2021年10月、航空自衛隊第41教育飛行隊が、鳥取県の美保基地から静岡県の浜松基地に引っ越した。部隊の引っ越しは、そこで働く隊員の職場や隊舎を新たに作る必要があり、何年にもわたって計画を進める大規模なものだ。しかも、その間に任務を止めるわけにはいかない。ではどうやって引っ越ししたのか?めったに見られない自衛隊航空部隊の引っ越しに密着した。
後編となる今回は、浜松基地での引越しの様子をお届けしよう。
学生のため、できる限り最良の環境で迎え入れる
21年2月 準備班立ち上げ
美保基地で引っ越しの準備計画が進むと同時に、浜松基地でも第41教育飛行隊の受け入れ業務が始まる。準備班長として業務を担当した倉岡土嘉2等空佐は「新しく作った格納庫や隊舎の整備など業務は多かったです。掃除からカーペット張りまで何でもやりました」と受け入れ準備の様子を語る。
21年4月 規則の改訂準備
教官たちの勤務場所、教場などの整備や隊員の食・住環境の整備も重要だが、加えてT−400による飛行訓練の準備も必要だった。
「輸送機部隊と戦闘機部隊では、運用の思想や細部要領が全然違います。第31、32、41の3つの教育飛行隊が訓練で使う空域や時間帯など飛行運用面の調整、訓練に必要な規則の改訂を進めました。19年11月より始まった検証飛行も複数回実施しています。新しく仲間を迎えるため、どの部隊も前向きに協力してくれたので助かりました」と倉岡2佐。さまざまな準備は、ほぼノウハウゼロのところから現場の隊員で知恵を持ち寄り、手探りで進められていった。
21年9月1日 部隊移動開始
浜松基地の環境が整った21年9月ごろから順次荷物・器材や人員の移動が始まった。美保基地から3度に分けて発送される器材や荷物には、移転先のどこで使うかを明示したラベルを貼り、細々としたものは箱詰めをするなど、荷造りの作業が進められる。
21年10月1日 隊員の移動開始
隊員たちも順次浜松へ。自身や家族の予定に合わせ、航空機や鉄道などを利用して移動した。
21年10月20日 学生が移動
一方で30人の学生は、C−2輸送機を使った移動訓練に同乗し、浜松へとやってきた。到着した学生たちは早速、自分たちの荷物を隊舎に運び入れ、自室の整理。学生が皆で使う家具や器材も自力で搬入した。隊舎にはエレベーターがないため、バケツリレー式に運ぶのは大変だったとある学生が話していた。
21年10月28日 移動終了
10月28日の朝、最後の便として教育飛行隊長の乗るT−400練習機が美保基地を離陸。部隊のしんがりとして浜松基地に到着した。
21年10月29日 編成完結式典
翌29日には地元自治体からの来賓らが招かれ第41教育飛行隊の部隊編成完結式典を実施。熊谷空将補は「歴史的な1日ではあるが、第41教育飛行隊の改編事業としては通過点に過ぎない。既存の部隊と心を通わせ1つになって進みたい」と語る。この後は飛行訓練に向けて準備を行い、上級司令部である航空教育集団司令官の受閲を経て、浜松での飛行訓練が正式に開始される予定だ。
美保での第41教育飛行隊の歴史はひと区切りとなったが、これから浜松で新しい歴史が始まる。日本全国、さらには世界の空を駆け巡る若鷲たちを、今後も鍛え上げてくれることを期待しよう。
第41教育飛行隊の引っ越しスケジュール概要
2021.02:【浜松】第41教育飛行隊準備班発足
2021.04:【浜松】訓練に必要な規則の改訂準備
2021.07〜:【美保】器材の梱包開始/書類整理開始 【美保】3回目の検証飛行/格納庫完成/教場完成/隊舎のリニューアル完了
2021.09.01:1回目の隊員移動 【浜松】4回目の検証飛行
2021.09.22:【美保】シミュレーター訓練終了
2021.09.27:2回目の隊員移動 【美保】1回目のT-400移動
2021.09.28:【美保】1回目の器材運搬 【浜松】1回目の器材到着・荷ほどき
2021.10.12:【美保】2回目のT-400移動
2021.10.15:【美保】部隊壮行会 【浜松】5回目の隊員移動
2021.10.19:【美保】2回目の器材運搬/3回目のT-400移動
2021.10.20:学生の移動 【浜松】2回目の器材到着・荷ほどき
2021.10.25:【美保】3回目の器材運搬 【浜松】3回目の器材到着・荷ほどき
2021.10.28:【美保】4回目のT-400移動
2021.10.29:部隊編成完結式
<文/臼井総理 撮影/増元幸司>
(MAMOR2022年2月号)