•  陸上自衛隊による国内最大の実弾射撃演習といわれている「富士総合火力演習」(総火演)は、教育効果の追求によって訓練重視のスタイルに大きな進化を遂げている。

     2025年6月8日に実施された総火演を、自衛隊ファンというタレント・小杉怜子さんをアシスタントに、軍事フォトジャーナリストの菊池雅之氏が実況中継する。

     「塹壕戦」や「退役した火砲の砲弾を使った新戦術」にフォーカスし、変化したポイントを解説していただいた。

    進化する「富士総合火力演習」

    画像: 進化する「富士総合火力演習」

     静岡県御殿場市の東富士演習場で毎年行われる「富士総合火力演習」は、陸上自衛隊が行う最大級の実弾射撃演習。

     教育中の隊員(学生)などに向けた教育目的の演習で、1961年の開始以来、今年で67回目を迎えた。

     67年からは国民に対する自衛隊の理解促進を目的に一般公開が始まり、2010年代には広く知られるように。

     観覧には事前申し込みが必要だったが、19年の公開最終年には応募倍率が約27倍となり、入場券は“プラチナチケット”と呼ばれるほど入手困難だった。

     しかし20年以降はコロナ禍の影響で一般公開を休止。23年度からは、現地での観覧は教育を受ける隊員のほか、入隊を考えている高校生などの招待者や報道関係者のみにとどめ、一般向けは、インターネット上でのライブ動画配信のみの開催へと移行した。

     そして25年度の総火演は、およそ3000人の隊員、車両50両、航空機20機が参加し、迫力とスピードを追求するとともにウクライナでの戦闘の教訓を取り入れるなど、これまでにない趣向で実施された。

     その模様を、菊池氏が当日、現地で取材し、小杉さんと共に誌上で実況中継。

     教育効果を重視した昨年度までとの変化点、“見せる”から“強くなる”への進化ポイントを解説いただいた。

    塹壕での戦闘シーンが新しい!

    画像: 本格的な塹壕を使ったリアルな戦闘シーンがSNS上で話題に。総火演の会場では自衛官ナレーターによって、観覧者向けに状況が解説されるが、ウクライナでの戦闘についても触れられていた

    本格的な塹壕を使ったリアルな戦闘シーンがSNS上で話題に。総火演の会場では自衛官ナレーターによって、観覧者向けに状況が解説されるが、ウクライナでの戦闘についても触れられていた

    菊池雅之(以下、菊池):2025年度の総火演で一番大きく変わったのは、地面に掘った堀(塹壕)で戦う「塹壕戦」が追加されたことですね。小杉さん、どう感じましたか?

    小杉怜子(以下、小杉):私、ゲームが好きなので「まるでFPSゲーム(注)みたいだな」とドキドキして見ていました。

     ユーチューブでもライブ動画配信されていて、視聴者コメント欄にも同じ意見が多く投稿されていますね。

     これは、今までになかった演習項目なんですか?

    画像: ドローンによる上空からの映像もたっぷり。隊員同士が連携する様子をつぶさに観察できる

    ドローンによる上空からの映像もたっぷり。隊員同士が連携する様子をつぶさに観察できる

    菊池:はい。塹壕戦がフィーチャーされたのは初めてです。

     昔の総火演でも、レンジャー隊員が橋を爆破する演目などはあり、普通科隊員の動きを見せることはありましたが、今回の塹壕戦は時代に合わせた最新の内容といえるでしょう。

     これを総火演で展示したことには私自身も驚きましたし、陸上自衛隊の本気を感じました。

    小杉:ウクライナ軍が塹壕で戦う映像をニュースで見たことがあります。

    菊池:そうですね。自衛隊でもウクライナでの情報はきちんと収集、分析しています。塹壕戦は、現代では古い戦い方とみなされてきましたが、今再び注目されています。

     陸自でも塹壕戦の教育を行っているようですし、今回の総火演もその表れといえるでしょう。

    画像: 隊員のボディーカメラの映像も取り入れられ、迫力あるシーンが現地の大型モニターやライブ動画で観られた

    隊員のボディーカメラの映像も取り入れられ、迫力あるシーンが現地の大型モニターやライブ動画で観られた

    小杉:それにしても大迫力でしたね!

    菊池:隊員の体に装着したボディーカメラや、ドローンの映像も組み合わせて非常にリアルでしたね。ライブ動画での見せ方も、かなり工夫されていますね。

    (注)ゲーム内のキャラクターの視点を通じてプレイするゲーム

    気になった装備品をチェック!

    画像: 気になった装備品をチェック!

    【スカイレンジャー】
    近距離の偵察用として各部隊に配備が進められているドローン <SPEC>全高:約34cm 全幅:約1m 重量:約2.5kg 

    退役した火砲の砲弾を使った新戦術!

    画像: 複数の203ミリ砲弾がリモートで爆破され、ごう音とともに、爆炎が上がる。演習場の地面が大きくえぐられ、その衝撃の大きさがうかがえる

    複数の203ミリ砲弾がリモートで爆破され、ごう音とともに、爆炎が上がる。演習場の地面が大きくえぐられ、その衝撃の大きさがうかがえる

    小杉:キャッ、突然地面が爆発しました! あれは何でしょうか?
     
    菊池:退役した203ミリ自走りゅう弾砲の砲弾を有効活用した戦術なんです。

    画像: 1発約90キログラムある砲弾を敵の侵攻が予測される場所に設置。起爆装置やコードを取り付け、リモートで爆破できるように爆薬をセットする隊員

    1発約90キログラムある砲弾を敵の侵攻が予測される場所に設置。起爆装置やコードを取り付け、リモートで爆破できるように爆薬をセットする隊員

     火砲の砲弾を事前に設置、敵の侵攻に合わせてリモートで爆破しました。威力のある弾なので、火砲から発射しなくても十分な威力が期待できます。

     税金で調達した弾を最後の一発まで捨てずに有効活用する、という姿勢を私は感じました。

    画像: ガソリンなどに火を付け、火炎地帯を構成して敵の進出を妨害する。見た目が派手なだけではなく、高価な装備を使わずとも敵を阻止できるという「リアルな戦い方」だ

    ガソリンなどに火を付け、火炎地帯を構成して敵の進出を妨害する。見た目が派手なだけではなく、高価な装備を使わずとも敵を阻止できるという「リアルな戦い方」だ

    小杉:ワッ! 今度は地面から火が噴き上がりました。

    菊池:こちらはガソリンを使った「火炎障害」です。炎が壁のように立ち上がって、敵を近づけません。実戦に即していますし、着目点としても面白かったです。

     退役した火砲の砲弾を爆発させたり、ただガソリンに火を付けるなど、「活用できるものは何でも使って戦おう」というひっ迫感がありますね。

     最新の装備品を使ったスマートな戦い方ではないものの、命を懸けて必死にあらがう泥臭さがにじみ出ていて、塹壕戦と同様、あえて“現実的な戦争”に近い戦い方を見せた点にリアリティーがありました。

     従来の“見せる”ことを重視した総火演とは違った一面が表現されていたと思います。

    【解説/菊池雅之氏】
    1975年、東京都出身。雑誌の専属カメラマンを経て、現在はフリーの軍事フォトジャーナリストとして世界各国の軍や自衛隊を取材。総火演は少年時代から見続けており、30年超のキャリアで得た視点から、その変化を語る

    【アシスタント/小杉怜子さん】
    2004年、神奈川県出身。ミスコンテスト「FRESH CAMPUS CONTEST 2002」(エイジ・エンタテインメント主催)にてグランプリ受賞。中学時代に家族で総火演を見て以来、自衛隊の装備品や訓練に興味を持つように

    (MAMOR2025年10月号)

    <文/臼井総理 写真/荒井健、増元幸司(菊池雅之)、星亘(扶桑社、小杉怜子) 写真提供/防衛省>

    富士総合火力演習の進化を実況解説!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

    This article is a sponsored article by
    ''.