地対空誘導弾「ペトリオット」を装備して、敵の航空機や弾道ミサイルからわが国を守る航空自衛隊の高射部隊。今回紹介する航空自衛隊高射教導群は、全国各地にある高射部隊を、ミサイル迎撃の精強集団へと文字どおり「教え導く」部隊で、高射部隊の戦術戦技に関する練度向上を支援するとともに、空自の高射部隊の最精鋭部隊として模範を示している。
そんな航空自衛隊高射教導群は、静岡県浜松市の浜松基地と北海道千歳市の千歳基地に所在する、航空戦術教導団隷下の部隊。ペトリオットを運用する全国の高射部隊の教導を担う同部隊の各装備の役割と、次の陣地に移動する「陣地変換」のため、どのように機動準備をするのかを説明しよう。
ペトリオットを布置したときの配置を紹介
高射部隊の各装備を布置(ふち・注)した際の配置をみながら、まずは各装備の役割と、次の陣地に移動する「陣地変換」のため、どのように機動準備をするのかを説明しよう。
(注)ペトリオットの各種装置を適切な場所に運び、陣地を決めてそれぞれを配置すること
A:アンテナ・マスト・グループ(AMG)
ECS内にある通信装置のアンテナとして使用。通信出力を増幅させることができ、高射群内のデータリンクを構築する際に用いられる。
B:電源車(EPP)
ペトリオット・システム全体の電源を供給する発電機を搭載する電源車。発電機は、ガスタービン式とディーゼル式がある。太く長い給電ケーブルを、車体横のリールに巻き取る形で搭載している。平均的な一般家庭50世帯分の電力を供給することができる。
C:発射機(LS)
いわゆるランチャー。ミサイルの本体、ペトリオット弾が搭載される部分。発射時はミサイルの入った箱(キャニスター)を持ち上げ、目標の方向に回転。キャニスターはPAC-3の場合最大で4個搭載でき、1つのキャニスターには最大4発のミサイルが格納されている。
D:射撃管制装置(ECS)
レーダー装置で得た情報を分析し、実際に迎撃ミサイル発射を操作する装置一式が、この射撃管制装置。各種コンピュータや通信装置、操作用のコンソールが備わり、高射指令官のほか、操作員・電子整備員が乗り込む。
E:レーダー装置(RS)
海上自衛隊のイージス艦が搭載するレーダーと同じ「フェイズド・アレイ・レーダー」型を搭載。多機能レーダーであり、迎撃目標を捜索、追尾するほか、発射したミサイルの誘導や、敵味方の識別も可能。強い電磁波を出すため、運用中は無人となる。
各装備の起動準備を解説!
A:アンテナ・マスト・グループ(AMG=Antenna Mast Group)
トラック一体型のAMG。まずは高く上げたアンテナ・マストを収納。メインのマストをモーターの力で倒し、先端のアンテナ部分は手動で折り畳む。
その後、安定して設置するための支えとして張り出していたスタビライザーを格納する。
B:電源車(EPP=Electric Power Plant)
EPPは「電源車」というだけあってトラック一体型。陣地変換に際して大変なのは、多数のケーブルの収納だ。
太い電源ケーブルを引きずって傷つけることのないように持ち上げながら、車体横にあるリールに丁寧に巻き取っていく。
C:発射機(LS=Launching Station)
移動用のトラックを連結し、トラックとLS本体をつなぐエアホースや電源ケーブルを取り付ける。
ミサイル発射機を下ろして収納し、あわせて通信用アンテナも分解して収納した後、左右に張り出しているアウトリガーを格納する。
D:射撃管制装置(ECS=Engagement Control Station)
ミサイルの発射を制御する各種コンピュータや、通信装置などが多数搭載されているECS。
移動時には各装置を停止するなど移動可能な状態に設定し、ほかの装備と接続するケーブルを取り外し、垂直に立てられていたアンテナを畳む。
E:レーダー装置(RS=Radar Set)
RSは自走機能がないため、トラックと連結する。同時に、ECSと接続しているケーブルを慎重に外し、板状のアンテナ部分は倒して格納。
移動中にアンテナ部分が傷つかないようカバーをした後、最後にアウトリガーを収納して準備完了。
(MAMOR2021年9月号)
<文/臼井総理 写真/村上 淳>