•  海上自衛隊では、2019年から最前線で負傷者の生命を守る第一線救護衛生員の養成が進んでいます。1分1秒、手当の遅れが死につながる状況下で、自身も危険な状況にさらされながら的確な緊急救命行為を施さなければならないため、強い精神力と医療知識に裏付けられた処置を求められる第一線救護衛生員を教育する海自の自衛隊横須賀病院教育部を紹介します。

    第一線救護衛生員を要請する「自衛隊横須賀病院教育部」とは

    画像: 自衛隊横須賀病院教育部は、座学や実習を通して衛生の専門技術と知識を指導。学生は隊舎で生活し集中的に学習をする

    自衛隊横須賀病院教育部は、座学や実習を通して衛生の専門技術と知識を指導。学生は隊舎で生活し集中的に学習をする

     海上自衛隊の職種の1つである「衛生」は、隊員の健康管理、訓練などにおける救護、衛生資材の管理など医療関連の任務に携わる。衛生員は基地内、艦艇や潜水艦内、航空機内など、活動の場が幅広く、准看護師免許やスキルアップとして救急救命士などの資格取得も可能だ。これら海自の衛生に関わる教育を担当するのが自衛隊横須賀病院の教育部だ。

     自衛隊病院とは、防衛省が設置・運営する陸・海・空各自衛隊の共同機関で、その中の1つである自衛隊横須賀病院は海上幕僚長が指揮・監督する5つの自衛隊病院(大湊、横須賀、舞鶴、呉、佐世保)の中核・基幹病院に位置づけられている。教育部の前身は1953年に開設された「海上警備術科学校乙種普通科衛生課程」で、56年に教育部が開設。64年に准看護師の、95年に救急救命士の養成所が発足した。教育部の庁舎は横須賀・久里浜地区にあったが、2012年9月に現在の横須賀・田浦地区に移転した。

    時には医療責任者として進言もする衛生員

    教育部長の小倉2佐の指導方針は「自覚」。学生には艦艇などでは傷病者を実際に診るのは自分だけと自覚して、自律的、積極的に学んでほしいという

     教育部長の小倉友美2等海佐は衛生員の重要性について、「海自は基本的に洋上で任務を行うため、陸上にある病院へ傷病者を搬送するには時間がかかります。長期の任務以外では艦艇に医官(医師免許を持つ自衛官)が乗艦しないことも多く、艦艇の傷病者を診るのは衛生員です。医療の責任者として時には上官に艦艇を港に引き返すよう進言します」と話す。

    自衛隊横須賀病院教育部の衛生の教育

     衛生の教育を行う自衛隊横須賀病院教育部のカリキュラムを紹介しよう。衛生員を目指す隊員は、自衛官としての基本を学ぶ教育隊修了後に海曹(士)衛生課程に入校し2年の教育を受け、准看護師免許の取得を目指す。免許取得後は「衛生員」となり自衛隊横須賀病院にて1年間の臨床研修を行い、臨床研修後に部隊勤務となる。その後、本人の希望と適性により救急救命士課程入り、1年の教育で救急救命士の国家資格取得を目指す。

     次の教育として第一線救護衛生員の育成が行われる。「陸上自衛隊で2017年より始まった第一線救護衛生員の教育を、海自でも19年から教育部で行っています。海域の広い南西諸島における防衛上の問題に対応するため、万が一の有事の際に医師免許を持つ者しかできない緊急救命行為ができる隊員を育成する必要性が高まったためです」と小倉2佐。

    海上自衛隊「衛生」の教育課程(例)

    画像: 海上自衛隊「衛生」の教育課程(例)

     衛生の隊員は部隊での錬成と学校での教育を繰り返し、スキルアップを図る。自衛隊横須賀病院教育部での第一線救護衛生員教育のほか、部外委託教育の看護師課程(2年)や陸上自衛隊に委託教育の診療放射線技師(3年)、臨床検査技師(3年)などのコースもある。上のチャート図で紹介したコースのほかに潜水艦や航空機に搭乗するための知識を学ぶコースもある。

    自衛隊横須賀病院教育部で行う自衛官としての教育

    画像1: 自衛隊横須賀病院教育部で行う自衛官としての教育

     海士衛生課程入校直後に行う夜間訓練行軍。夏季には富士山登山訓練も実施し、強い精神力と学生の団結力を高める。

    画像2: 自衛隊横須賀病院教育部で行う自衛官としての教育

     艦艇などで万が一の火災が発生した際に備え、消火訓練を行う。防火服を着用し、消火の手順を一から学習する。

    画像3: 自衛隊横須賀病院教育部で行う自衛官としての教育

     衛生員といえども、自衛官として銃の取り扱いは覚える。64式7.62ミリ小銃を使い執銃・射撃訓練を行う。

    画像4: 自衛隊横須賀病院教育部で行う自衛官としての教育

     夏季に行われる遠泳訓練。水泳は海自隊員なら誰もができなければならない基本で、泳げない者も泳げるように訓練する。

    (MAMOR2021年8月号)

    <文/古里学 写真/村上由美 訓練写真提供/4点とも防衛省>

    第一線救護衛生員の育て方

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