•  男女雇用機会均等法が施行されて30余年たつが、まだまだ男性だけしかいない職場がある。「体力的に無理だから」、「伝統だから」など、女性を拒む理由はさまざまです。しかし、そんな理屈を飛び越えて、男性だらけのフィールドに、“やりたいから”と飛び込む女性たちが増えているようだ。

     圧倒的な男性社会といえる自衛隊で活躍する女性隊員を応援すべく、MAMOR編集部では、時代の最前線で闘う女性たちにスポットを当てることに。第1回はサッカー選手の永里優季さんに話を聞いた。

    既成概念にとらわれないで自身の価値観を大切にする

    常にサッカーのことを考えているそう。取材の日も「この後、自主トレーニングをします」と永里さん

     2020年9月、NWSL(アメリカ女子サッカーリーグ)の「シカゴ・レッドスターズ」は“所属選手である永里優季が神奈川県社会人サッカーリーグ2部「はやぶさイレブン」へ期限付きレンタル移籍をする”と発表。女子選手が男子チームに加入するという、世界でも異例の移籍は大きな注目を集めた。

    「あんなに多くの方にインパクトを与えるとは思っていませんでした。私自身はやりたいことをやっただけ、すごく自然体でした」と語る永里さん。

     日本を代表する女子サッカー選手で、ポジションはFW(フォワード/チームの最前線に位置し、主に攻撃を受け持つプレーヤー)。世界が認めるストライカーだ。

     彼女がサッカーを始めたのは小学校1年生のとき。今回の移籍を後押しした兄・源気さん(現「はやぶさイレブン」所属)と妹・亜紗乃さん(元日本代表・現フットゴルフチーム「はやぶさイレブン+F」所属)のほうが先だったという。小学校6年生で日本代表を目指そうという明確な目標を持ち、16歳で現実のものとする。その後も活躍を続け、10年にドイツの女子サッカークラブ「1.FFCトゥルビネ・ポツダム」へ移籍し、海外でのキャリアをスタートさせる。

    「08年の北京オリンピックでアメリカやドイツと対戦し、レベルの違いを見せつけられました。対等に戦えるようになるには、スピードがあり、フィジカルの強い選手と一緒に練習していなければダメだと痛感したんです。言葉も分からず、スマホもない時代でしたから、弱音を吐ける相手もおらず、さすがにつらかったです」

     11年には日本中を沸かせたFIFA(国際サッカー連盟)女子ワールドカップ優勝。翌12年、ロンドンオリンピック銀メダル獲得。欧州の強豪チームを渡り歩いて結果を残し、17年に「シカゴ・レッドスターズ」に加入。そして今回の期限付き移籍となる。

    性別は関係ない。私は1人の人間、そして1人のサッカー選手

    画像: 男子チーム「はやぶさイレブン」の一員として試合に出場。両チームの中で紅一点だがプレーに遜色はない 写真/日刊スポーツ/アフロ

    男子チーム「はやぶさイレブン」の一員として試合に出場。両チームの中で紅一点だがプレーに遜色はない 写真/日刊スポーツ/アフロ

    「いつかは男子チームでプレーしたいと考えていました。性別に関係なく、ただ単純にサッカーを極めたかったし、女性でも挑戦できるんだという社会的メッセージも発信したかったんです」

     海外では生まれ育った街のためにプレーしている選手も多く、出身地である神奈川県厚木市に少しでも恩返しができたらという気持ちもあったという。

    「実際にプレーしてみると、海外でのキャリアも長いですし、予想よりも苦労せずにできたかなとは思います。ただやはり、同じフィールド上で女子とは違う男子のスピード感、体力、体幹の強さを実感できたことは貴重でした」

     チーム内では女性を意識させないようなコミュニケーションを心掛けたという。

    「性別や年齢は気にせず、1人の人間、1人のサッカー選手として接するという前提が何よりも大事ですから」

    新しい環境に身を置き、不安とワクワク感を楽しむ

     移籍期間は短かったが、チームと厚木市を活性化させ、さらにサッカー少女たちを勇気づけたことは間違いない。はやぶさイレブンの阿部敏之監督も、同チームでの最後の公式戦に出場した永里選手について、「攻撃を落ち着かせる、リズムをつくる力を持っている」と、それまでチームに足りていなかった役割を担った彼女の貢献度の高さを語った。21年シーズンの所属先は、NWSLに新規参入する「レーシング・ルイビルFC」。ゼロからのチームづくりに関わるという、さらなる新天地に向かう。

    「これからも生き方を模索しながら、その時その時、興味や関心のあるものに熱中していく人生を歩んでいきたいと思っています」

    【永里優季さん】
    神奈川県出身。2011年FIFA女子ワールドカップ優勝。12年ロンドンオリンピック銀メダル。20年9〜12月限定で男子チーム「はやぶさイレブン」に移籍。21年シーズンの所属先はアメリカ「レーシング・ルイビルFC」

    (MAMOR2021年3月号)

    <文/富田純子 撮影/林紘輝>

    時代の最前線で闘う女性たち

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