• 画像: これまでは富士駐屯地のプレハブ校舎で教育を行ってきたが、同敷地内に念願の専用新校舎が2021年2月落成。イギリスの学校などをモチーフにしたれんが調の造りになっている

    これまでは富士駐屯地のプレハブ校舎で教育を行ってきたが、同敷地内に念願の専用新校舎が2021年2月落成。イギリスの学校などをモチーフにしたれんが調の造りになっている

     IT技術などの発展もあり、近年、情報に関する任務の重要性が急速に増している。情報に関わる陸上自衛隊の隊員が知識と技術を習得する情報教育の中心が陸上自衛隊情報学校だ。ここではどんな教育が行われているのか、学校長と2人の教育部長に話を聞いた。

    情報科隊員が専門知識を習得する教育機関

    情報学校のエンブレムは、中央に情報科職種のマークである日本神話に登場する金鳥、望遠鏡、鍵、日本刀の組み合わせ

     1954年7月の陸上自衛隊創隊以来、唯一途中で追加された職種がある。それが「情報科」だ。情報科隊員の任務は、情報に関する専門知識や技術を使い、各種情報資料の収集・処理を行い、部隊の情報業務を支援すること。情報科創設までは、各職種混成で情報活動を行う部隊、情報業務に関わる隊員で担っていた。例えば偵察部隊関係者などが担っていたが、軍事における情報の重要性の高まりに合わせ、2010年3月に「情報科」として独立職種が作られたのだ。

     情報科隊員を育てる拠点は、陸上自衛隊情報学校だ。前身は、54年に創設された陸上自衛隊調査学校。01年3月には、会計、警務から人事、法務、さらにはITシステムまで幅広く教育を担当する陸上自衛隊小平学校の新編に伴い解体・吸収された。それが、情報科職種の新設などにより独立。18年3月に情報学校が誕生した。創設に際して富士学校と同じ静岡県の富士駐屯地に移動(語学教育を担う「第2教育部」はそのまま小平に残留)し、21年3月には新校舎が完成した。

    情報を取り巻く変化と発展に合わせて教育する

    陸上自衛隊情報学校長・楠見陸将補。要望事項として『熱意』、『創意』、『誠意』を掲げ、なみなみならぬ情熱を持って職員・学生を導く

    「情報学校は、陸上自衛隊の隊員などに対して必要となる『情報』に関する専門的かつ実戦的な教育を行っています。その内容は、作戦に用いる『作戦情報』から国家の安全保障に関する『戦略情報』まで幅広く、必要な情報を収集、処理するための情報運用、敵からこちらの行動を秘匿し部隊の安全を確保する保全、さらにはアメリカ軍との共同作戦をはじめ情報収集にも不可欠な語学教育を実施しています」と語る、情報学校長楠見晋一陸将補。

     近年、急速なITの発達によってインターネットを介した情報収集や、情報保全の重要性も増したほか、偵察衛星や無人偵察機の発達なども含め、軍事情報を取り巻く環境は大きく変わっている。

    「戦い方そのものも敵正面をたたくだけではなく、敵にとっての重要拠点をたたくなど、組織的な情報の活用が重要になっています」

     情報力は、ほかの職種が火力を発揮する前に用いるもの。「敵を知り己を知らば百戦危うからず」という言葉があるが、戦闘の「前提」として重要なのが情報だ。楠見陸将補は、今後の情報学校、そして情報科職種について次のように語る。

    「現代における戦いは、宇宙やサイバー空間、電磁波などへと領域を広げています。その中では、情報をいかに支配するかが鍵です。加えて、日米を核とするインド太平洋地域の安全保障上の連携においては語学の重要性が高まります。当校は、富士学校における他職種の教育とも連携しつつ、部隊の作戦行動に資する情報の収集、分析ができる隊員の育成にまい進します」

    情報の収集や処理を教える第1教育部

    第1教育部長・濵﨑1佐。もともとは機甲科で戦車に乗っていた。その後情報科に職種変更。「通信科同様、情報科では女性が多数活躍しています」

     情報学校には2つの教育部がある。富士駐屯地にある第1教育部と、小平駐屯地にある第2教育部だ。第1教育部は、一般的な情報教育を行う部門。責任者である第1教育部長・濵﨑勝志1等陸佐に教育内容について聞いた。「第1教育部では、情報科職種の教育のうち、職務遂行に必要な基礎的知識、技能を修得させることを目的とした課程教育と、情報収集に必要な装備品を保有する部隊の運用などの専門教育を行っています」

     第1教育部で扱う課程は、情報科職種の幹部・陸曹に対する課程が10種、情報科職種以外も参加できる課程が3種ある。年間複数回実施されているものを含むと、年20個課程、合計約300人の学生教育を受け持っているという。濵﨑1佐は続けて話す。

    画像: 防衛大学校で情報に関する教育をする教官。情報学校以外でも情報分析に関する基礎的な教育を担当する

    防衛大学校で情報に関する教育をする教官。情報学校以外でも情報分析に関する基礎的な教育を担当する

    「情報科職種の仕事は非常に多岐にわたり、専門性も高いという特性があります。隊員は初級幹部や陸曹であっても、師団・旅団司令部やそれ以上の司令部で勤務する者も多く、求められる知識や技能も高レベルです。学ぶことも多く大変ですが、厳しく忙しい中にも『明るく、楽しく』気持ちの余裕を持って臨んでもらいたいと考えています。

     情報は、頭を使い、地道で神経も使う仕事。過度な緊張の中ではクリエイティブで柔軟な発想はできませんから。情報科は今後さらに発展し、重要性を増す職種です。頭が勝負の職種ですが、これも自衛官の仕事の1つとして注目してほしいですね」

    第2教育部で教える実戦的な語学教育

    第2教育部長・野邊1佐。「部下には当然ですが『学生第一』で任務を遂行することを求めています」

     情報学校第2教育部は、主に語学教育を担当する部門だ。具体的な教育内容について、第2教育部長の野邊格義1等陸佐に聞いた。

    「第2教育部は語学をメインに、部隊における情報保全についての教育も担当しています。扱う言語は、英語、中国語、ロシア語、韓国語の4つ。中でも英語は最も教育人数が多い言語です」

    画像: 民間委託のネイティブスピーカー講師による、ロシア語会話の授業。一般的な語学学校に近い内容も取り入れているが、求められる習得速度はかなり早い

    民間委託のネイティブスピーカー講師による、ロシア語会話の授業。一般的な語学学校に近い内容も取り入れているが、求められる習得速度はかなり早い

     英語は、同盟国であるアメリカ軍との共同作戦には必須。また、オーストラリアなど近しい関係にある国々とのやりとりにも使うほか、国際語であることから、海外での活動機会も増えた自衛隊には必要な言語だ。入校はほぼ志願者で占められ、「幹部または陸曹英語普通課程」に入校するには、TOEIC(注)で400点程度を取っていることが基準となるという。

    「一般会話はもちろん、専門用語を多用する軍事英語も重要なポイント。コミュニケーションのためには背景となる知識も重要ですので、アメリカ軍の軍事的な考え方なども学びます。オーストラリア軍などからの支援も得ながら語学教育を行います」と野邊1佐は教えてくれた。

    (注)TOEIC:英語によるコミュニケーションとビジネス能力を検定するための試験。満点は990点

    (MAMOR2021年6月号)

    <文/臼井総理 写真/防衛省提供>

    隠密に情報を集め分析する技術

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