•  自衛官は隊舎だけでなく、基地・駐屯地や、運用する車両、艦艇、航空機まで、あらゆるものを掃除する。どうしてそこまで掃除を徹底するのだろうか?

    新入隊員全てが経験する自衛隊の「掃除教育」

    画像: 陸上自衛隊青野原駐屯地の教育隊で共有スペースの掃除を行う新入隊員。教育期間中は毎日決まった時間に掃除を行い、班ごとに担当箇所を分担して行う

    陸上自衛隊青野原駐屯地の教育隊で共有スペースの掃除を行う新入隊員。教育期間中は毎日決まった時間に掃除を行い、班ごとに担当箇所を分担して行う

     自衛隊では、新入隊員は最初の3カ月間で行われる基礎教育中から、徹底して掃除や整理整頓を教え込まれる。それはとても厳しく、何度もやり直しをすることもあるという。なぜ掃除をみっちりと教えるのか、そこには自衛官として必要で明確な理由があった。

    画像: 教育期間中、教官に掃除の点検を受ける新入隊員たち。わずかなミスもやり直しにつながる

    教育期間中、教官に掃除の点検を受ける新入隊員たち。わずかなミスもやり直しにつながる

     自衛隊では、隊舎で共同生活をしながら新入隊員教育を受ける。掃除の時間は朝・夜の2回。例えば、陸上自衛隊 第117教育大隊では、それぞれ7時25分からの15分間と、21時10分からの30分間。隊員たちの居室はもちろん、トイレやシャワー室、教場、廊下、玄関、階段と、隊舎の隅々まで掃除する。作業時間の終わりには、教官が指でほこりを拭うなどして点検する。

    「入隊後一気に教えるのではなく、居室の掃き掃除から少しずつ教え、3カ月かけて教えるようにしています」

     こう語るのは、第117教育大隊助教の松村雄司3等陸曹。こうした教育は、防衛大学校高等工科学校なども含む、全ての自衛隊教育機関、部隊で行われている。

    自衛隊が掃除を重視する理由とは

    画像: 海上自衛隊第3術科学校にて旧海軍の徹甲弾を磨く学生。装備品を大切に扱う気持ちの醸成など、精神修養の意味合いもある。教育期間中、交代で掃除を行う

    海上自衛隊第3術科学校にて旧海軍の徹甲弾を磨く学生。装備品を大切に扱う気持ちの醸成など、精神修養の意味合いもある。教育期間中、交代で掃除を行う

     掃除を重視する理由の1つは、仕事と生活の場を清潔に保つため。隊員は基本的に駐屯地・基地内で集団生活を送るので、病気の予防につながる環境衛生は大切だ。

     整理整頓も重要。部屋が散らかっていると十分な掃除ができない上、緊急事態に即応できない。たとえ夜間に緊急招集が掛かっても、そしてそこが暗闇であっても、どこに何があるか分かるよう整理されていれば、すぐに必要な装備を手に取り、身に着け出動することができる。国防を預かる自衛官にとって、大切なことなのだ。

     また、掃除教育には精神修養の意味もある。自衛隊の装備類は、全て国が保有する財産であり、物品愛護について徹底した教育を受けている。なので、自分が受け取ったときよりも美しい状態で「お返し」し次の人に託す、という精神で運用している。これを徹底するため、教育隊を経て自衛官として経験を積んだあとでも、例えば、術科学校などの教育機関に入校したら、やはり、そこでも掃除を通じた教育がなされる。

     これについて同隊教官の武藤純治2等陸曹は「掃除を通じて、与えられた任務を愚直に遂行する使命感と、自衛隊ならではの『物品愛護』の精神を身に付けてほしいです」と語った。

     また掃除は装備品の安全確認という役割も持つ。汚れで隠れたひびや傷を発見できるのも掃除の効用。補修や修理が必要な場所の早期発見にもなる。

     そして、掃除は日本を守ることに。清潔に保たれ整頓された装備を見ると、その部隊の精強さが分かる、と、軍事の世界ではいわれている。きれいな軍隊は強い軍隊なのだ。国防を担う自衛隊も、掃除を徹底することによって、精強さを表し、ひいてはそれが抑止力となって、平和を守ることにつながっているのだ。

    (MAMOR2020年12月号)

    <文/臼井総理>

    自分を磨く自衛隊式掃除法

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