2020年12月、大雪の高速道路上で立ち往生している車両への災害派遣活動で、水、燃料、食料などを担いで、雪をかき分け数キロを歩いてきた自衛官が救難現場で発した第一声が、「遅くなってすみませんでした」だったとニュースなどで報じられた。20代の若い隊員だったと聞く。彼らはどのような教育を受けてきたのだろうか。
第一線で活躍する自衛官の証言「くじけそうなとき私はあの言葉で強くなれた」
自衛隊は、入隊直後から退職するまで、生涯、教育・訓練を受けるようにプログラミングされている。精強で誠実な隊員がつくられる教育とは?さまざまな教育手段の中からマモルでは、「言葉」に着目した。
自衛官といえども、入隊するまでは、例えば、親元から学校に通う学生など、普通の若者だった。どこにでもいる若者が、ひとたび事が起きれば身をていして人を助け国を守るための任務に就く。そのための肉体的にも精神的にも厳しい訓練で、くじけそうになった彼らを支えたのは、教官や上司、先輩から送られた“言葉”だったのだ。彼らを強くしたその言葉を集めてみた。
「常在戦場!」
日ごろから教官が言っていた言葉です。「常に戦場にいる気持ちで取り組め」という意味のこの言葉に感銘を受け、平時からのモチベーションの持ち方について考えさせられました。厳しい任務に当たるときは準備段階からこの言葉を思い出すことで、気力が限界を迎える前に前向きになり、踏ん張り続けることができます。(2等陸尉)
「迷ったら安全を選べ」
飛行訓練や任務時に先輩パイロットに繰り返し言われた言葉です。任務完遂に対する熱意だけでなく、安全を前提に考え、必要なら任務を中止する勇気を持つ大切さを実感しました。以後、自分の中で、飛行任務の状況判断でこの言葉が基準となりました。(1等空尉)
「悩めるうちは、まだまだ」
パイロットになるための課程を修了するとき、思ったように上達できず悩んでいたことを教官に話したところ「悩むことができるのはまだ余裕があるということだ」と言われ、自分で限界を作ってしまっていたことに気が付きました。悩むたびにこの言葉を思い出し、「自分はまだまだ成長できる」と前向きに思えるようになりました。(3等陸佐)
「単純明快であれ」
演習中にやるべきことが立て込んで混乱してしまったときに、上司にこの一言で諭されました。前後不覚になるような厳しい戦場では、味方に対する統制指示は「分かりやすい」ことが重要だと実感し、それからは計画の作成などにおいてもシンプルで分かりやすい表現を心掛けるようになりました。(3等陸佐)
「慌ててもいいが、頭は動かせ」
教育中に教官から言われた言葉です。「慌ててしまうことは人間誰しもあるが、それ自体が悪いのではなく慌てることで思考停止してしまうことが最も悪い。慌てたとしてもほかの手段を講じて任務を完遂できるようにならなければならない」ということに感銘を受け、それからは常に、何かを行う前に腹案を持つよう心掛けるようになりました。(2等海曹)
「失敗していいのは今だけだぞ」
飛行機の操縦訓練で、なかなか定められた通り操縦できなかったときに教官から言われた言葉です。自分の操縦に自信を持てず失敗を恐れておっかなびっくり操縦している自分に対し、思い切ってやってみろと背中を押された気持ちになりました。教官から独り立ちした後は失敗できないのだと強く実感しました。(3等空佐)
(MAMOR2021年4月号)
※写真は全てイメージで文章の内容とは関連していません
<文/MAMOR編集部 撮影/近藤誠司>