•  日本の平和は、世界各国間の外交や軍事による勢力争いなど、刻々と変化する国際情勢に大きく影響される。そのため、それを守るには、関係諸国の動きを正しく読み解き、適切に対処する必要がある。私たちも日ごろから理解に努めようと思っているが、複雑化する現代の国際状況を理解するのは、なかなか難しいものだ。

     そこでマモルは、「地図なら、スマートフォンの操作のように世界を直観的に理解できる」と考え、日本の防衛を読み解くためのマップをまとめた地図帳を作ってみた。

    部隊配置から防衛環境の推移が分かる

     冷戦が終結し、世界のパワーバランスが大きく動いたことにより、防衛省はわが国の防衛力を南西方面にシフトすることを防衛大綱で打ち出した。

     およそ20年前と比べて自衛隊の部隊配置がどのように変わっていったか、それを見ることによって日本を取り巻く安全保障環境の推移が見えてくる。

    日本の防衛の重心を北から南西へ移動させた背景とは?

    画像: 日本の防衛の重心を北から南西へ移動させた背景とは?

     この20年ほどの期間における自衛隊の部隊配置の一番大きな変化は、南西諸島の防衛の強化である。その背景には、21世紀に入ってから地域のパワーバランスが変化したことがある。1991年にソビエト連邦が崩壊し冷戦が終結。それまでの自衛隊は、北方からの脅威を対象として大規模な陸上兵力を動員して事態に対応する態勢をとっていた。しかしソ連の崩壊、ロシアの成立と時期を合わせるように改革開放政策をとって経済力を増大させた中国が台頭。日本にとって防衛の要とすべき地域は北方から南西島しょ部へとシフトしていったのである。

     ただ、経済力で中国に劣るといえども、旧ソ連の軍事力を引き継ぐロシアは軍事大国であり、日ロ間で北方領土問題を抱える中、リスクがなくなったわけではない。また北朝鮮からのミサイル発射実験などの軍事的な挑発も断続的に発生している。

    画像: 16式機動戦闘車

    16式機動戦闘車

     こうした状況下で自衛隊は、人、予算という限られたリソースを効率的、合理的に使うよう、近年、部隊の新編や配置転換、装備の整理を行ってきた。戦車から、より機動性に優れた機動戦闘車(注)への転換、護衛艦、潜水艦の増強、ミサイル部隊の南西諸島での新編、水陸機動団の新編など、南西域を重視しながら日本中をくまなく覆う態勢をとっている。

    注)機動戦闘車:装備した火砲で火力支援や対機甲戦闘を行う。機動性に優れるほか、輸送機によって空輸することができるため、遠隔地にも迅速に展開できる

    防衛力強化のため南西諸島に新編・移住された部隊

    画像: 防衛力強化のため南西諸島に新編・移住された部隊

     2014年以降だけでも、多くの部隊が新編。南西防衛への注力がうかがわれる。

    (1)空自:警戒航空団第603飛行隊(2014年・那覇)

     2014年に三沢基地の警戒航空隊第601飛行隊の13機のE-2C早期警戒機のうち4機を那覇基地に移転し、警戒航空隊第603飛行隊を新編した。

    (2)空自:第9航空団(2016年・那覇)

     1972年、那覇基地に編成された第83航空隊を廃止して新たに第9航空団として編成。2飛行隊編成で、F-15戦闘機40機に倍増、隊員は1500人からなる。

    (3)陸自:与那国沿岸監視隊(2016年・与那国)

     わが国最西端の国境の島である与那国島に新編。島内2カ所にレーダーを持ち、約120人の隊員が沿岸を航行する船舶などの監視、情報収集を行っている。

    (4)空自:南西航空方面隊(2017年・那覇)

     沖縄、奄美諸島の防空を主任務とする。司令部は那覇にあり、隷下の戦闘機部隊、レーダー警戒部隊、地対空ミサイル部隊が周辺の離島に展開している。

    (5)陸自:奄美警備隊(2019年・奄美)

     防衛上の空白地帯となっていた鹿児島島しょ部の態勢強化を図るために新編された離島警備部隊。警備隊本部及び本部中隊、普通科中隊、後方支援隊からなる。

    (6)陸自:宮古警備隊(2019年・宮古島)

     2019年、宮古島駐屯地の開設とともに新編。20年に第7高射特科群の約180人と、第302地対艦ミサイル中隊の約60人が宮古島駐屯地に移駐した。

    (7)陸自:第7高射特科群(移駐)(2020年・宮古島)

     第7高射特科群の主力が竹松駐屯地(長崎県)から宮古島駐屯地に移駐。03式中距離地対空誘導弾(中SAM)を運用する。

    (8)陸自:第302地対艦ミサイル中隊(2020年・宮古島)

    2020年3月、東シナ海と太平洋を隔てる要衡である宮古島に新編。12式地対艦誘導弾(SSM)(注)を保有、敵水上艦への対応を担う

    注)12式地対艦誘導弾:陸上から艦艇を攻撃するために使用する陸上自衛隊のミサイル。あらかじめプログラミングされたコースに従って飛翔し、洋上では低高度で目標に向かい命中する

    防衛力の増強とともに機動性を重視

    画像: 水陸両用車AAV7

    水陸両用車AAV7

    陸自:戦車、火砲を削減

     2014年に発表された防衛大綱では本州の師旅団は戦車を廃止。代わりにより機動性に富んだ装輪の機動戦闘車を導入することとなった。また約700両あった戦車、約600門あった火砲を、将来的にともに約300両(門)にまで削減することを目指す。

    陸自:南西にミサイル部隊を新編

     海洋進出を強める中国を念頭に、南西諸島におけるミサイル防衛を強化。2019年に奄美大島の瀬戸内分屯地に第301地対艦ミサイル中隊、翌20年に宮古島駐屯地に第302地対艦ミサイル中隊を新編。さらに22年度には第303地対艦ミサイル中隊を石垣島に配備体制する予定である。

    陸自:水陸機動団を新編

     西部方面普通科連隊を基幹に、水陸両用作戦(注)を担う水陸機動団(注)を2018年3月、相浦駐屯地などに新編。2個水陸機動連隊や水陸両用車AAV7を運用する戦闘上陸大隊などを中心に編成している。

    海自:第1航空隊(鹿屋)の哨戒機をP-3からP-1へ転換

     プロペラ機のP-3C哨戒機から、ジェットエンジンを積み、最新鋭の機能を搭載した国産機であるP-1哨戒機に、厚木、鹿屋、那覇、八戸の順で転換。防衛の重点を置く南西方面から優先して配置している。

    海自:潜水艦を22隻に増強

     2011年度以降の「防衛大綱」に基づき、中国の海洋進出を念頭に、潜水艦を16隻から22隻に増強する目標を掲げてきた。20年に進水した新型潜水艦『たいげい』(注)が部隊に投入されると22隻体制が実現する。

    海自:護衛艦を54隻に増強

     16防衛大綱時は32隻だった護衛艦を、南西方面における警戒監視の強化・拡大に応じて14個護衛隊、新型護衛艦を含む54隻に増強。

    共同:サイバー防護隊を新編

     インターネットなどの情報通信ネットワークに不正に侵入し、情報の抜き取りや改ざん、プログラムの破壊などを行うサイバー攻撃に対応するため、2014年3月に統合幕僚監部指揮通信システム隊に、陸・海・空各自衛隊にあったサイバー部隊を集めて新たにサイバー防護隊を編成。24時間態勢で自衛隊のネットワークの監視を行っている。

    共同:海上輸送部隊を新編(予定)

     島しょ部防衛強化の一環として、2023年度を目標に共同の部隊である海上輸送部隊を新編し、事態発生時には状況に応じて水陸機動団などを即応展開できる態勢を整備する。

    注)『たいげい』:新型の潜水艦で、探知能力が向上したソーナーや静粛性が向上した船体構造を採用し、既存の潜水艦より探知性能や被探知防止性能が向上した

    注)水陸機動団・水陸両用作戦:水陸機動団は、万が一、島しょを占拠された場合に地上だけでなく水上を浮上航行する能力を持つ装軌式の水陸両用車(AAV7)などを用いて速やかに上陸、奪回、確保をするための水陸両用作戦を行うことを任務とする部隊

    ※本特集内の地図は全て、概念を示すためのイメージ図です。地図上の範囲や航路、配置などは実際の正確なものではありません。

    (MAMOR2021年11月号)

    <文/古里学 写真提供/防衛省 地図製作/東海図版株式会社>

    マモル・アトラス

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