自衛隊の先輩、教官は、どんな信念を持って後進の指導に当たっているのか。それは、自らの経験に基づいて生まれた信条と後輩を思う気持ちから発せられる言葉であるに違いない、とマモルは考える。そこで、隊員の指導に当たる立場の自衛官から、“贈る言葉”の数々を紹介しよう。
「全ては自分次第」
【横須賀教育隊 教育第2部 久光奈美2等海曹】
私が担当する自衛官候補生課程は、自衛隊に入隊した隊員が初めて受ける教育課程です。新入隊員にとって、隊舎での生活や訓練はもちろん、細かなルール下での団体生活など、何もかも初めてのことばかり。悩み、くじけそうになる学生も少なくありません。落ち込んで、物事をネガティブな方向に捉えてしまいがちな学生に対しては、人生の先輩として、母親的な目線で、励まし、背中を押してあげたいと常に考えています。
学生を指導する中で再認識したのは、困難から逃げるのも負けずに突き進むのも、マイナスをプラスに変えるのも自分の気持ち次第。気の持ちようで状況は変えられるし、必ず結果はついてくるという事実。「全ては自分次第」なんです。自衛官として巣立っていく学生たちを、「あなた自身が頑張ったから、ここまできたんだよ」と送り出してあげたいです。
「あなたは、あなたになりなさい」
【熊谷基地 第4術科学校第2教育部 津村拓海3等空曹】
自分が進む道について悩んでいた際、この言葉をきっかけに目標を見つけ、努力することができたので自分の教育のモットーとして胸に刻んでいます。私は自衛官になる前は、マスコミ業界でフリーランスとして仕事をしていました。自分の意志で入隊したはずなのに、いつの間にか、自分のしたいこと、自分らしさを見失っていたのです。
「あなたは、あなたになりなさい」という言葉によって、自分の気持ちに正直に、後悔しないよう生きていこうという、覚悟のようなものができたと思っています。自分も含め、自衛官は「こうあるべき」という理想論に縛られやすい傾向にある気がします。そんなときにこそ、「自分は本当は何がしたいのか」と振り返ることが大切です。
組織の中で、一自衛官としての任務を全うしながら、いかに自分らしく生きられるか。これは教育に関わる者としての課題であり、自分自身の課題でもあります。
「なんとかなるさ」
【横須賀教育隊 教育第2部 成田有里3等海曹】
私自身は、幼いころから比較的楽観的に物事を捉えるタイプでした。もちろん、時には深く悩んだこともありますが、悩んでも悩まなくても、結果は案外、変わらないものなのだと実感することが多かったのです。
慣れない訓練や団体生活に「自分は自衛官に向いていないのではないか」など、思い悩んでしまう隊員に対して「なるようにしかならないのだからもっと気楽にいこうよ」と声を掛けています。特に、1人で考えすぎて、自衛官への道を諦めかけている学生には、肩の荷を下ろし、ゆったりと長いスパンで物事を考えるよう促しています。
真面目なのはよいことですが、真面目な学生ほど、自分に高いハードルを課しすぎて、前に進めなくなってしまうのです。今、できることを少しずつ積み重ねていけば、結果はいずれついてくることを、学生たちに伝えたいですね。
「誠実」
【横須賀教育隊 教育第2部 一森優子1等海尉】
誠実さとは人と人との絆を深め、強固な団結心を育むものであるため、強い組織を形成するために非常に重要であると考えています。そのことが伝わるよう、教育を行ううえで、まず自分自身が誠実さを持って学生に接するよう日々努めています。
「学生主体」
【横須賀教育隊 教育第2部 萩原茉莉1等海尉】
自分の経験から学生が自ら求め、励むことが知識や技能の習得において最重要であるということを実感しており、教官はそれをサポートすることが務めだと考えています。学生が自ら学びたくなるよう、興味を持ってもらえる教務を意識して行っています。
「あいさつは心と心をつなぐ魔法の言葉」
【横須賀教育隊 教育第2部 徳永順子海曹長】
人と仲良くなるには、あいさつなどの声掛けがきっかけになることが多いものです。楽しい職場にするには、良好な人間関係や相談しやすい雰囲気が大切だと思います。短い期間であってもしっかりコミュニケーションがとれるよう、常に気持ちのいい声掛けを心掛けています。
「無駄な努力はない」
【航空教育隊 第2教育群 第1教育大隊 岡田直也3等空曹】
自分が努力しても成果が実らないと「無駄だった」と思うときも時折あるものですが、日々努力を積み重ね、継続すること自体が人を成長させると思います。常に謙虚な気持ちを忘れずに、全力で努力し続けることの大切さを学生たちに伝えていきたいですね。
(MAMOR2021年4月号)
<文/真嶋夏歩 撮影/近藤誠司>