• 画像: 「ホワイトアローズ」の今後は、若手教官の技能をより向上させることと語る伊藤2佐。「進化した若手の曲技をもっとお見せしていきたいですね」

    「ホワイトアローズ」の今後は、若手教官の技能をより向上させることと語る伊藤2佐。「進化した若手の曲技をもっとお見せしていきたいですね」

     自衛隊のアクロバット飛行というと航空自衛隊の「ブルーインパルス」が有名だが、海上自衛隊には、プロペラ機で展示飛行をする「ホワイトアローズ」がある。大空に華麗なマニューバを描く“飛行機野郎”の正体は、航空要員を育てる教官たち。学生に操縦技術を伝えるため、機体の性能をギリギリまで引き出し、鮮やかに大空をダンスする。 

     そんな「ホワイトアローズ」をサポートし、また目標としている人々はチームの存在をどのように見て、何を感じているのだろうか。教育飛行隊長、同僚パイロット、飛行学生、整備員、航空学生それぞれの立場から「ホワイトアローズ」を語ってもらった。

    教官は学生が憧れる存在として腕を磨き続けなくてはいけません

    【第201教育航空隊 教育飛行隊長 2等海佐 伊藤 剛】

    「第201教育航空隊における『ホワイトアローズ』の役割は、操縦教官にT−5の飛行特性、運動性能の極限を追求した高度な飛行技術を体得させ、教育技法の習得と技能向上を目指すこと。そしてその教官の飛行を目の前で見た学生に目標となるパイロット像を持たせることです」と話す教育飛行隊長の伊藤2佐。教官自身が常に自身のスキルアップに挑戦する姿を見せることが学生の心を揺さぶるのだ。

    「曲技飛行を終えると『自分も教官になって、ホワイトアローズのメンバーになりたい』と目を輝かせている学生が何人もいます」

     伊藤2佐自身も「ホワイトアローズ」とともに最初に飛ぶ9機編隊の編隊長として、演技を上空から見守る。

    「学生の将来は海自航空部隊の将来そのものです。ここでの教育は、彼らの搭乗員人生に大きな影響を与えます。教官は自らを厳しく律し、学生は教官のその姿を見て、自分の将来像を描いてもらいたいですね」

    同じ教官の立場になって、改めて技量の高さを感じました

    画像: 教官でも上級の資格を目指している井口1尉。「上級の資格を取れば、担当の学生を持ち指導範囲も広がります。知識と技量を向上させたいです」

    教官でも上級の資格を目指している井口1尉。「上級の資格を取れば、担当の学生を持ち指導範囲も広がります。知識と技量を向上させたいです」

    【第201教育航空隊 教官 1等海尉 井口芙美】

     井口1尉は2020年1月に教官になった。教官としては駆け出しに当たる彼女にとって、「ホワイトアローズ」は目標の存在だ。

    「飛行学生のときに9機編隊で飛ぶT−5を初めて見て、感動しました。ダイヤモンド形に9機が密集していて、とにかくカッコいいなと」

     教官になるとともに、井口1尉は「ホワイトアローズ」と一緒に飛ぶ9機編隊の5番機の副操縦士にも抜擢された。初めての編隊飛行訓練で3メートル間隔でぴったりそろって飛行する9機のT−5を副操縦士席から見て、改めてすごいと思ったという。

    「将来は『ホワイトアローズ』のメンバーになりたい反面、今でもあのフライトはすごいと思いますね。よくあの低高度で曲技ができるなと。メンバーの技量にはいつも感心させられます」

     憧れに1歩近づいた井口1尉は、いつか自分が抱いた感動を、学生をはじめみんなにも与えられる存在になりたいと意気込んでいる。

    「ホワイトアローズ」はすごい。自分では同じように飛べません

    「まずは操縦士の資格であるウイングマークを取得したい」と犬井3尉。毎日の訓練において教官を信じて、基本を大切に訓練を重ねている

    【第201教育航空隊 飛行学生 3等海尉 犬井理恵】

     大学時代に海外留学を経験し、世界で活躍する海上自衛隊に興味を持って入隊した犬井3尉。より最前線での勤務を希望して航空機パイロットを目指し、飛行学生になった。今ようやく、学生だけでT−5を操縦するソロフライトの検定に合格した。

    「上空で何かが起こっても学生だけで対処していかなければならないので、ものすごく緊張しました」

     同じT−5でも教官が操縦すると機体の安定感がまるで違う。さらに「ホワイトアローズ」の演目となると、今の自分にはできないと痛感する。犬井3尉は、「ホワイトアローズ」をはるか雲の上の存在と感じている。

    「単純に見ていてすごいなと思います。これから編隊飛行の訓練も行うのですが、『ホワイトアローズ』のようにぴったりと編隊を組んで飛ぶことができるのかと不安です。でもできれば自分もあの一員に加わりたいと思っています」

     犬井3尉に新たな目標が加わったようだ。

    信頼される整備員となってパイロットの期待に応えたい

    画像: 将来的にはP-1哨戒機の整備に携わってみたいという小川士長。「小型のT-5は大型機に比べれば点検項目も多くはありません。だからこそ着実に整備しています」

    将来的にはP-1哨戒機の整備に携わってみたいという小川士長。「小型のT-5は大型機に比べれば点検項目も多くはありません。だからこそ着実に整備しています」

    【第201教育航空隊 整備員 海士長 小川純矢】

     海自の航空機には複数の搭乗員が乗り込む。そのせいか押しなべて操縦士は「自分たちだけでは空は飛べない。航空士、整備員などの支えがあってこそ」と言う。その信頼感を日々感じていると小川士長は語る。

    「T−5の整備は、原則として整備員1人で1機を全て点検しています。『ホワイトアローズ』の華麗な演技を安心して行ってもらえるように、どんな小さな不具合も見逃さないようにしっかりと整備しなければと責任を感じます」

     もともと東日本大震災で活動している自衛官の姿を見て入隊したという小川士長。「『ホワイトアローズ』だけでなく、全操縦士から信頼される整備員を目指しています。そのために大切なのは、何よりも基本。さらに整備知識の向上や、整備員同士の情報共有を大切にしたいです」と抱負を語った。

    技量を持った教官の指導を受け、1歩1歩成長していきたい

    画像: ファンシードリル演技用の制服を着た花森3曹。ドリルの息の合った動作は、チームで行動する海自の航空機での任務にも必ず生きる

    ファンシードリル演技用の制服を着た花森3曹。ドリルの息の合った動作は、チームで行動する海自の航空機での任務にも必ず生きる

    【小月教育航空隊 航空学生 3等海曹 花森廉】

     小月航空基地開隊55周年記念式典で、航空学生の華麗なファンシードリルを指揮した花森3曹。彼にとってパイロットは夢。夢に最短で近づく道として航空学生を志願した。同期とともに1年半にわたり苦楽をともにし、切磋琢磨してきた。その花森3曹にとって教官はお手本である。

    「航空機を真っすぐ飛ばすだけでも大変なのに、『ホワイトアローズ』の教官方はそれを自由自在に操縦している。驚きとともに、そんなアクロバット飛行ができる教官に教われることがうれしいです」

     なれるなら、将来自分も「ホワイトアローズ」のメンバーになりたい。不安もあるが楽しみでもある。大きな期待を胸に、花森3曹は次のステップである飛行学生へと進んでいく。

    (MAMOR2021年3月号)

    <文/古里学 写真/長尾浩之>

    国防の空を舞う華麗なる飛行機野郎たち

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