日本全国にある自衛隊の基地・駐屯地の隊員食堂で自衛官たちはどんな料理を食べているのでしょう?ぜひ味わっていただこうとレシピを取り寄せました。
今回は滋賀県饗庭野分屯基地の「かしわのじゅんじゅん」。地元名産品“赤コンニャク”と“丁子麩”を鶏肉や野菜と一緒に煮た、すき焼き風の料理です。
弾道ミサイルを迎撃する饗庭野分屯基地
航空自衛隊饗庭野分屯基地は「琵琶湖」の北西岸、標高260メートルの場所に位置し、日本百名山の1つとして親しまれている伊吹山を遠くに望み、西国30番札所・宝厳寺がある竹生島を見下ろす、風光明媚な環境にあります。
基地は1972年3月に発足し、73年10月より第4高射群第12高射隊が所在しています。73年から92年までは地対空誘導弾「ナイキJ」(70年から導入され94年まで配備。現在は退役)を、93年からは地対空誘導弾「ペトリオット」を運用しています。ペトリオットは、日本に向けて飛来する敵航空機や弾道ミサイルなどを、地上から撃破するミサイルシステム。高射隊の主な任務は、有事の際に、このペトリオットシステムを用いて航空機部隊や、警戒管制部隊と連携して迎撃することです。
地元で愛される郷土料理「かしわのじゅんじゅん」
緊張が強いられる任務において、大きな楽しみとなるのはやはり食事。当隊員食堂から紹介する料理は「かしわのじゅんじゅん」です。
「かしわ」とは鶏肉のこと、「じゅんじゅん」とは具材を煮る音なのだそう。滋賀県に伝わる郷土料理で、鶏肉をメインに地元特産品の“赤コンニャク”や、もちもちとした食感が特徴の“丁子麩”を煮たもの。ほんのり甘いしょうゆ味はどこか懐かしい味わいです。
丁子麩はその昔、近江商人が日本中を歩いて丸い麩を販売していたのが、壊れにくくするために四角い形になったといわれています。一般のコンニャクや麩を用いてももちろん大丈夫。これに酢のもの、汁もの、デザートを添えれば栄養満点の献立になります。
訓練で疲れた後でも食べやすい、優しい味
隊員たちに食べた感想を聞いてみると……
「赤コンニャクの弾力ある食感や味の染み込んだ丁子麩がおいしかったです。訓練で疲れた後でも食べやすい優しい味でした」【士長/女性・20代】
「滋賀県名物の赤コンニャクと丁子麩の相性も抜群。多くの人に『じゅんじゅん』を食べてもらい、琵琶湖を感じてほしい!」【3曹/男性・30代】
「訓練後のすきっ腹には、麩に染み込んだしょうゆ味が最高! 滋賀県出身でない私には赤コンニャクの色は不思議でしたが」【士長/女性・20代】
食堂を守る栄養担当官
【航空自衛隊 饗庭野分屯基地 第12高射隊 基地業務小隊 厚生班 栄養担当官 安原裕美】
航空自衛隊に入隊して12年。もともとは別の職種に就いていたのですが、料理が好きで、栄養的なことにも興味があったので、自ら希望し、栄養士の資格をとりました。現在の配置になって2年、自分の考えた献立を隊員の皆さんがおいしそうに食べている様子を直接見られるので、やりがいがあり、挑戦してよかったと思います。
昼食時で約90人分を用意。どの年代の隊員にも好まれる、バラエティー豊かなメニューを心掛けています。琵琶湖は食堂からは見えませんが、屋上に出ると望め、晴れた日は本当に気持ちいいです!
「かしわのじゅんじゅん」のレシピを紹介
<材料(2人分)>
麩(丁子麩の場合は2個を各半分に切る):4個
赤コンニャク(薄切り):60g
鶏モモ肉(ひと口大に切る):1枚(300g)
タマネギ(約5㎜幅に切る):1/3個(80g)
白菜(食べやすく切る):1枚(80g)
木綿豆腐(食べやすく切る):1/2丁(150g)
長ネギ(1㎝幅の斜め切り):1本(80g)
[A]
だし汁:1カップ
みりん、しょうゆ、酒:各1/3カップ
<作り方>
1:麩は表示どおりに戻し、水気を絞る。赤コンニャクは熱湯でさっとゆで、湯をきる。
2:Ⓐは合わせておく。
3:鍋に鶏肉、タマネギ、白菜、豆腐、長ネギと①、②を入れて強火にかけ、沸騰したら中火にし、ふたをして10〜15分、全体に味が染み込むまで煮る。
4:器に③を盛る。
※隊員食堂で作られているレシピをもとに編集部で家庭向けにアレンジしました。
注目食材:赤コンニャク
滋賀県近江八幡市が発祥の地といわれ、板状や糸状のものがある。見た目のイメージとは違い、辛みはなく、つるっとして少し弾力のある歯応えが特徴。赤色の正体は“三二酸化鉄”と呼ばれる天然の食品添加物で、鉄分、食物繊維、カルシウムを多く含むヘルシー食材。赤い理由は近江八幡市に安土城を築いた派手好きの織田信長が命じたからなど諸説ある。
(MAMOR2021年3月号)
<調理/樋口秀子 文/富田純子 料理撮影/林紘輝(扶桑社) 写真提供/防衛省>