米国等における米海兵隊との実動訓練「アイアンフィスト１８」（AAV上陸後に展開する部隊）（出典：陸上自衛隊HPより引用）
私たちが生活する現代日本を守っている自衛隊の幕僚体制が、どのようになっているか、気になるところだ。指揮官との関係性や各種幕僚活動、教育体制、制度の重要性など順に紹介していこう。
指揮官と幕僚の関係を学級会を例に解説
自衛隊の運用にあたり、指揮官が最良の行動方針を出せるように補佐するのが幕僚の業務だ。
この指揮官と幕僚との関係性を、私たちにとって身近な組織である、学校のクラスを例にして分かりやすく説明しよう。
校外学習の行き先などを計画するマモル中学3年B組（イメージ
マモル中学3年B組では、担任教師（指揮官）、学級委員長（幕僚長）、レクリエーション委員2人（幕僚）が、校外学習の行先を決めるために学級会を開いている。そのやり取りを例にして幕僚体制を説明しよう。
担任講師「校外学習の行き先だけど、みんなで話し合って決めてほしい（指針）」
学級委員長「クラスでアンケートを取った結果、動物園と遊園地、博物館が候補になりました。遊園地はお金がかかり、博物館は改装工事で休館中です。動物園には希少動物を展示するコーナーが開設されたとニュースで見ました（情報の提供）」
学級委員長「動物の生態について学習できる動物園はどうでしょうか？（意見の提出）」
担任講師「そうだね。では、行き先は動物園にしましょう（指針の決定）」
学級委員長「はい、分かりました。（指針の理解）Aさん、Bさん、調べものをお願い」
レクリエーション委員A「早速調べたよ！ 動物園は駅から遠いので、電車よりも観光バスで行ったほうがいいと思う。園内には、大型動物のエサやり体験や小動物と触れ合えるコーナーがあるみたい（地域見積）」
レクリエーション委員B「ニュースの影響もあり、希少動物コーナーは混雑が予想されます。ホームページでは、整理券の案内もあったから、混雑を回避するなら、早い時間に入園したほうがいいね（情報見積）」
レクリエーション委員A・B「学級委員長、混雑回避のためいつもの登校時間よりも早く出発するAプランと、いつもと同じ登校時間に集合・出発するBプランを考えてみました」
学級委員長「2人ともありがとう。Aプランが楽しめそう。先生、どうでしょうか？（見積の提出）」
担任講師「よく調べたね。希少動物を楽しみにしている生徒も多いみたいだし、Aプランにしようか（構想の決定）」
担任講師「当日の集合時間や、1人当たりの必要金額などを計算してくれるかな？ 校外学習のしおりの作成もお願いします」
学級委員長、レクリエーション委員A・B「はい！ 楽しみですね」
情報収集から決定に至るプロセスが基本
平成２６年度米国における米陸軍との実動訓練・射撃訓練 （５．５６ｍｍ機関銃）（出典：陸上自衛隊HPより引用）
まず担任教師が「校外学習の行き先を決める」という「指針」を出したとする。それに対し学級委員長は、レクリエーション委員に対し、クラス全員の希望などの情報提供とともに、移動手段や訪問先に関して意見を提出するよう指示を出す。学級委員長は提出された情報をまとめ、担任教師に「情報の提供」、「意見の提出」を行い、担任教師はそれらを基に状況判断や決心をし、「動物園へ行く」という「指針の決定」を行う。
担任教師が決心した指針を理解した学級委員長は、レクリエーション委員たちに動物園までの移動手段や園内の展示情報などを調べるよう指示を出す。それを受けてレクリエーション委員たちは、分担して情報を収集し、さらにその情報をもとにどのようなプランが考えられるのかという「見積」を学級委員長に説明・提案する。
レクリエーション委員たちの情報によると、動物園までは電車よりも観光バスが適していること、園内は体験コーナーが充実していることが分かった。ほかにも、一部展示は当日に整理券が配布される、などの情報を基にした見積が示された。
学級委員長は、これらの見積を整理して担任教師に提出する。担任教師はそこから「構想の決定」を行い校外学習の準備を進めるよう指示を出す。
このように幕僚活動は、日ごろわれわれが何か行動しようとするときに行っている情報収集から決定に至るプロセスがその基本である。自衛隊でも幕僚は、指揮官が迅速かつ最良の選択ができるよう活動しているのだ。
＜文／古里学 イラスト／朝日メディアインターナショナル＞
（MAMOR2022年3月号）
