陸上自衛隊による国内最大の実弾射撃演習といわれている「富士総合火力演習」(総火演)は、教育効果の追求によって訓練重視のスタイルに大きな進化を遂げている。
進化した総火演で、陸上自衛隊は強くなるのか?
総火演の演出構成の立案に携わった松本2佐と、訓練の現場を取りまとめる松田3佐に話を聞いてみた。
「教育への集中」で大きく変わった総火演

かつては一般公開された“見せる”総火演は、現在、教育・研修を主眼に置いた形式へと変わった。この方針転換によって、まず「隊員の負担軽減」という明確な効果が生まれたという。
「一般公開には、会場案内や駐車場の整理誘導などのため、数百人の隊員が駆り出されていましたが、今回それがなくなり、多くの隊員たちは訓練などに専念できるようになりました」
こう語るのは、富士学校諸職種協同センター計画課訓練班長で、演習内容の企画や部隊統制を担う松本2等陸佐。
演習内容そのものも再構成されている。従来は一般向けの分かりやすさを意識していたが、教育に特化したことで大きく変更された。
「展示内容がリアル志向になり、教育中の隊員の理解も深まりやすくなったのではと思います」
富士教導団団本部第3科訓練班長兼ねて演習実施部隊の訓練主務者として、総火演の運営、参加部隊の調整や指導を行う松田3等陸佐も、変化とメリットを実感したそうだ。
よりリアルになった「体験」が高い教育効果を生み出す

島しょ部に侵攻しようとする敵艦艇に対して、ミサイルを配置するシーン。設置から展開・発射までの一連の流れを展示。発射シーンは、会場に設置された大型モニターに映し出された
総火演は時代に応じてリニューアルを繰り返しているが、今年度の総火演では、演習の構成だけでなく会場レイアウトも大胆に刷新された。
「従来は、観客の安全確保もあり、車両は会場を横切るしかありませんでした。しかし実際の戦闘は前進・後退を伴う縦の動きが基本。そこで今回は、観覧席後方から前方へ進出できる新たな通路を設け、奥行きを意識した構成が可能になりました」と松本2佐。
道路の追加は、総火演の歴史上でもまれに見る大きな改革だという。これによって、実際の戦闘に近い動きを観覧席から視覚的に追えるように。奥行き、立体感を意識した演習構成ができた。
さらに、火力戦闘の場面を全て見せるのではなく、教育的に重要なシーンを厳選して構成。ナレーションでテンポ良くつなぎ、より見せ場を集中させて理解を促進させるようにした。
見せ方の変化について、松田3佐も次のように語る。
「防御と攻撃をそれぞれ明確に分けて展示したほか、塹壕戦やドローンによる戦術、火炎地帯の構成など現代戦の要素もふんだんに盛り込み、教育効果の高い場面を取り入れています」
今回の総火演では、新装備、新戦術の使用を伴うリアルな訓練展示も、隊員の、そして部隊の「強さ」に直結しうる教育効果を生み出しているのだ。
松田3佐は「他職種の運用や最新の戦い方を直に見て学ぶことで、参加者自身の引き出しが増えます。それが原隊に戻ってからの錬成に生き、結果的に自衛隊全体の底上げにつながるでしょう」と演習実施部隊の立場からも教育効果を語ってくれた。
【松本2佐】
教育、訓練に関する関係機関・部隊との調整を担当。総火演では、演習全体の「設計者」として、安全性・効果・最新の戦術動向を兼ね備えた演出構成の立案に尽力
【松田3佐】
総火演に参加する部隊のほか、富士教導団における教育訓練の統括を行う。半年以上におよぶ、総火演の準備期間を通じて現場を取りまとめる中心的存在
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※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです


