•  全国で15個ある陸上自衛隊の師団・旅団に編成されている偵察隊をメインに、普通科部隊の情報小隊などにも配備されているのが『オートバイ(偵察用)』だ。通称「偵察オート」と呼ばれるこのバイクはオフロードタイプで、高い機動力と悪路走破性などを備えていることから、重要な装備となっている。災害派遣活動の報道などで目にしたことがある読者もいるかもしれない。

     この偵察オートとは、どんな特徴があり、どういう任務で使われているのだろうか。群馬県相馬原駐屯地に所在する、第12旅団に属する第12偵察隊に取材を敢行し、偵察オートの実力に迫ってみた。

    「偵察オート」のスペックを紹介

    画像: 「偵察オート」のスペックを紹介

    オートバイ(偵察用)
     カワサキの市販オフロードバイク「KLX250」をベースに、自衛隊の偵察車両として必要な装備と改造が施されたマシン。

     エンジンのスペックや車体サイズ、タイヤやブレーキなどの性能、燃料タンク容量などは市販車と同じだが、車体各部にガード類が取り付けられているほか、フレームの一部が補強されている。車体の色はOD(オリーブドラブ:濃緑色)に塗装され、フレームやカウリング類、スイングアームなども同様に塗装が施されている。

     フロントフォークのように市販車では無塗装の金属部分も、光が反射して目立たないようODか黒に塗られている。イベントでのドリル展示や演習での作戦行動時、航空機に搭載する際などはバックミラーを取り外す。

    <SPEC>
    全長:約2.1m 全幅:約0.9m 全高:約1.2m 重量:約154㎏ 最高速度:約135㎞/h 乗員:1人 エンジン形式:4ストローク水冷DOHC単気筒 排気量:249cc 最高出力:24PS 最大トルク:2.1kgf・m 駆動方式:チェーン 変速機形式:リターン式6段

    偵察オートの特徴的な装備

    味方に位置が伝わる最小限のランプを装備

    画像: ヘッドライト右脇の円形のランプが管制灯火

    ヘッドライト右脇の円形のランプが管制灯火

    画像: テールランプの両端には管制灯火とブレーキランプを備える

    テールランプの両端には管制灯火とブレーキランプを備える

     演習時の夜間走行では、敵に見つからないようヘッドライトやウインカーなど灯火類はカバーをかぶせて光が漏れないようにするが、味方に位置が分かるよう、暗闇でもわずかに判別できる最小限のランプ(管制灯火)をヘッドライト右脇とテールランプ右側に装備する。後部のテールランプ左側はブレーキランプの役割を持つ。

    タッチパネルで無線を操作

    画像: 左ハンドルのグリップ横には通話用のスイッチを搭載

    左ハンドルのグリップ横には通話用のスイッチを搭載

     無線機本体は車体後部にあるが、操作はハンドル中央のタッチパネル端末で行える。左ハンドル右側には通話する際に押すスイッチがある。

    無線機用のキャリアを装備

    画像: 無線機用のキャリアを装備

     車体後部右側には無線機を収納するための専用キャリアを備えている。無線は取り外して持ち運びができ、アンテナは移動時などに折り畳みが可能。

    市販車にはない特徴も

    自衛隊の桜のマーク

    画像: 自衛隊の桜のマーク

     フロントフェンダーもODに塗られているが、自衛隊車両であることを表す桜のマークが白色で表示されている。

    各種ガードを装備

    画像1: 各種ガードを装備
    画像2: 各種ガードを装備

     ヘッドライトやエンジンの脇、車体後部などには、転倒時の車両破損防止や隊員の保護目的でパイプ状のガードが装着されている。

    たくさん積めるリアキャリア

    画像: たくさん積めるリアキャリア

     リアシートの後ろ側には大型のキャリアを装備。遠方の演習場への移動や演習中には食料や着替えなどを入れた大きな背のうを載せて固定する。

    消灯スイッチを増設

    画像: 消灯スイッチを増設

     市販車にはない灯火管制用スイッチを装備。0番は電源断、1番はブレーキランプのみ、2番は全点灯、3・4番は夜間走行(管制灯火)用。

    これが偵察オート隊員の装備だ!

     オート隊員は、普通科隊員などが着る迷彩戦闘服と半長靴で乗車する。サスペンダーには弾薬を入れる弾のうを装備。ヘルメットとゴーグルは公道で乗車するときのもので、演習時には鉄帽を着用し、敵との遭遇を想定し89式5.56mm小銃を携えて走行する。イベントでは、走りながら立位での射撃や、バイクを倒して盾にした状態での射撃などを披露する。

    冬季用乗車服

     冬季用に厚手のオートバイ乗車服があるが、動きにくいため実際に着る隊員は少なく、一般隊員用の防寒戦闘服外衣2型や雨衣などで寒さ対策をすることが多いそう。

    偵察オートは「過酷な訓練に耐えうる相棒」

    画像: 偵察オートは「過酷な訓練に耐えうる相棒」

    \隊員の声/

    「訓練では倒したり小川を渡ったり、荒れた地形や獣道を走るなど、とにかく過酷な状態で走りますが故障はほとんどありません。単なる移動手段だけでなく、時には身を守る存在でもある頼もしい相棒です。実は私有車として同じ車種を所有する隊員も多いんですよ」【第12偵察隊 飯沼裕慧 陸曹長】

    (MAMOR2021年8月号)

    <文/野岸泰之 撮影/楠堂亜希>

    自衛隊ライダー、参上!

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