自衛隊にはさまざまなフォルムを持った特殊な装備品がたくさんある。その掃除方法はやはり特殊なのだろうか?戦車や航空機、護衛艦など、「これはどうやって洗うんだろう?」と疑問に思った装備品の掃除法を調べてみた。
C-1輸送機の掃除:機体は水で洗いエンジンは専用洗浄機で洗う

短距離での離着陸性能に優れた中型の国産輸送航空機
大型の輸送機の掃除は、高圧洗浄機を用いる。汚れを落としづらそうな機体の上面や高所は、ホースを使い掃除する。

水洗い後、洗剤を付けたブラシなどで汚れを落とす。乾いた洗剤が付着したままだと腐食の怖れがあるため、水洗いと交互に繰り返す
C―1輸送機には減速用の逆噴射装置があり機体側面に排気ガスのすすが付きやすいため、汚れがひどいときは、ブラシ類を使い手作業で掃除する。
エンジンの前部に洗浄機を取り付け、洗う。洗浄後エンジンを運転することで、内部に残っている水分を全て除去する
エンジン洗浄機
また、エンジン内部の掃除は、専用の道具、エンジン洗浄機(ウオーターウオッシュリング)を使う。内部のセンサーなどに浸水しないよう保護処置をした後、水で一気に洗浄。洗浄後は、エンジンを運転させ内部にたまった水を除去する。
輸送機(内部)の掃除:輸送機の貨物室は機体前方から後方に向けて掃き掃除をする

世界各国で採用され、最大92人の人員輸送が可能なC-130H輸送機

掃除は、貨物室の責任者である空中輸送員(ロードマスター)が行う
輸送機の貨物室には、貨物を出し入れするためのローラーや、折り畳み式の座席を設置するための溝がある。掃除の際はこれらの隙間にたまりやすい汚れを、機体前方から後方に向かって、ほうきで掃いてきれいにする。
戦闘機の掃除:機体に付着した排気のすすを念入りに落とす

航空自衛隊の主力戦闘機であるF-15戦闘機

普段は目につかない部分を洗剤を付けたブラシでこすって掃除をする整備員
水で機体の汚れを落とすのが基本。空気中に漂うちりや、編隊離陸の際の前方機からの排気ガスに含まれるすすなどが付きやすい主翼などは、洗剤を付けたブラシ類を使って、汚れを落とす。
P-3C哨戒機(海外)の清掃:微細な砂ぼこりから機体を守るため洗う

日本周辺海域で潜水艦や不審船を見つける海上自衛隊の航空機
海賊から民間船舶を守るため海上自衛隊はソマリア沖・アデン湾に部隊を派遣している。

機体の継ぎ目などに細かな砂が入り込まないよう、地上に駐機をしている際はカバーで覆ったり、ふたをするなど砂じん対策を行う
運用されているP−3C哨戒機は、現地特有のハムシン(高温の砂嵐)に吹き上げられた微細な砂ぼこりがあらゆる隙間に入り込むため、エンジン用の空気取り入れ口などに設置したフィルターを定期的に交換するなど、現地独自の掃除を行っている。
艦艇の掃除:航行に関わる隊員を除いた全員で掃除の場所を分担してブラシなどで掃除する

艦艇の掃除方法は共通している。写真は機雷などに対処する掃海母艦『ぶんご』

長期間の訓練を終えて、基地へ入港間近の護衛艦『いずも』。手の空いている隊員総出で「甲板流し」と呼ばれる掃除を行う。放水担当の隊員が甲板に水をまき、デッキブラシで汚れや塩分を洗い落とす

雪が降る地域では、出航前に艦艇に付着した雪や氷を落とす除雪(氷)作業が行われる。雪かきやブラシなどを使い、雪や氷を落としていく

艦砲の射撃訓練を行ったあと、砲内に付着するすすなどを落とすため、長い棒(洗桿)を砲内に入れて掃除。力が必要なため、大人数で行う
海上自衛隊の艦艇掃除は航行に関わる隊員を除き全員で掃除場所を分担することが多く、航海中に付着した汚れや塩分などを水で洗い、ブラシや掃布と呼ばれるばれん状のモップなどを使う。

艦艇後部の格納庫の掃除。ホースを使って洗い流し、細かな部分はブラシを使って掃除する

出航前にバルブ類を磨き、ゆるみがないか点検をする。作業上は整備に当たるが、掃除を兼ねて作業を行う
バルブ類なども点検を兼ねて掃除をする。きれいに磨くことで艦艇への愛着や、物品愛護の精神を養うのだ。

滑り止めと床をきれいに保つため、1度床のワックスを落としてから再度ワックスをかける

ワックスをかけた床が乾いたら、軍手をはめた手でなでて、わずかな汚れがないか確認する
食堂や廊下などは定期的に掃除を行う。基本は掃布などを使っての水拭きだが、転倒を防ぐため、水分を残さないように空拭きを行う。ちなみに海自では艦艇での生活が基本であるため、たとえ陸上の施設であっても、「甲板掃除」と呼ぶ。
艦艇の底はいつ清掃するの?

民間造船所のドライドックに入っている護衛艦『あまぎり』。普段は手入れしにくい艦の底部の修理や掃除などをここで行う
艦艇の海面下にある部分には、どうしてもフジツボなどの生物が付着する。これらをそのままにしておくと、艦が傷むだけでなく、水の抵抗が増えて燃費や航行速度にも影響する。
艦艇は定期的にドック入りして整備を行うが、その際に艦の底部まで清掃・点検を行う。これらの点検はドライドックという艦を入れて水を抜くことのできる施設で実施する。
(MAMOR2020年12月号)
<文/臼井総理>