自衛隊の運用にあたり、指揮官が最良の行動方針を出せるように補佐する幕僚。幕僚は尉官以上の幹部自衛官が務めており、本人の能力や、教育終了後に配置される部隊の規模に合わせて段階的に教育を行って幕僚スタッフを育成している。上に行くほど狭き門となる自衛隊の幹部教育体制がどのようになっているのか、紹介しよう。
初級、上級と段階を踏み幹部自衛官の教育を受ける
幕僚への第一歩は幹部候補生採用試験の合格後に入る幹部候補生学校である。幹部候補生学校は、曹士の隊員を率いる幹部自衛官として必要な知識や技能を学ぶ学校だ。
卒業後は3尉または2尉に任官して幹部自衛官となり、部隊での勤務とともに各職種での初級幹部教育がスタートする。
陸上自衛隊では通信や輸送といった専門教育を行う各職種学校で8週から36週の幹部初級課程と10週から25週の幹部上級課程、海上自衛隊は1カ月から5カ月の艦艇乗艦による海上実習の後に術科学校での5週から26週の初級の幹部特技課程と20週から1年の中級幹部特技課程、航空自衛隊は術科学校での5週から39週の初級幹部特技課程と幹部学校で10週の幹部普通課程がある。
ここまでは幹部自衛官だとほぼ全員が受ける義務教育的な幹部教育課程となっている。
本格的な育成課程では、実践的な幕僚業務を学ぶ
職種を超えた幕僚への道は、この後から新たに始まる。陸自を一例に挙げると幹部上級課程の修了者のうち希望する志願者は、選抜により次の教育課程へと進んでいく。
最初は師団規模の部隊を指揮する能力、統率力や幕僚としての知識、技能を学ぶ指揮幕僚課程である。幹部上級課程からこの指揮幕僚課程へ進むには筆記や面接など2次にわたる選抜に合格しなければならないが、そのハードルはかなり高い。
学生数は約80人(海自は約30人、空自は約50人)とごく少数で、選抜の合格者数は1割程度といわれている。また受験できる回数は4回まで(海自は3回まで、空自は4回まで)と制限されている。
陸・海・空各自衛隊の教育期間は陸自が67週、海自が1年、空自が47週で、さまざまな戦況でのシミュレーションを行う図上演習を中心に戦史の研究や作戦・部隊運用などを、大きな部隊での幕僚としての実践的な業務を徹底的に学習。
指揮幕僚課程の修了者は、師団や艦隊、航空方面隊などの幕僚に就く。この課程になると、海外の軍隊からの留学生も在籍する。学生の中には在学中に一般大学の大学院に進学したりアメリカ軍の幕僚学校へ留学する者もいる。
将になるために必要な超難関の幹部高級課程
指揮幕僚課程修了者が次へ進むのが幹部高級課程である。師団以上の部隊の運用や高級指揮官・幕僚の育成を目的としたコースで、将官以上の階級になるにはこれらの課程を修了しなければならない。
受講対象者は2佐以上の大隊長などの指揮官経験者で、定員は各自衛隊とも20人程度。全自衛官約24万7000人、うち幹部自衛官約4万2000人の中からごく少数のエリートのみが選ばれる。教育期間は陸自と空自が25週、海自が6カ月。
幹部高級課程では、指揮幕僚課程よりさらに大きな組織での戦略や安全保障などの教育、研究がメインとなり、外部からの講師を招いての講義などで、広い視野と知見を獲得した自衛隊の中核となる人材を養成している。なお指揮幕僚課程、幹部高級課程の教育は、陸・海・空ともに同じ防衛省目黒地区(東京都)内の各教育機関で行われている。
幹部高級課程を修了した1佐、2佐を対象とした教育機関としては、自衛隊の最高学府である統合幕僚学校の統合高級課程がある。定員は全自衛隊で50人程度、教育期間は約5カ月で、課程修了後は統合幕僚監部の幕僚などに就く。
<文/古里学>
(MAMOR2022年3月号)