「戦闘機1機分くらいの収入を」という防衛大臣の期待(?)の下に行われた自衛隊初の「せり売り」。抽選で選ばれたマニアたちの熱気に包まれた会場の様子をリポートしよう。
落札総額581万円!熱狂のオークション会場
2020年7月26日に防衛省(東京・市ケ谷)内の講堂で行われた自衛隊初のせり売りには、590人の応募者から抽選で選ばれた176人が参加した。出品された不用物品は陸・海・空各自衛隊からの21品目で、開始価格は5000円から1万円がほとんど。
まず、河野太郎防衛大臣(当時)らがあいさつをし、担当者が落札方法や落札品には大臣直筆サイン入りで真正品であることの証明書が付くことなどの説明をして、せり売りはスタート。落札希望者は自分の番号を挙げ続け、司会者が価格を上げていく。
1品目の陸上自衛隊出品の弾帯および弾入れにいきなり13万1000円の値が付き、会場は大いに沸く。さらに部隊章セットが20万円、練習艦『やまゆき』のげん門表札が53万円と、主催者の想定をはるかに超える高額で次々落札されていくうちに、いやが上にも場内は盛り上がっていく。そして最後の1品、パイロットのヘルメットと関連用品が登場。競り値はどんどん上昇し、ついに66万円という本日の最高値を記録した。
最終的に落札総額はわれわれの予想をはるかに上回る581万8000円となり、「(約100億円する)F−35のねじ2つ分くらいになったかな」と防衛大臣も上機嫌で約4時間にわたるイベントは大成功のうちに幕を閉じた。
試行錯誤を重ねた開催だった
前例のない試みを実施したのは自衛隊の装備品の研究、開発、取得、海外移転などを担当している防衛装備庁。今回のせり売りは収入の確保の一環として開催された。調べてもほかの官庁ではほとんど実績がなく、わずかに宮内庁で馬や羊のせり売りが行われている例があるのみ。それらを参考にしながら、試行錯誤を繰り返して開催にこぎつけたという。
「開始価格は、廃棄した際の処分費用や市場における同等品の価値を参考に設定しましたが、結果的に非常に高値が付いて驚きました」と廣瀬経理補佐官。
「これほどの値が付くとは思いもせず、皆さんの自衛隊愛に驚きました。物品は、どれもわが国の防衛の一端を担ってきたものです。落札した方には大切にご愛用いただけると幸いです」と村田課長補佐。前例のない試みは、庁内でも大反響のようだ。
喜びに沸く落札者たちの声
会場では予想以上に競り値がつり上がり、あっと驚くような値段も飛び出した。その厳しい競りを勝ち抜いて憧れの物品を手にした落札者たちに喜びの声を聞いてみた。
日ごろの自衛隊への感謝を込めて、複数の物品を落札しました(K.E.さん/33歳・会社員)
最近のニュースなどで自衛隊の活動を見て関心を持つようになり、自衛隊および隊員の皆さまへの敬意と感謝の気持ちをもって、せり売りに参加しました。空自の装備品4点を競り落とすことができました。なかでもC-1輸送機の操縦かんは狙っていた物品の1つだったので、気合が入りました。総額は108万円になりましたが予算内です。
「必ず落札する」という決意が揺らがないよう最前列で臨みました(山口泰裕さん/35歳・公務員)
とにかく1品目の弾帯と弾入れを狙っていました。決意が揺らがないように、ほかの参加者の動きが一切目に入らない最前列に着席しました。物品と一緒に大臣の署名が入った証明書をもらったときは、本当に手に入れてよかったなと実感しました。
引くに引けず予算オーバーです(笑)(K.T.さん/33歳・会社員)
次々と落札されていくのを見て覚悟を決め、応援旗の競りに臨みました。最後は引くに引けなくなって16万円で落札しましが、完全に予算オーバーです。約3メートルと大きい旗なので、たまに取り出しては眺めています。
思い出の品々を手に入れるため、われを忘れて落札しました(立花貢さん/50代・自営業)
元『やまゆき』の乗組員だったので、どれも思い出の品々ばかり。本当は全部手に入れたかったです。げん門表札だけは絶対にとるつもりで、競りの途中は金額も考えませんでした。周りの拍手で落札したと分かりました。
(MAMOR2021年1月号)
<文/古里学 撮影/田中秀典>