指揮官の指揮手順には、幕僚の補佐が必要不可欠だ。陸・海・空各自衛隊は、任務や活動するフィールドも異なるため、幕僚の補佐も多岐にわたる。幕僚がどのような補佐をしているか、陸上自衛隊の幕僚活動を例に、順を追って解説しよう。
指揮官の指揮手順には「状況判断」、「決心」、「計画」、「命令」、「実行」の5つのステップがあり、幕僚はそれぞれのステップ、状況に即して業務を遂行する。順を追ってそれぞれの補佐内容を説明しよう。
「状況判断」
指揮官に対して情報を提供
まず幕僚は指揮官の方針の決定、状況判断に必要な、今回の任務に関する最新の情報を収集し、指揮官に報告する。指揮官の判断を補佐するものであるから、客観的に、そして簡潔にまとまった情報提供でなければならない。
また指揮官が何を求めているかその立場に立って考え、情報に優先順位をつけていく。それらの情報はいったん幕僚長のもとに集められ、幕僚長が処理・判断した後に指揮官へと上げられる。
「決心」
方針に基づき幕僚見積を作成
幕僚長からの報告をもとに指揮官は指針を決定される。次に幕僚はその任務達成に影響を与えるさまざまな要素を分析し、構想を確立するための「幕僚見積」を立てる。
幕僚見積には、任務を遂行する空域や地域の気象、天候、地形などの特性を把握し考察する「地域見積」、任務の対象や敵の行動予測とその影響、弱点などを分析・明確化する「情報見積」、任務や指針を基に時間(時期)、空間(地域)、資源(兵力)などの要素を複合的に検討し、最良の行動方針を選び出す「作戦見積」などがある。
また必ずしも完成した見積だけを提出するのではなく、指揮官の一助になるのであれば適時報告を行う。
「計画」
任務の具体的内容を盛り込む
幕僚長、幕僚は指揮官の指示で随時見積をバージョンアップして細部を詰めていき、作戦計画に落とし込んで指揮官の計画の策定を補佐する。
なお計画とは指揮官の構想を具体化したものであり命令作成の基礎になるものであるから、内容が一貫しているとともに状況に対応できる融通性、適合性を念頭において作成していく必要がある。また、その計画が実現可能であるということは言うまでもないだろう。
「命令」
指揮官の命令完遂のため補佐
計画を策定した後、指揮官は命令を下達する。
これまでの計画の段階では、構想の具体化のプランとしてまだ不確実な要素も含まれており、状況に合わせて対応するプランA、Bなどが用意されている。しかし命令においては、指揮官の断固とした意志に基づいて実行されるため、不確実な要素は全て排除される。
指揮官が命令を下達したときは、その実行のために、幕僚は部隊を全力でバックアップしていかなければならない。
「実行」
状況を確認し業務をサポート
命令の下達後は、幕僚は部隊の実行状況を確認して分析・評価し、徹底を図っていくとともに任務達成を後押しするよう対策を図る。幕僚は、適宜部隊を視察して状況を指揮官に報告する。そして指揮官の命令下で部隊の指導・監督を行う。
<文/古里学>
(MAMOR2022年3月号)