働きながら、時には「即応予備自衛官」として国を守るお笑い芸人のちっぴぃちゃんズが、自衛隊の訓練に参加するというので取材に伺った。
元自衛官という経験を生かした活躍ぶりを通して、予備自衛官という制度について紹介しよう。
【ちっぴぃちゃんズ】
1987年、高知県出身。2006年から10年間、陸上自衛隊重迫撃砲中隊員として勤務。退職後、17年から芸人として活動。黄色いインコ「ぴぃちゃん」と共に自衛官ネタを披露しながら、即応予備自衛官としても活動している
一般市民として働き、有事は「予備自衛官」に
防衛省・自衛隊では、いざというときに必要な防衛力をすばやく確保するため、平時から「予備自衛官等制度」を整備・運用している。普段は社会人や学生として生活しながら、年間に定められた日数の訓練に臨み、有事や災害時には招集に応じて出頭し、自衛官として活動するというものだ。
「予備自衛官等制度」には、大きく分けて3つの区分がある。中でも「即応予備自衛官」は、有事には第一線部隊の一員として現役自衛官とともに活動するので、「予備自衛官」や「予備自衛官補」と比べて訓練する日数も多い。
吉本興業所属のお笑い芸人「ちっぴぃちゃんズ」は、元々自衛官として約10年の経験を持ち、退職後、即応予備自衛官としても活動している。最近では、ユーチューブなど動画メディアでも人気を博している。
今回は、そんな彼女が即応予備自衛官として参加した訓練にマモル取材班が密着。どんな訓練を行っているのか、レポートする。
1日目:120ミリ重迫撃砲の発射要領を訓練

2025年2月某日。陸上自衛隊千両演習場(愛知県)に、各地から集結した即応予備自衛官たちがいた。この日は、120ミリ重迫撃砲の発射要領を訓練する。
集合した即応予備自衛官たちは、訓練をサポートする自衛官から訓練内容や手順についての説明を受けたあと、4つの分隊に分かれて砲の展開要領、射撃までの流れをおさらいする。

照準具をのぞいて、精密に方角を測定する分隊員。わずかな角度のずれで砲撃は当たらない
射撃を行うには、重迫撃砲を高機動車から切り離すことからスタート。砲を陣地に据え付けると同時に車両に積まれた各種器材を降ろし、敵の目から砲を隠す、偽装網の展開も並行して行う。
迫撃砲は、直接見える目標に向かって狙いを付ける小銃や戦車砲なとどは異なり「間接照準」という、目標の位置を地図や観測によって把握し、方位や角度を計算するやり方で遠くの目標に狙いを付ける。

準備完了後、初弾を発射。観測班から着弾点の報告を受け、徐々に精度を高めていく
砲の設置が完了したら、発射する砲弾(模擬弾)を準備して、発射。
ちっぴぃちゃんズも、ほかの隊員と同様に担当するポジションを移動しながら何度も演練を行う。通信機を使って連絡するときは、通りの良い声で歯切れ良く号令を復唱していた。

訓練中はドローンの出現や敵の攻撃などが発生した想定で、隊員たちは一時避難。安全確認ができたら砲撃再開だ
突然響き渡る「対空警報、赤警報発令!」の大きな声。同時に、車両のクラクションが3回鳴らされる。敵のドローンが近づいて来た、という想定だ。爆弾で一掃されないよう、隊員たちは小銃を手にそれぞれ退避。このとき、照準に必要な「照準具」が壊れないように取り外して退避する。
このように、実際に即した想定を随時挟みながら訓練は続行。当然、こちらの砲撃が終わると反撃を避けるため素早く片付ける訓練も行う。

日吉原演習場で行う夜間走行訓練に備え、車両の荷室にて、しばしの食事休憩
夕方には別の演習場に移動。途中の休憩時間には食事をとり、わずかな時間ではあったが、あちこちから来ている即応予備自衛官同士、雑談を交わして鋭気を養っていた。

暗視装置の使用方法や、夜間の灯火管制について学ぶ
夜からは「夜間走行訓練」を実施。車両のライトを消し、月明かりだけの状態でも安全に運転、移動できるようにするため、運転手は専用の「暗視装置」を装着する。さらには車両に乗っての移動途中に「対空警報」が発令されるシーンもあった。こうして一行は、1日を終えたのだった。
2日目:重迫撃砲設置のタイムと正確性を競う「陣地進入競技会」

各チーム創意工夫し、素早く正確に砲撃の準備を行う。1チームずつ行う予選はヒートアップ
取材2日目に行われたのは、「陣地進入競技会」。4つの分隊がそれぞれチームとなり重迫撃砲の設置完了までのタイムと正確性を競う。
まずは予選を行い、タイム上位の3チームが決勝に進出。決勝では横並びで一斉にスタートし、一番早かったチームが優勝となる。
予選では、各チームともに昨日の訓練を経て上達していることに加え、おのおのの動きや役割分担を明確化したのが功を奏したか、ベテラン幹部たちも驚くほどのスピードで参加者たちは砲を展開。

上位3チームが同時に競技を行う決勝戦
決勝戦では、予選でもトップタイムを記録した第2分隊が早い早い。あっという間に全ての作業を終え、予選をさらに上回る好タイムをたたき出し、そのまま優勝をもぎ取った。

競技会終了後にちっぴぃちゃんズに話を聞くと、「即自の皆さんはとても意識が高くて感心しました。皆さんを引っ張っていける立場になりたいなと思いました」と、今後も即応予備自衛官と芸人との「二刀流」を続けていくことを高らかに宣言したのだった。
(MAMOR2025年8月号)
<文/臼井総理 写真/伊藤悠平>
ー楽しい予備活入門ー
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです


