•  自衛隊の行動に欠かせないものの1つが「インテリジェンス(情報)」だ。これは部隊が何らかの作戦行動を起こすのに先立ち、あらかじめ準備しておかねばならないもの。陸上自衛隊が収集する情報資料(インフォメーション)と、それを分析して得た情報(インテリジェンス)について、その収集方法を解説しよう。

    音響や赤外線などから得られる情報

    地上の人や車両などに対し中・短距離からの監視を行う地上レーダー装置1号(改)。機動性の高い高機動車に搭載して使用する。

     肉眼で見える情報だけでは不十分な部分は各種センサーなどで計測、検知した情報を処理・分析して得られる計測情報(MEASUREMENT AND SIGNATURE INTELLIGENCEの略でMASINT「マシント」と呼ばれる)で補う。

     センサーが感知するデータには、赤外線、音響、振動、磁気などがある。人や車両、船舶などが移動した際のセンサーの反応でこれらのデータを得て活用し、情報を分析する。放射線の量を計測し、異常な増加が見られれば原子力施設の事故や核実験なども予測できる。そのほか、暗視装置やレーダーを活用した移動目標の監視も、計測情報に含まれる。

    センサーを搭載した専用装備で集める

    レーダー部分は昇降機能によって伸縮でき、向きも変えられる

     計測情報は、特別な装置なくしては集められない。いくつかの専用装備を紹介しよう。比較的小型の「近距離監視装置」には暗視装置があり、暗闇でも情報が収集できる。「地上レーダ装置1号(改)」は、車両に搭載されたレーダーで、電波の反射を利用して地上にある移動目標を中距離から監視するために用いる。これらは、日本の長い海岸線を守るため沿岸地域の監視などを任務としている「移動監視隊」などが装備しており、情報資料の収集などにも使われている。

     そして「広域監視装置(通称「スーパー千里眼」)」。2台のトラックにそれぞれカメラ部、制御部が搭載され、機動性も高い広域用の監視システムだ。カメラ部には高精度な光学カメラと、赤外線カメラの両方を搭載し、昼夜問わず周囲の車両、船舶、人物などの移動を検出、動画像として表示できる。この装備は、沿岸部などの監視はもとより、海外派遣などで宿営地の周囲を監視する役目にも使えるという。

     このほか、無人偵察機が搭載する赤外線カメラによって撮影された画像も、計測情報の一種として活用している。

    人の目では見えない相手の動きを捉える

     各種センサーを用いて収集した情報は、人間の目や耳では感知できないもの。これを活用することでまさに全てを見通す「千里眼」を得られるというわけだ。物体から発する熱エネルギーを感知する赤外線センサーによる情報では、森や雪などの遮蔽物に隠れている敵車両や人を探し出せる。

     振動や音響センサーの情報を使えば、人の耳では分からない小さな音を捉えることも可能なため、密かに移動する人の動きを探知することもできる。

     また、人の目だけでは監視が行き届かない、長い海岸線など広い範囲の監視にも計測情報を活用する。最近では、情報収集衛星にも赤外線センサーを搭載する研究が進んでいるので、今後はこうした衛星に搭載したセンサーが集めた情報も活用されるだろう。

    (MAMOR2021年6月号)

    <文/臼井総理 写真/防衛省提供>

    隠密に情報を集め分析する技術

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