•  島しょ部防衛強化のため、2024年を目標に陸上自衛隊と海上自衛隊の共同部隊である海上輸送部隊が新編されることになった。「陸上」の自衛隊がなぜ、海上を航行する輸送艦の要員を育成することになったのか。そこには現在の日本が置かれている安全保障環境の変化という理由がある。従来より、より機動的に、かつ状況に合った迅速な部隊の展開、それに伴う物資の輸送をするために動き始めたのが、陸・海の共同部隊である海上輸送部隊の新編である。

    島しょ防衛の体制強化のため輸送艦の運航が急務に

    画像: 海自での教育スタートの際、陸自輸送学校の源弘紀陸将補(写真中右)が海自第2術科学校を訪問。当時の学校長・岩㟢英俊海将補(中左)と固い握手を交わした 写真提供/防衛省

    海自での教育スタートの際、陸自輸送学校の源弘紀陸将補(写真中右)が海自第2術科学校を訪問。当時の学校長・岩㟢英俊海将補(中左)と固い握手を交わした 写真提供/防衛省

     過去に陸上自衛隊の隊員が海上自衛隊で教育を受けるというケースがなかったわけではない。かつては水陸機動団施設科部隊が小型船舶の運用方法の教育を受けたり、人員や物資の積み降ろしなどの手順を学ぶため、輸送科の隊員が海上自衛隊第1術科学校で海上輸送課程を受講するということなどがあった。しかし運航および機関という艦艇を動かすためのメインとなる教育はこれが初めてである。

     その背景には、沖縄、南西諸島などの島しょ部防衛の体制強化という課題がある。離島に陸自部隊の配備が進められてはきているが、いざ有事という場合、島しょ部の広いエリアに物資、人員を輸送するには、海自の『おおすみ』型輸送艦や空自の輸送機だけでは陸自の輸送ニーズに対応することは困難である。そもそも離島には、海自の大型艦が着岸できる大きな港湾施設や輸送機が離着陸できる空港、大型輸送艦から発進するエアクッション艇の上陸に適した砂浜などは少ない。この状況を改善するためには海上輸送のための部隊を新編し、輸送艦を運航することが急務となったのである。

    海上輸送部隊の新編に先立ち船舶隊員の養成をスタート

    画像: 在日アメリカ軍海兵隊との共同訓練の際、海自の『おおすみ』型輸送艦に搭載される陸自の水陸両用車「AAV7」。現状、陸自の物資、人員を輸送する際、海上輸送ニーズの大部分を海自が担っている 写真提供/防衛省

    在日アメリカ軍海兵隊との共同訓練の際、海自の『おおすみ』型輸送艦に搭載される陸自の水陸両用車「AAV7」。現状、陸自の物資、人員を輸送する際、海上輸送ニーズの大部分を海自が担っている 写真提供/防衛省

     海上輸送部隊の創設目標は2024年。このときに中型輸送艦と小型輸送艦を取得し、28年ごろまでに順次艦船を導入していく予定だ。そのときに実際に艦船を運航させる隊員は、大型船舶を操縦するために必要な国家資格である海技士資格相当の部内資格を取得しなければならない。その乗員を育成するには、3年から4年以上の乗船経歴が必要となる。

     そのため部隊新編に先立ち、19年3月より輸送学校内に船舶準備室を立ち上げ、船舶隊員養成のための教育内容の検討・策定や、海自側との交渉や調整を行うとともに船舶隊員の育成を始めた。これまで幹部、陸曹を合わせ1期生12人、2期生6人が海上輸送部隊の基幹要員として選考され、海自の術科学校や呉教育隊に派遣、1期生はすでに全員輸送艦勤務についている。輸送学校研究部長の大石和孝2等陸佐によると、当初は試行錯誤の連続だったそうだ。

    海自と連携し、教育内容の検討に携わってきた大石2佐。「教育中の隊員には、陸自の魂を忘れず海自の良いところを学びとってもらいたいですね」と話す

    「教育体系もない状態からのスタートでしたから、海技士資格相当の部内資格を取るにあたっての必要な課目は何か、学生自身に術科学校で教育を受けながらリサーチしてもらいました。その結果をもとに海自側とも検討を重ね、将来艦船を動かす場合、単に技術だけを学ぶのではなく、シーマンシップや資質の育成も必要だということになり、2年目からは幹部を対象に海自の幹部候補生学校の教育をもとにした集合教育『陸自船舶』を行うようになりました。現在教育中の隊員は新たな職域のパイオニアであり、後輩たちの目標でもあります。彼らの成長が海上輸送部隊の戦力化につながります」と、大石2佐は話す。

     今後も継続して育成を行い、常に一定の人員が海上輸送部隊の基幹要員として勤務できる体制構築を目標とするそうだ。

    (MAMOR2021年10月号)

    <文/古里学 撮影/荒井健 写真提供/防衛省>

    陸上自衛隊、海ゆかば

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