•  日常的に訓練で野営を行う自衛官は、いわばキャンプのプロといえるだろう。実戦的な野外活動のテクニックや裏技の知識が豊富なはずだ。そこで、ゆるキャン愛好家でも応用できる、自然のなかでも快適かつ安全にキャンプを楽しむことができる方法の数々を聞いてみた。

    食事編

    着火剤になる便利な物

     火が起きにくい場合、身の周りには着火剤の代わりになるものがたくさんある。落ちている針葉樹の葉やマツボックリ、ガマの穂などの植物のほか、ポテトチップスなども着火剤になるので、火起こしに困ったら活用してみよう。

    食材の解凍は移動中に

     凍った食品の大きさや厚さにもよるが、常温で解凍するには、おおむね3、4時間程度はかかる。家から凍った食材を持ってキャンプ場へ移動する場合は、保冷剤などを使わず持っていくと自然解凍するので調理時間の短縮になる。

    灰は洗剤代わりになる

     たき火の後に残る灰を同量の水に溶けばアルカリ性溶液になり、油分やタンパク質の汚れを分解しやすくする効果がある。洗剤として代用でき、鍋や食器の油汚れもスッキリ落とせる。手が荒れる可能性があるので、使用時はゴム手袋を着用しよう。

    食材をカットして小分けにしておけば、調理時間の短縮になりゴミが出ない

    メニューごとや、1食分ごとなど、食材を小分けにしておくと、調理をする際に使いやすい

     キャンプ場に到着すると、テントを張り、火を起こし……と、意外とやることが多い。なので、事前に料理のメニューを決め、家で食材をカットして持ってくれば調理の時短になるし、野菜くずなどのゴミも出ないのでお勧めだ。

    Point:煮るだけ、焼くだけ、にしておくと効率的!

    食器にポリ袋をかぶせて使って洗い物を省略する

    ハイキングなどでは、休憩場所に水道があるとは限らない。飲料水を洗い物に使いたくない場合は食器にポリ袋をかぶせよう

     水道がない場所では食器を洗うのは面倒だ。そんなときの裏技が、ポリ袋を食器にかぶせ、そこに料理を盛りつけること。食器が汚れず洗う必要がなくなるため、節水にもなる上、かぶせるポリ袋を替えれば繰り返し食器を使うことができる。使用したポリ袋は持ち帰ろう。

    野生動物が来ないようニオイの出るものは処理

    食品類をコンテナボックスなどにひとまとめにしておくと、においが漏れないので、愛用している自衛官も多い

     自然の中のキャンプ場では、食材や残飯のにおいにつられてイノシシやシカ、カラスなどの野生動物や虫などが寄ってくることがある。そこで、においの出る食材やトレイ、包装、生ゴミなどはポリ袋や容器などに入れてしっかり密閉しておくようにしよう。

    缶切りなしでも缶詰が開けられる

    画像: 缶詰の底を、レンガや岩に擦り付けて削る。ある程度削れてきたら、削った面を上にして、缶詰の側面を強く押すと開く

    缶詰の底を、レンガや岩に擦り付けて削る。ある程度削れてきたら、削った面を上にして、缶詰の側面を強く押すと開く

     缶切りを忘れて缶詰が開けられないときは、岩やレンガ、コンクリートブロックなどで缶の底を擦り付けよう。缶を削り、中の汁がにじみ出てきたら、逆さにして、側面を強く押すと開く。

    Point:ふたの切り口でケガをしないよう注意!

    宿泊編

    No.26 ブルーシート、新聞紙、クラフトテープで簡易寝袋に

    画像: 中に入れる新聞紙を多くすると、それだけ保温性もアップする。形が崩れないようにクラフトテープはしっかりと巻こう

    中に入れる新聞紙を多くすると、それだけ保温性もアップする。形が崩れないようにクラフトテープはしっかりと巻こう

     ブルーシートを納豆の「わらづと」のような形にして、両端をまとめてクラフトテープで巻きつけ、その中に新聞紙を敷き詰めることで、保温性・防水性のある即席の簡易寝袋になる。キャンプだけでなく、災害時の避難所などでも役立つテクニックなので覚えておこう。

    たき火の消火は土で完全に

     たき火は寝る前に消しておきたい。水をかけるだけだと、火が消えても炭やまきの内部に燃えさしがくすぶっていて、時間がたつと、また燃えだすことがある。上から土をかけて空気を遮断すれば完全に消火できるので安心だ。たき火をするときは、近くに消火用の土を盛っておこう。

    湯たんぽで体力低下を防止

     野外で活動して足が冷えると、体温が低下し体力が奪われる。そうならないように、足を温めることを意識しよう。空のペットボトルにお湯を満たすことで簡易的な湯たんぽを作ることができる。寒い場所でのキャンプは、湯たんぽを寝袋に入れて足先を温めて寝るようにしよう。

    就寝時の底冷えを防ぐには落ち葉を集めて使う

    画像: テントの下に落ち葉を敷くことで、断熱材の役割を果たすだけでなく、寝心地もアップ。たっぷりと敷き詰めよう

    テントの下に落ち葉を敷くことで、断熱材の役割を果たすだけでなく、寝心地もアップ。たっぷりと敷き詰めよう

     夜間に気温が下がる山では、底冷え対策が重要だ。底冷えを防ぐには、テントと地面の間に落ち葉を敷き詰めて断熱材にするといい。地面からくる冷気で体温を低下させないように、テント内にはマットを敷いてその上に寝袋を置くことで、さらに温かく寝られるだろう。

    周囲に排水用の溝を掘り、雨水のテントへの浸水を防ぐ

    画像: 水はけの悪い場所や雨が降る可能性があるときは浸水対策を。キャンプ場によっては穴掘りが禁止されているので確認しよう

    水はけの悪い場所や雨が降る可能性があるときは浸水対策を。キャンプ場によっては穴掘りが禁止されているので確認しよう

     寝ている間に雨が降り、テントの下に水が浸入することがある。濡れると不快なうえ、体を冷やしてしまうことも。それを防ぐため、テントの周囲を囲むように側溝を掘り、さらに低い土地に向けて排水溝を掘って、テントを流れ落ちる雨水を逃がしてやるようにしよう。

    トラブル編

    足首をねんざしたときに役立つ応急処置法

    帯状のものを足に巻くときは、帯の中心を足の裏に当て、クロスしながら足首に巻きつけ、最後に足の甲で結ぼう

     ハイキング中に足首をねんざした場合、タオルなどで縛って固定すると応急処置になる。また、食品用ラップなど帯状のものをねんざした足の先に交互に8の字に巻き、最後に足の甲と裏をぐるぐる巻いても固定することができる。病院に行くまでの応急処置として覚えておこう。

    遭難したら鏡の反射を利用して発見してもらう

    画像: 発見してもらう確率を上げるために、航空機が見えている間は辛抱強く鏡を反射させ続けよう

    発見してもらう確率を上げるために、航空機が見えている間は辛抱強く鏡を反射させ続けよう

     山で遭難したら、化粧コンパクトなどの鏡や腕時計のガラス面を太陽光に反射させて助けを呼ぼう。鏡を動かして角度を変えると光が点滅するように見え、遠くまで届くので、航空機に乗った捜索者が見つけやすくなる。発見されやすいように、空が見える開けた場所で行おう。

    遭難時はやみくもに下山しない

     山で道に迷った場合、やみくもに山を下らず山頂を目指したほうが発見される確率が高まる場合がある。山は裾にいくにつれて面積が広くなるため、下ると捜索範囲が広がり見つかりにくいが、山頂付近なら捜索範囲も狭まるため、発見されやすくなるからだ。

    ヒルが付いたら塩をかける

     茂みなどを歩くとヒルにかまれることがある。ヒルにかまれた場合、あわてて引き抜くと傷口が広がるので、タバコの火をヒルに押し付けるか塩をかけるのがいい。山にはほかにも毒を持つ生物がいるので、毒液を吸引する道具を携行するといいだろう。

    山中でクマに遭遇してしまった!

     クマは動くものを追い掛ける習性があるので、背中を見せて走ったりするのは厳禁。荷物を遠くに投げてクマの気をそらし、クマから視線を外さずにゆっくりと後ずさりしながら離れよう。また、山に入るときはクマよけの鈴を鳴らしながら歩くと遭遇する確率を減らせるため、身に着けておこう。

    (MAMOR2022年5月号)

    <文/魚本拓 写真/村上淳>

    自衛隊式キャンプ入門

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