形炸薬弾頭」もある。比較的小型の弾頭でも、強力な装甲を打ち破れるため、対戦車ミサイルによく使われる形式だ。
対象を直撃することによって破壊する弾頭もある。弾道ミサイル迎撃用ミサイルや衛星破壊ミサイルなどがそれにあたる。炸薬に点火して爆発させる間に目標が通り過ぎてしまうくらいの速度ですれ違うので、直撃させて壊すしかないのだ。
最後に、生物化学兵器弾頭についても触れておこう。これは爆発の威力によってではなく、細菌やウイルス、毒ガスなどの毒性を持つ化学物質によって、被害を及ぼす弾頭であり、国際法(注4)で使用は禁じられているとされるのだが、他国への対抗のため、所有する国もあるのが悲しい現実なのだ。
爆風破片弾頭
最も一般的な弾頭で、炸薬が爆発したときに、一緒に入れてある弾片(鉄やタングステンの破片)が飛散して、破壊力を発揮する。
連続ロッド弾頭
破片を飛散させる代わりに、端をつないだ細長い金属棒(ロッド)が飛散する。破片をまき散らすより確実に破壊効果を見込める。対空ミサイルに使用する。
成形炸薬弾頭
弾頭の構造を工夫し、爆発のエネルギーを1カ所に集中させる仕組み。炸薬が爆発すると、メタルジェットが発生して、分厚い装甲板でも押し破ってしまう。対戦車ミサイルに使用。
注3:金属の粒子が高速で飛び出すことによって起こる超高速噴流のこと
注4:国家間の合意や慣習に基づいて、主に国家間の関係を規定する法。国際公法ともいう。
国連憲章や国連海洋法条約などがあり、化学兵器の開発、生産、貯蔵、使用は化学兵器禁止条約(略称)で禁じられている
【井上孝司】
軍事研究家。1999年に会社員から著述業に転じ、航空・軍事・鉄道といった分野で著述活動を展開。著書に『最新ミサイルがよ~くわかる本』(秀和システム)などがある
<文/臼井総理、イラスト/松岡正記>
(MAMOR2022年8月号)