自衛隊とタッグを組んで世界の安定に寄与するアメリカ軍。ところで、私たちは、その重要なバディであるアメリカ軍のことを、どこまで知っているだろうか。アメリカ軍の歴史や体制など、基礎を説明しよう。
アメリカ軍は世界を6つに分割する世界最大規模の軍隊
1775年発足以来、アメリカ軍は第1次、第2次の両大戦をはじめ、さまざまな戦争に参加し、世界で有数の実戦経験が豊富な軍隊であり、その拡大過程で他国の軍隊を凌駕する大組織となっていった。現在アメリカ軍は陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊に加え、2019年から新たに宇宙軍が創設され6つの軍種から成っている。その規模は、総兵力が約138万人。そのうち、アメリカ国内にいるのは121万人。残りの17万人は世界各地に駐留している。
そのため、アメリカ軍は異なる軍種を実際に運用する目的で軍種横断的に統合軍を編成している。統合軍は機能別統合軍と地域別統合軍に分かれる。機能別統合軍は特殊作戦軍、戦略軍、輸送軍、サイバー軍の4つ、地域別統合軍はアフリカ軍、中央軍、欧州軍、北方軍、インド太平洋軍、南方軍の6つ。つまりアメリカ軍は世界を6つに分け、さらに宇宙も含め軍を展開しているのだ。
この巨大兵力を支えるため、1861年の南北戦争の勃発時から徴兵制を導入していた。後の第2次世界大戦中での1205万人、ベトナム戦争時での354万人の動員を可能にしていたのだが、1973年のベトナム戦争終結で停止となった。現在は、18歳から25歳のアメリカ国民男性および永住外国人男性は連邦選抜徴兵登録庁への徴兵登録が義務付けられ、有事の際に登録者からランダムに徴兵する制度が設けられている。
またアメリカでは連邦軍といわれるアメリカ常備軍以外にも、約45万人の州兵を擁する「国家警備隊」という軍事組織が存在する。州兵は州知事の指揮下で基本的には州内の治安維持を任務とするが、有事の際には連邦軍の予備役として大統領指揮下に入り、これまで朝鮮戦争をはじめコソボ紛争、アフガニスタン侵攻、イラク戦争など、世界各地の戦地に派遣されている。州兵は毎月1回の週末と年に2週間の訓練参加が義務づけられており、州によっては特殊部隊まで配備されている。
州兵以外にも陸・空軍、海兵隊合わせて約31万人が予備役として登録され、有事の際や訓練時に動員可能だ。それらを合わせるとアメリカの総兵力は218万人ほどとなり、小さな国家並みの規模を誇る。
戦略拠点の日本に兵員、装備を投入
6つの地域別統合軍のうち、最も広いエリアを統括しているのがインド太平洋軍で、太平洋陸軍、太平洋艦隊、太平洋海兵隊、太平洋空軍で構成される。在日アメリカ軍はその隷下だ。中国、ロシアに隣接する最前線に位置しており、アメリカ軍にとっての重要戦略拠点となる。
2021年3月現在の在日アメリカ軍人数は約5万5000人、このうち海と空から敵地の最前線に投入される海兵隊は、第3海兵師団と第1海兵航空団の隊員約2万人弱を占めている。太平洋海兵隊のうち、1個海兵隊機動展開部隊を配置しているのは、アメリカ本土と日本だけだ。これらの兵員が基地などアメリカ軍が管理・共同使用する全国131の施設を使用している。
また、太平洋艦隊のなかで西太平洋とインド洋を担当するのは第7艦隊だが、その中心となる空母打撃群は、横須賀を母港としている。
6つの軍種から成る世界最大規模のアメリカ軍、それぞれのデータを紹介
アメリカ陸軍(United States Army)
強力な機甲部隊を保有する軍隊
アメリカ独立戦争(1775~83年)時に組織された大陸軍を起源とする軍隊。歩兵などから成る戦闘部隊、砲兵・工兵・軍医・輸送・通信などを担当する戦闘支援部隊、「グリーンベレー」と呼ばれる特殊部隊などの部隊がある。
<SPEC>
設立:1784年 軍人数:47万9338人 予備役:18万7260人 州兵:33万5741人
アメリカ海軍(United States Navy)
各国に展開する世界最大の海軍
アメリカ独立戦争中の1775年に設立された大陸海軍を起源とする軍隊。人員、保有する艦艇、予算など、世界最大規模の海軍。アメリカ国内以外にも、世界各国に拠点を持ち、世界中の海洋に艦隊や部隊を展開している。
<SPEC>
設立:1794年 軍人数:34万3589人 予備役:5万8284人
アメリカ空軍(United States Air force)
制空権を奪うアメリカ軍の要
アメリカ陸軍から独立して設立された軍隊。7000機以上の航空機や大陸間弾道ミサイルを運用するほか、軍事衛星の打ち上げ・運用の中心的な役割を担う。世界各地に基地があり、世界各地の戦争や紛争に関与してきた。
<SPEC>
設立:1947年 軍人数:33万2331人 予備役:6万9836人 州兵:10万7333人
アメリカ宇宙軍(United States Space Force)
2019年に設立された新軍種
宇宙軍は、創設以前に分散していた宇宙関連部隊の組織、訓練や装備にかかる権限を集約し、戦力構築面で主導的な役割を果たすことを目的に創設された。今後も既存の各軍種から要員が移行し、約1万6000人程度になるとされる。
<SPEC>
設立:2019年 軍人数:6434人(予定、2022会計年度米国防省予算要求概要より)
アメリカ海兵隊(United States Marine Corps)
敵地に上陸する殴り込み部隊
アメリカ独立戦争中の1775年に設立された大陸海兵隊を起源とする軍隊。本土の防衛ではなく外征専門部隊であること、第2次世界大戦において敵地に強行上陸を行う水陸両用作戦を展開したことなどから「殴り込み部隊」とも呼ばれる。
<SPEC>
設立:1798年 軍人数:18万1561人 予備役:3万5683人
アメリカ沿岸警備隊(United States Coast Guard)
警備・海難救助を行う海の警察
国土安全保障省に属する軍隊。法の執行や海上警察権の行使も行う警察機関だが、アメリカ軍の一門と位置付けられている。海洋の安全、管理および保安に関する任務を、アメリカの港湾、領海、公海、他国の水域などで行う。
<SPEC>
設立:1915年 軍人数:4万538人 予備役:6212人
※記事中の数字などは、アメリカ国防総省の下部組織である国防人員データ・センター(DMDC)が公開している資料(2021年3月の統計)を参照
【監修:飯柴智亮】
1973年生まれ。19歳でアメリカに渡り北ミシガン州立大に入学。99年にアメリカの永住権を取得し、アメリカ陸軍に入隊。日米合同演習では連絡将校として自衛隊と調整を行うなど、情報担当将校として活躍。2009年に退役し、現在は軍事コンサルタントとして活躍中
(MAMOR2021年9月号)
<文/古里学 地図作成/チルダ>