古来、日本には武道にゆかりのある「心技体」という言葉があります。精神力(心)・ 技術(技)・ 体力(体)を鍛錬し、その3つを調和させることで真価を発揮できるといわれています。東京2020オリンピックで、自衛隊体育学校に所属するアスリートたちが、史上最多となる4種目5個のメダルを獲得しました。コロナ禍で1年延期となり開催の是非が論じられる中、選手たちはいかにして「心技体」の最初に位置する「心」を整え、栄光を勝ち得たのでしょうか?
フェンシング男子エペ団体 金メダル:山田 優選手
フェンシング・エペ男子団体戦で主軸として活躍、金メダル獲得に大きな役割を果たした山田優2等陸尉。団体戦に先駆けて行われた個人戦(6位入賞)のほうが重圧は大きかったと言う。
「世界ランキング的にも注目されていましたし、個人戦のほうがメダルのチャンスがあると思っていたのですが、結果的にメダルには届かず、自分で自分のことを信じられなくなっていました。団体戦ではチームメイトが自分を信じてくれた分、気持ちを切り替えて挑み、結果を出すことができました」
現在は第一人者として活躍するが、競技人生では厳しい時期も過ごした。
「2014年に世界ジュニア選手権で優勝したあと、周りの選手が結果を出す中で自分だけ、成績を残せませんでした。今思うと、上を目指す気持ちが足りなかったのかもしれません」
そこから脱したきっかけは、同じフェンシング・エペで日本代表として活躍していた妻・里衣さんの存在だった。
「妻は真面目で練習も休むことなく、空いている時間もフィジカルトレーニングをして毎日頑張っていました。東京五輪の代表を目指していましたが、選んでもらえなかった。それでも『頑張ってね』と笑って引退していく妻を見て感じるものがありましたし、妻がかなえられなかった夢をかなえようと思いました」
山田2尉が語る、競技におけるメンタルの重要性
自衛隊体育学校という環境も後押しになった。
「そもそも体育学校を選んだ理由が、1人でなくみんなで頑張れる場を求めていたからでした。団体戦の前日には柔道の濱田(尚里)さんが金メダルを獲りましたが、うれしい反面、先を越されたことが悔しくて、自分も獲ってやるという気持ちになりました。所属するほかの競技の選手とも高めあうことができる場所だと思います」
競技におけるメンタルの重要性について、山田2尉はこう語る。
「フェンシングについて言えば、外国の選手のほうが体格や力は上で、臆したら終わり、というところがあるので気持ちは大事です。そしてスポーツに限らないと思いますが、自分と向き合うことも重要だと考えています。緊張や悪い状態の解消法も、自分を客観的に捉えることからつかめますから。
大切にしているのは試合でも練習でも楽しむということ。例えば子どもがいやいや勉強しているときは伸びないけれど、楽しんでゲームをしているときは失敗しても挑戦してどんどん上達しますよね。試合中でも、意識して楽しむ気持ちを引き出すことで、成功につながると思っています」
【山田優2等陸尉】
1994年生まれ。三重県出身。大学在学中の2014年にフェンシング世界ジュニア選手権で日本人初優勝を果たす。17年より自衛隊体育学校に所属。19年にW杯エペ団体で優勝、アジア選手権ではエペ個人で金メダルを獲得した
<文/松原孝臣 撮影/鈴木教雄 競技写真撮影/代表写真JMPA+佐貫直哉>
(MAMOR2022年2月号)