2020年8月、日本製レーダーがフィリピン軍に採用されることが決まった。「日本の防衛装備、初めての輸出!」と話題になった国産レーダーだが、レーダーといえば、天気予報から野球の球速測定、最近ではクルマの自動運転技術など、私たちの暮らしに身近な装置だ。
これまで、レーダーの基本的な原理や仕組みを解説してきたが、自衛隊ではさまざまなレーダーが日々運用されている。どのような部隊でどのようなレーダーが活躍しているのか紹介しよう。
レーダーサイトのレーダー
全国28カ所から日本の空域を警戒・監視する国防の要
航空自衛隊は、空からの外敵の侵入を防ぐため、固定式レーダーを設置する「レーダーサイト」を全国28カ所に配置し、24時間365日空域を警戒・監視している。運用するのは、各地の「警戒群・警戒隊」。
普段、レーダーは飛行機などの目標を探知しているが、その中には多数の民間機が含まれている。民間機は、各地の航空交通管制機関に飛行計画が提出されており、その情報は空自と共有されているので、照合することで正体が分かる。もし正体不明機が監視空域内で探知された場合、戦闘機を差し向けて、不明機の正体を確認したり、場合によっては退去を求めたりする。
また、レーダーサイトや戦闘機などのレーダーには、電波を用いて誰何(すいか)する機能もある。これは、暗号化された通信を送り、相手が正しく返答するかどうかによって敵か味方かを判別するものだ。
移動警戒隊のレーダー
空自の警戒・監視を支える移動式レーダー
「J/TPS−102」は、空自の移動式レーダーで、固定式のレーダーが整備などで使えないときなどに現場に展開して固定式のレーダーを肩代わりする。
レーダーサイトに設置しているレーダーと同等の能力を持つレーダーを装備しており、運用するのは「移動警戒隊」という部隊だ。レーダーサイトの警戒・監視を24時間365日維持するためには整備や点検が不可欠だが、それによって監視に穴があいては困る。それを防ぐのが移動警戒隊の任務だ。
早期警戒管制機のレーダー
大型レーダーを搭載し、空中目標を探知追跡する
空自のE−767早期警戒管制機は、円盤形のドーム内に捜索レーダーを搭載した航空機で、地上の固定式レーダーと併用することでより遠方を早期に探知することを目的に運用されている。搭載する捜索レーダーは、周囲360度の広範囲を遠距離まで探索し、高速・高機動・レーダー有効反射面積が小さい目標までもが探知可能だ。ほかにも、陸・海・空各自衛隊の部隊とも通信を行い、陸上にあるレーダーサイトの代替や通信中継なども行う。
戦闘機のレーダー
機体の前方で周囲の目標を探知・捕捉する
戦闘機に搭載されているレーダーは、敵機の捜索・捕捉・追尾に加えて、ミサイルの誘導をはじめとする「火器管制」の機能も備えている点が特徴。多くの戦闘機のアンテナは機首内部に前方へ向けて設置されているだけで、側方や後方はカバーしていない。
上空を飛行する航空機だけでなく、洋上の艦艇や地上の車両を探知する機能を備えた機種もある。探知目標を細かに知る必要があり、高い分解能が求められるので、使用する電波の周波数は高い傾向にある。
航空管制用のレーダー
滑走路に進入する航空機の位置や高度を捉える
航空管制用のレーダーは、基地周辺を飛行する航空機や滑走路に進入する航空機の動向を把握するために運用している。管制官は、これらのレーダー情報をもとに、パイロットに指示を出している。
自衛隊のほか、国土交通省の航空局といった航空機を運用する機関でも使用している。飛行場によっては、滑走路や誘導路を行き来している航空機を監視するために、専用のレーダーを用意していることもある。
航空路監視用レーダーは探知可能距離が長くないと仕事にならないので、使用する電波の周波数は低め。飛行場とその周辺でだけ使用するレーダーでは分解能も大事なので、使用する電波の周波数は高めになるケースが多い。
護衛艦のレーダー
数種類のレーダーを目的に合わせて使い分ける
護衛艦は、広範囲にわたって飛行する航空機やミサイルを探知する「対空捜索用レーダー」や、周囲にいる船舶や、潜水艦が海面上に出した潜望鏡を探知する「水上捜索用レーダー」、ミサイルを目標に導くために目標を追尾したり誘導用の電波を発信したりする「ミサイル誘導レーダー」など 、多種多様なレーダーを備え、目的に応じて使い分けている。近年では、捜索、誘導などを1基で行う「多機能レーダー」を搭載した艦艇もある。
艦艇の主なレーダーの設置場所はマストなど。高い位置から電波を発射したほうが遠くまで届きやすいため、レーダーなどが集まっている。
ヘリコプターのレーダー
戦車や装甲車など、重要な探知目標を判別する
AH−64D戦闘ヘリコプターは、「ロングボウ・レーダー」という、地上の車両を探知・識別するためのレーダーを、ローター上部に備えている。地面や建物、植生から反射される電波を無視して、戦車や装甲車などの重要な探知目標からの反射波だけを判別し、100以上の目標を探知する機能を備えている。
地平線の向こう側までカバーする必要はないので探知距離はそれほど長くないが、機体の周囲360度にわたって広範囲を探知する。
(MAMOR2021年2月号)
<文/井上孝司>