• 画像: 2022年3月17日に行われた開院式典。岩本剛人防衛大臣政務官はスタッフ一同を激励した

    2022年3月17日に行われた開院式典。岩本剛人防衛大臣政務官はスタッフ一同を激励した

     2022年3月17日。自衛隊入間病院は、開院セレモニーの日を迎えた。この病院がすごいのは、空自ならではの医療分野である「航空医学」機能を有する病院として、日本初の診療科・航空医学診療科を設置し、航空業務従事者などの検査と治療を一元化して行えること。構想からおよそ12年。待ちに待った“テイクオフ”である。本院の成り立ちを説明するとともに、今後期待される病院の機能、役割について解説する。

    構想から約12年。開院への道のり

    画像: 開院初日の病院エントランス。院内には薬局もあり診察後すぐに薬が処方される

    開院初日の病院エントランス。院内には薬局もあり診察後すぐに薬が処方される

     入間病院開設の構想は、2009年にまとめられた1つの報告書をきっかけに始まり、約12年の歳月を経て開院を迎えた。航空自衛隊だけではなく、全自衛隊で行われた自衛隊病院改革の概要も確認しながら、入間病院開院までの歴史を振り返ろう。

     2009年8月、「自衛隊病院等在り方検討委員会」による報告書が提出された。この委員会は、国防・災害派遣を含め、自衛隊をとりまく環境の変化に合わせて自衛隊病院など「自衛隊衛生」の取り組み全般を見直そうというもので、改善策が示されていた。

     それを原案とし、自衛隊病院の統合・改組により、当時、全国に16あった自衛隊病院を10程度に集約して高機能化すること、入間基地隣接地に、空自の持つ3病院(青森県・三沢病院、岐阜県・岐阜病院、沖縄県・那覇病院)を廃止する形で新病院が構想されることになった。

     東京都世田谷区の自衛隊中央病院(全国にある自衛隊病院の中枢で、「最終後送(注)病院」として重症の傷病者を受け入れる、日本医療の“最後のとりで”)に距離が近いこと、患者搬送に有用な輸送航空部隊と2000メートル級の滑走路を持つ飛行場があること、航空医学機能の強化に必要な「航空医学実験隊」があったことなどから、入間地域が選ばれた。

    注:戦場の前線や災害現場などで発生した傷病者を病院に搬送すること。

    入間病院ができるまで

     建設用地は、入間基地内にある国有地で、もともと旧陸軍航空士官学校があったが、戦後にアメリカ軍に接収・返還された留保地だ。隣接地には、災害時に医療活動拠点として使用でき、平時は公共利用ができる運動場も併せて設けられることになった。

     18年から建設工事が始まり、ついに開院に至った。建設総工費約160億円、構想段階から完成までおよそ12年の大事業であった。

    写真/防衛省

    1:建設用地は、もともと旧陸軍航空士官学校があったが、戦後にアメリカ軍に接収・返還された留保地。樹木が茂っており、伐採からスタートした。

    写真/防衛省

    2:用地の樹木伐採が終了し、造成が行われる。

    写真/防衛省

    3:大型重機やクレーンなどを運用し、病院建屋の建設が進む。

    万全の体制を整えた入間病院の医療設備

    画像: 1週間停電が続いても病院機能を維持できる発電装置

    1週間停電が続いても病院機能を維持できる発電装置

     航空医学診療科を有する入間病院は、有事・災害時にも十分に力を発揮できるように設備が整えられている。どのような設備となっているのか紹介しよう。

    検査と手術を同時に行える最新設備を導入

    ベッドが不足したときには、ロビーなどのソファがベッドに早変わりする

    廊下や待合室などには酸素や吸引用のバルブが準備されている

     入間病院の病床数は60、うちHCU(高度治療室)が6床。災害時には約2倍の120床に増床できるよう準備された。災害時などベッドが不足したときには、ロビーなどのソファがベッドに早変わりする。また、病床を臨時に増やすときのために、廊下や待合室などに酸素や吸引用のバルブが準備されている。

    画像: 検査と手術を同時に行える最新設備を導入

     建屋は免震構造。埼玉県の条例に基づき、敷地外への雨水の流出を抑制するための浸透施設が地下に設置されている。

    画像: リハビリ用の広場は、災害時にはトリアージスペースとなる

    リハビリ用の広場は、災害時にはトリアージスペースとなる

     また、災害時に治療優先度を選別するトリアージが行えるよう、病院前には広いリハビリスペースも確保した。

    画像: 血管造影検査と手術の両対応が可能な「ハイブリッド手術室」

    血管造影検査と手術の両対応が可能な「ハイブリッド手術室」

     設備面では、目玉として「ハイブリッド手術室」を完備。従来別の部屋でしか行えなかった、血管造影X線撮影装置を備える手術室で、心臓手術など高度な医療技術に対応できる。

    「自衛隊内外からの期待に応えたい」開院に携わった自衛官の声

     無事開院を迎えた入間病院だが、これは新たな任務の始まりに過ぎない。今後の運営について、開院計画に携わった2人の自衛官に話を伺った。

    「思い」を受け継ぎ期待に応える病院に

    【桒田成雄空将補・航空幕僚監部首席衛生官】
    空自衛生部隊のトップとして、入間病院開院に向けた予算措置などを指揮

    「平素隊員の健康を維持管理することはもちろん、患者空輸の拠点としての役割を果たすこと。一般市民の救急患者受け入れを通じて地域住民の生命を守ること。これらの機能を果たし、自衛隊内外からの期待に応えたいですね。

     この病院には、空自の3つの病院で医療に関わってきた人々、計画を推進した人々の思いが込められています。受け継いだ伝統は生かし、新たな医療環境づくりにまい進します」

    長かったなという思い。有効に活用してほしい

    【柏崎利昌2等空佐】
    自衛隊中央病院衛生資材部臨床薬剤課長。入間病院の構想段階である2010年に発足した、初代準備室の1人

    「私は計画作りの初期段階に関わりました。何事も手探りで、各種事態に対応し得る病院をつくるため、いろいろ勉強したことを覚えています。大変だったのは、財務省との予算折衝です。そのために財務省に何度も足を運びました。

     新時代の自衛隊病院がどうあるべきか一生懸命に考え、きちんと活動できるようにつくったつもりです。教育に、そして実際の医療に、病院を有効に活用してもらいたいですね」

    (MAMOR2022年7月号)

    <文/臼井総理 写真/増元幸司>

    空飛ぶ自衛隊病院

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