現代は、“ゆるキャン”、“ソロキャン”などの新語ができるほどのキャンプ・ブームですが、自衛隊で「キャンプ」といえば「駐屯地」、「野営」を意味します。中でも陸上自衛隊は野営のプロフェッショナル。そこで、私たちの“ゆるーい”キャンプにも役立つ、自衛隊式のキャンプ術を教えていただきましょう。
自衛隊のガチな野営を知るために ガチVSゆる なにが違うか比べてみた
女子高校生たちがキャンプを通じて友情を深めていくアニメ『ゆるキャン△』。キャンプ・ブームの火付け役ともいえる作品で、手軽で簡易的なキャンプ(ゆるいキャンプ)を楽しむ人が増えている。片や自衛隊の野営(キャンプ)は、作戦遂行のための宿泊。その実態を知るために、「ゆるい」キャンプと、自衛隊の「ガチな」野営(一例)を、シーンごとに比べてみた。
ゆる:アニメ『ゆるキャン△』に登場する女子高校生の5人は、ワイワイとゆるいキャンプをしながら共同作業をするなかで、互いの距離感を縮めていく。
ガチ:自衛隊での野営は任務の一環であり、戦術行動を伴う。宿泊拠点が敵に見つからないよう、警戒監視や擬装が欠かせない、国防のためのキャンプ、いわば「ガチキャン」だ。
【マンガ・アニメ『ゆるキャン△』】
『まんがタイムきららフォワード』(芳文社、2015~19年)、『COMIC FUZ』(芳文社、19年~)で連載された、作者あfろによる漫画作品。同作を原作としてアニメ(AT-Xほか、18年1~3月、21年1~4月)やドラマ(テレビ東京系、20年1~3月、21年4〜6月)も制作された。志摩リン、各務原なでしこ、大垣千明、犬山あおい、斉藤恵那の主要5人の女子高校生とサークル顧問の鳥羽美波たちがゆるいキャンプに興じる様子が描かれる。2022年初夏には映画版(アニメ)も公開予定。
拠点の設営
キャンプ場所に着いたら、まず行うのが拠点作り。テントやタープを張り、過ごしやすい空間をつくろう。
ゆる:キャンプ場でテントを設営
キャンプ場には、テントを張る場所=サイトが整備されている。中には、トイレやシャワーはもちろん、温泉がある所も。最近では、テントが設営済みのうえ、キャンプ用品や食事まで完備され、手軽に利用できる施設もある。
ガチ:警戒のため擬装して設営
自衛隊の野営では、敵に発見されにくく、警戒や地形の防護が受けやすい場所を拠点に選ぶ。次に、地面を掘って指揮所やえん体などを設営し、陣地を構築。さらに、天幕(テント)の周囲に排水溝を掘って雨水の侵入を防ぐ。
食事
キャンプのだいご味ともいえるのが、屋外での食事だろう。普段の食事とは違う、開放感が味わえるのが魅力だ。
ゆる:調理を楽しむ凝った料理
キャンプでの楽しみといえば食事。最近では、キャンプ料理を紹介したレシピ本が多数出版され凝った料理に挑戦する人も増えている。アルミ製飯ごうや、ちゅう鉄製鍋などの調理器具が人気、野点セットまで販売されている。
ガチ:調理用装備で食事が充実
野営の際にはレトルト食品などの戦闘糧食が配給される。大規模な演習では、最大250人分の調理ができる野外炊具1号が活躍。陸上自衛隊では、需品学校で野外調理を担う炊事要員の養成を行っている。
自然を満喫
キャンプの大きな魅力の1つが大自然の風景を満喫すること。季節ごとの移り変わりを感じて、心を癒やされたい。
ゆる:自然の景色を満喫できる
キャンプ場の多くは豊かな自然環境のなかにあり、山や川、湖などの、四季折々変化する自然を満喫するのもキャンプのだいご味。最近では、ランキング形式で、人気キャンプ場を紹介する専門サイトや口コミサイトもある。
ガチ:隠れるため自然に溶け込む
戦術行動の間に休息をとる野営では、当然、自然と触れ合う余裕などなく、敵に見つからないよう、自然に溶け込まなくてはならない。迷彩服に身を包むことはもちろん、迷彩用顔料(ドーラン)を顔に塗って擬装も行うのだ。
キャンプ生活
キャンプならではの時間といえば、たき火を囲むなどして過ごすひととき。ひと工夫してさらに充実させよう。
ゆる:自然の中で癒やされる時間
見ているだけで癒やされるたき火がブームになっている。仲間とおしゃべりする、お気に入りの音楽をかける、ボードゲームを楽しむ、本を読む、お酒を飲むなど、自然の中で癒やされながらまったりした時間を味わおう。
ガチ:敵の攻撃に備えつつ休息
自衛隊の野営では、警戒任務につく隊員は歩哨に立ち、休息する隊員はテント内で仮眠をとるなど、敵の襲撃を警戒する態勢を維持しながら順番に休息する。敵を発見したり攻撃を受けたりした場合、必要な人員で即時対応する。
入浴
キャンプといえど、風呂やシャワーですっきりしたい人もいるはず。キャンプならではのお風呂事情を紹介。
ゆる:近くの温泉で癒やされる
1泊程度のキャンプならお風呂はなし、という人もいるが、キャンプ場内や、近くに温泉があるキャンプ場もたくさんある。体の汚れを洗い流し、旅の疲れを癒やす温泉を楽しめるのも、ゆるいキャンプならではのだいご味だ。
ガチ:風呂に入れないことも多々
野営を伴う演習では、隊員たちは何日も風呂に入れない場合もある。そこで、長期に及ぶ演習の際には、心身の疲労を回復するための「野外入浴セット2型」という移動型の簡易浴場を使用することもある。
宿泊
風や草木の擦れる音、鳥の鳴き声など、キャンプ場での宿泊は自然を身近に感じられる。
ゆる:眠くなったらテントで寝る
キャンプの寝具といえばシュラフが定番だが、今やそれだけじゃない。宙に浮いて眠れるハンモックテントやエアマット、携帯用折り畳みベッドなどの安眠グッズが続々と登場。高級ベッドが用意されたグランピング(注)施設もある。
(注)グラマラス(魅力的な)とキャンピングを掛け合わせた造語。あらかじめテントやキャンプ道具が用意されているキャンプスタイルのこと
ガチ:厳しい自然のなかで眠る
作戦遂行のため、隊員たちには休息が必要だ。だが、厳しい自然環境のなかで野営せざるを得ない場合も。時には、警戒中に座ったまま仮眠をとることもあれば、雪山では雪洞を掘って中で一晩を過ごすこともあり、さまざまだ。
(MAMOR2022年5月号)
<文/魚本拓 写真/村上淳>