•  2025年6月15、16日の両日、海上自衛隊は、無人機雷排除システムの運用試験を硫黄島周辺で実施し、見事成功した。

     護衛艦『もがみ』の無人機雷排除システムは世界で最新鋭の装備品。だが、それを運用するのはあくまでも「人」だ。いくら機能性の高い装備品といえども、それを巧みに操る隊員がいなければ宝の持ち腐れとなる。

     この『もがみ』の新システムを運用しているのは、どのような隊員たちなのか。

     前例のない装備品を扱う苦労ややりがい、そして硫黄島での運用試験にまつわる逸話などについて、少数精鋭の『もがみ』の乗員たちに話を聞いた。

    艦長:『もがみ』型1番艦として新システムの標準化を図る

    「これまでにない領域での仕事を任された『もがみ』では、これからも挑戦の連続となる」と話す大瀬2佐

    「無人での機雷排除システムによって、EOD員(Explosive Ordnance Disposal:水中処分員)が危険な海域に身を投じることなく、また、鉄の艦船である護衛艦でも機雷の排除が可能になることは、安全面はもちろん、戦略的にも大きな転換点の1つになると思います。

     対空戦や対潜水艦戦、対水上戦などの各種戦能力に加えて機雷掃討の任務が付与されたことで、従来よりも作戦の幅が広がるでしょう」

    『もがみ』の艦長・大瀬2等海佐はそう力説する。その一方で、USV(Unmanned Surface Vehicle:機雷処分用水上無人機)やEMD(Expendable Mine Disposal:自走式機雷処分用弾薬)などを運用する際、戦力の無人化に伴う通信環境などのインフラの整備がより重要になると言う。

    「インフラの設備の保全に努めるとともに、それらが機能不全になるなど、絶えず最悪の場合を想定して対処する必要があるのです」

     実際に、硫黄島で行われた運用試験でも、USVが指示どおりに作動しないなど問題が発生したという。

    「海中は、海底の地形や潮流の影響などにより、常時、変化し続ける環境です。そうした環境下では、次々に課題が発生するので、訓練を通してそれらを克服していきたいと思います」

     失敗は許されないという覚悟で挑んでいたため、硫黄島での成功には安堵感でいっぱいになったという大瀬2佐。だが、それでもようやくスタートラインに立ったに過ぎないと、身を引き締める。

    「護衛艦と掃海艇の能力を併せ持つ『もがみ』には、さまざまな任務での活躍が期待されています。今後も1つひとつの経験を積み重ね、『もがみ』型1番艦として、新たなシステムの標準化を図っていきたいと思います」

    掃海長:後継護衛艦に引き継ぐため訓練や試験のデータを蓄積

    部下に対しては、「問題意識を持ち、不具合などの原因を考えるように指導しています。物事の理解の解像度が上がれば、自分がやるべきことが見えてくるからです」と話す安部2佐

     ほかの護衛艦の任務にはない「掃海長」という役職に就く安部2等海佐。

    「音波を利用して海中の機雷を見つける水測や、機雷の掃海・水中処分などに関する任務を担当しています。また、『もがみ』の掃海艇の機能全般を指揮する掃海長として、艦長を補佐する立場でもあります。

     護衛艦と掃海艇の2つの役割を兼ね、乗員も少ない『もがみ』では、1人あたりの任務の量が多く多忙を極めます」と安部2佐は言う。

     そのため、「訓練の回数が限られてくるので、毎回しっかりと目標を設定し、綿密な計画を立てて訓練を行っています。また、訓練後には不具合事項を抽出し、その改善のための方策を考える、PDCAサイクル(注)を実行しています」。

     新規の装備品である『もがみ』と無人機雷排除システムの運用では、各所で初期不良が発生したという。

    「運用するたびに不具合が出て、計画したとおりに訓練が進まないことが続き、私の前任者も含めて大変苦労しました。それでも、『もがみ』で培った知見がほかの同型の護衛艦にも引き継がれるよう、以後の教育訓練や研究開発に活用可能なデータを、訓練で取得し蓄積していくように心がけています」

    (注)Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の4つのステップを繰り返し実行し、業務の品質や効率を継続的に向上させるマネジメント法

    掃海士:船全体を明るくするような幹部自衛官を目指したい

    画像: 硫黄島でのシステム運用試験では、「幹部自衛官として、乗員を1人もけがさせることなく安全に任務を達成することができて、とにかくホッとしました」と話す植田3尉

    硫黄島でのシステム運用試験では、「幹部自衛官として、乗員を1人もけがさせることなく安全に任務を達成することができて、とにかくホッとしました」と話す植田3尉

    「『もがみ』の掃海士として、機雷掃討の訓練時に後部作業指揮官という配置についています」と話す、植田3等海尉。

    「具体的には後部ハッチのある区画で処分艇とUSVの発進・揚収を行う際、10人ほどの作業員を指揮する作業監督しています。そのほかには掃海長の補佐にもついています」

     初めて幹部として着任したのが『もがみ』だという植田3尉は、当初、機雷や無人機雷排除システムについてほとんど知識がなかったという。

    「USVやEMDの仕組みについて短期間で理解する必要があったので、機雷や掃海に関係する単語を1つずつ覚えることからはじめ、さまざまな資料を読んで勉強しました。

     大変でしたが、そのかいあって今では知識が増えてきたので、ベテランの乗員と同じレベルで話し合えるのがうれしいです。今後の目標は部下が『明日もここで働きたい』と思えるような、風通しのいい明るい職場にする幹部自衛官になること」と言う。

    「今は自らの掃海に関わる術科技能を磨きつつ、船乗りとして必要な知識をさらに増やすこと。将来的には、船全体をも明るくできるような幹部自衛官を目指しています」

    掃海員長:護衛艦と掃海艇、両部門の連携や練度向上を目指したい

    画像: 幹部と曹士の調整役でもある吉澤1曹。「『もがみ』では幹部と曹士が同じ空間で食事をしており、コミュニケーションが取りやすい環境にあると思います」と言う

    幹部と曹士の調整役でもある吉澤1曹。「『もがみ』では幹部と曹士が同じ空間で食事をしており、コミュニケーションが取りやすい環境にあると思います」と言う

     吉澤1等海曹は掃海員長として、USVとEMDの整備や運用時の準備を担当。

    「初めて扱う機器なので、最適な運用方法や作業効率を掃海員たち皆で考えて作業をしています。そこで出された意見をとりまとめ、より良い方法を導きだすことも私の役割です」と話す。

     無人機雷排除システムの訓練や運用試験で、吉澤1曹が特に注意を要したのが、EMDの取り扱いだったという。

    「EMDをUSVとつなぐケーブルは1キロメートル以上もあります。EMDを海中へ投下した後、それがUSVの航行中に絡まないようにしなければなりません。ですから、EMDを投下する際には、ケーブルの方向や角度に気を付け、慎重に行っています」

     吉澤1曹が最も重要視しているのは、各担当との連携だ。

    「掃海任務になじみのない、護衛艦の機能を担当する乗員たちとの連携には気を配っています。相手の立場に立ってコミュニケーションをとるよう心がけ、協力し合う中でチームプレーができるようになり、それが硫黄島での成功につながったと思います。

    『もがみ』にはマルチタスクが可能で、チャレンジ精神のある乗員が多いので、彼らと練度を向上していければと思います」

    (MAMOR2025年12月号)

    <文/魚本拓 写真/山川修一(扶桑社>

    水上ドローンで機雷処分に成功!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

    This article is a sponsored article by
    ''.