航空自衛隊の警備犬の運用および管理を行う部隊、それが入間基地にある警備犬管理班だ。1963年以降、航空自衛隊の警備犬育成の総本山として、警備犬の能力向上に関する研究を行ってきた。年を追うごとに存在感を増す、組織の役割と現状を紹介しよう。
こちらが真剣に向き合えば犬は必ず応えてくれる
警備犬管理班を訪れると、耳に飛び込んでくるのは、警備犬たちの元気なほえ声。実は私自身、大型犬を飼っていることもあり、犬に好かれる自信は多少なりともあったのだが、警備犬たちは誰も私に興味を持ってはくれなかった。彼らが見ているのは、ハンドラーだけ。ハンドラーの存在こそが全てなのだ。
「犬を飼ったことがなかったので、配属された当初は恐怖心もありました。でもハンドラーとして3年過ごすうちに、犬の魅力にどっぷりとハマってしまいました。もちろん使役犬ですから必要以上に甘やかすのは禁物ですが、こちらが全力でぶつかれば、犬も必ず、全力で応えてくれます」と話してくれたのは、斉藤3曹。
高原3曹は「訓練を通じてダンテを喜ばせてあげたいし、彼も僕を喜ばせようと頑張ってくれる。『あの2人、なんかいい感じだよね』と、信頼関係がにじみ出るようなペアになるのが理想です」と話す。
「人犬一体」の飽くなき探求が警備犬の可能性を広げる
2018年7月に起きた西日本豪雨を皮切りに、同年9月の北海道胆振東部地震、そして19年の台風19号と、行方不明者捜索のため、入間基地から警備犬が派遣された。
警備犬管理班班長の大久保1尉は、「3回の災害派遣の全てで、警備犬は行方不明者を発見しています。殊に、北海道胆振東部地震では、非常に早い初動を開始することができました。発災から8時間後には、土砂崩れにより捜索が難航していた現場に到着し、行方不明者全員を72時間以内に発見したのです。すでに重機などでの捜索作業を終えた現場で、被災者を見つけられたのは、警備犬管理班として貴重な経験となりました」と振り返る。
空自の警備犬は皆、ここ入間基地の警備犬管理班で訓練された後、全国各地の基地に配属される。
大久保1尉は、「18年に警備犬管理班が空自独自の警備犬の資格検定を創案し、現在はこれに合格するために設定した課題を軸に訓練を行っています。空自内でも、部隊ごとに犬の能力の判断基準がバラバラでしたが、統一された目標を段階的にクリアしていくことで、各ハンドラーが能力向上を目指しています」と語る。
「私が考える、最終的な目標は、“マルチな能力を備えた警備犬”の育成です。『人犬一体』となったペアを理想とし、警備も捜索も、1人と1頭で何でもこなせるようなペアを育てたい。そのためには、ハンドラーの育成が、実は犬の能力以上に重要です。犬を本当に理解し、任務を『やれるのか否か』を判断できるのはパートナーであるハンドラーだけだからです。
警備犬の能力を最大限に引き出す方法を模索しつつ、検定資格を持ったハンドラーが、新人ハンドラーを指導・教育しています。また、災害救助犬としては、空自の検定とは別に、救助犬としての国際的な資格である国際救助犬(IRO)試験に合格するだけの、高い捜索能力を養うことを目標に掲げています」
さらに、「今後は、テロ対策を含めた警備において、彼らの任務はさらに重要なものとなっていくと思われます。犬たちの能力の可能性を見極め、最大限に生かすべく、努力していきたいと思っています」と締めくくった。
(MAMOR2021年2月号)
<文/真嶋夏歩 撮影/荒井健>