防衛省がある東京・市ヶ谷駐屯地内には、東部方面警務隊隷下の第302保安警務中隊が所在する。彼らには、国家元首や皇族、政府高官などの重要人物を政府として迎える際に行う特別儀じょうという任務が与えられている。
第302保安警務中隊の儀じょう訓練は、日々の訓練に加え要人を迎える3日前からは仕上げの集中訓練を行っている。
訓練時間は1日に約2時間。30分訓練を行い、15分休憩するというメニューを3セット実施する。練度の維持・向上のために行われる、集中度の高い儀じょう隊の訓練に密着した。
一糸乱れぬ儀じょうのため、ミリメートル単位で動作を修正

儀じょう隊の小隊による、「担え銃」の状態で足踏み行進を行う訓練。約3.75キログラムもある銃を肩にのせ、体のブレを抑えて全体の動作を合わせるのは大変だ。また、小隊の1列を真正面から見たとき、全隊員の銃がきれいに重なり、1丁に見えるように動きを合わせなければならないという
「早い、早い! 全体の動きを合わせろ!」、「体のブレを止めて!」。防衛省内にある広場で行われていたのは、儀じょう隊の小隊訓練。その場で脚を上げる「足踏み行進」の訓練中、指導員の声が響く。

儀じょう任務が近づくと、中隊練成と訓練の総仕上げとして、予行演習が行われる。制服に身を包み、3つの小隊が合同で本番と同様の礼式を実施する
第302保安警務中隊の儀じょう隊は3つの小隊に分かれ、各小隊は3班で構成されている。取材した小隊では、3つの班がそれぞれ隊列を組み、先の「足踏み行進」や、体の前で銃を両手で垂直に持ち上げて行う敬礼である「捧げ銃」などの基本動作の訓練が繰り返し行われていた。

肩に担いだ儀じょう銃の角度が正しいかどうかを矯正具で確認する
訓練中、「一糸乱れぬ」といわれる儀じょう隊の精密な動作を、隊員たちに指導するための秘密道具を目にした。
捧げ銃などの際、銃を持ち上げる高さや体との角度を、「矯正具」と呼ばれる手製の道具によってミリメートル単位で修正し、隊員たちに体で覚えさせるのだ。

儀じょう隊で国旗を掲げる旗手は、何があっても旗を手放してはならないという重責を担う。そこで、強風にあおられても旗が飛ばされないように、旗衛隊員が旗手を後方で支えて安定させる訓練も行われる
訓練では、指導員が隊員たちに指摘するのは、注意点だけではなかった。「集中力はいいよ!」、「銃の角度、合ってるよ!」などと、プラスの評価の声もしきりにかけられる。
「良い部分は積極的に褒め、悪い部分との線引きを明確にしてそれを意識させ、技術を向上させるようにしています」と我妻2曹は話す。
儀じょう隊の新隊員は、少しでも練度を上げるよう、休憩時間でも自主的に動作の訓練を行う。その光景は、防衛省の屋内の、動作をチェックできる全身鏡のある場所などでも頻繁に見られる
「15分休憩!」と指導員の声がする。しかし、休憩時間に入っても、新隊員は自主的に訓練を行っている。その傍らでは先輩隊員がアドバイスをする、という光景があちこちで見られた。
新隊員たちはそうして訓練に励み、小隊の「1班」に選抜されることを目指す。1班は儀じょう隊の最前列に立つ、自衛隊の、ひいては「日本の顔」といわれるいわばエリートだ。一人前の隊員となるまでは約10年。その道のりは長い。
特別儀じょう隊の訓練にヨルダン軍が研修に訪れた!

儀じょう展示で、日・ヨルダン両国の国歌が演奏された際、敬礼をするヨルダン軍の隊員たち。相手国の国家が演奏されるときにも、両者がともに敬礼をするのが礼儀だという
2025年の某日、ヨルダン王室近衛儀じょう隊の隊員が、4日間の訓練の研修に訪れていた。儀じょう隊の訓練を外国軍の隊員が研修するのは、自衛隊でも初の試みだという。
そのきっかけは、2024年の「自衛隊音楽まつり」にヨルダン軍軍楽隊が参加したことにあった。音楽まつりに合わせて来省したヨルダン軍の関係者が儀じょう隊の儀じょうの緻密さに感動し、その訓練をぜひ研修したいとの申し出があったのだ。

ヨルダン軍の研修のために行われたこの日の儀じょうでは、日本の防衛大臣や総理大臣、そして国賓の役を2人の自衛官が代行し(手前で敬礼している2人)、礼式が進行された
ヨルダン軍による研修は、まずはブリーフィングから開始。ヨルダン軍の隊員たちは、儀じょう隊の隊員による説明を熱心に聞き、礼式の進行や制服などについて、細部にわたって質問していた。
また、小隊訓練を見学した際には、儀じょう隊の隊員たちが高い精度で動作を合わせることに、「ここまで動きをそろえるのか!」と驚いていた。

研修終了後は、自衛隊とヨルダン軍の隊員たちが終始、和やかな雰囲気で交流。ヨルダン軍は「またお会いしましょう!」という言葉を残し、その場を後にした
研修最終日となる4日目は、数日後に訪れるオランダ王国の首相を迎えるために行われた、本番さながらの「儀じょう展示」を見学。
来賓の国旗を特別にヨルダン王国の旗にし、同国の国歌で礼式を実施するという粋な計らいに、ヨルダン軍の隊員たちは感激。その後、両国の贈答品の交換が行われ、友好関係を深めて研修を終了した。
(MAMOR2025年8月号)
<文/魚本拓 写真/星 亘(扶桑社)>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

