自衛隊の先輩、教官は、どんな信念を持って後進の指導に当たっているのか。それは、自らの経験に基づいて生まれた信条と後輩を思う気持ちから発せられる言葉であるに違いない、とマモルは考える。そこで、隊員の指導に当たる立場の自衛官から、“贈る言葉”の数々を紹介しよう。
「知見を広めよ自分の頭で考えよ」
【教育訓練研究本部 教育部 瀬川博司1等陸佐】
私が担当する幹部高級課程は、上級の指揮官および幕僚となるために選抜された、1等陸佐昇任前後の学生が対象です。
尉官までの基本教育は、部隊行動の手順や戦闘戦技の要領を習得させる職務教育であり、組織的な戦闘力を発揮するための「堅固な型」を作ることが目的です。一方、佐官からの基本教育は、職務から離れた時間を与え、不透明不確実な状況の中で組織をより精強なものにするための「新しい型」について考えさせるものです。従って、学生には最新の情報をインプットし、何らかのアウトプットを出す過程を通じて「考えさせる」ことを重視した教育を行っています。
そのような課程の教官として、「自分の考え」を、他者を説得しうる「形」に、いかにまとめ、いかに伝えるか、助言するよう努めています。学生には、貪欲に集めた情報を自分なりに消化して、常にゼロベースから再構築していくことを期待しています。
「雨の日には雨の中を、風の日には風の中を」
【熊谷基地 第4術科学校第1教育部 林雅幸1等空尉】
私が自衛隊に入隊したのは、1974年。以来47年、通信に関わるさまざまな職務を経て、現在は情報通信全般の運用整備などについて、幹部自衛官となって間もない隊員の教育を担当しています。技術の進歩という点では隔世の感がありますが、「システムがなくても運用できる」臨機応変な対応力こそが自分たち世代の強みと捉え、隊員たちに伝えていきたいと考えています。
長い自衛隊生活の中では、いろいろなことが起こるものです。人間が天候をコントロールできないのと同様に、組織には個人の力ではどうすることもできない事情もあります。身動きの取れない状況下においては、雨や風にあらがわないように、時にはじっと流れに身を任せることも必要です。組織として、ミッションをよりよく完結させることを最優先に考えながら、ためらわず、気後れせず、前向きに。そのときにできることを精いっぱい努力しながら進んでいってもらいたいですね。
「明朗・誠実・前向き」
【横須賀教育隊 教育第2部 涌田美幸2等海尉】
教育隊に配属され、教官になる以前は航空基地隊に所属する部隊で航空管制官として勤務していました。国家資格取得のため毎日深夜に及ぶ自学や日中の訓練で精神的につらい日々が続きましたが、そんなとき、先輩からの助言もあり、ネガティブになるより、まずは「前向きに」何でもやってみて改善していくことの大切さに気付きました。苦しいことも日常の任務も、「誠実に」行うことにより、自分自身だけでなく、職場にもよい影響を与えられることを実感したのです。
隊員の教育に携わるようになってからは、悩みながらも懸命に前に進む学生たちの努力を無駄にしないよう、学生の話に耳を傾け、厳しくもあたたかく見守りたいと考えています。泣いても笑っても人生は一度きり。今を大切に、「明るく朗らかに」過ごしてほしいですね
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」
【熊谷基地 第4術科学校第1教育部 平島俊英空曹長】
私が挙げたモットーは、旧日本帝国海軍・山本五十六元帥海軍大将の有名な格言ですが、教育の場で日々、実感することであり、自分自身が忘れないよう、常に心掛けている言葉でもあります。教育を行う際、言葉で言い聞かせるだけでは相手に理解されにくく、なかなか伝わりません。また、テクニックを手取り足取り教えるだけでも、その教えるべきことの原理や理論が伝わらず、真の理解にはつながりにくいものです。
言い聞かせ、実行させることが同時に行われてこそ、高い教育効果が望めます。そして何より、できたときには褒めてやり、達成感を持たせることが、本人の向上心を育み、自ら学ぶ姿勢につながるのだと考えています。
どんな小さなことであっても、学生が何かを達成した際には、ひと言「やったね」、「よくできたな!」と声を掛けてあげられる教官でありたいと思います
(MAMOR2021年4月号)
<文/真嶋夏歩 撮影/近藤誠司>