•  陸上自衛隊警務隊には、海外の高官などが自衛隊の市ケ谷地区の施設を訪問する際などに、警護を担当する専門の部署がある。中央警務隊の第2班だ。

     中央警務隊第2班では、月に3、4件、年間で約40件の要人警護を担当している。要人が来日する際には、その1、2週間前から訓練を実施し、警護任務に備える。ここでは、日本を訪れる重要人物を守るための訓練をリポートする。

    要人を守る格闘・戦闘能力の向上を目指す「警護体術訓練」

    脅威者に、警務官が2人1組で対処する警護体術訓練。警護の際の格闘技の基本となるのは柔道で、第2班の隊員は全員が有段者だ

     要人警護にあたっては、脅威者が突然攻撃してきたときに対処する訓練も重要だ。来日した各国の要人をいつでも守れるよう、隊員はさまざまな襲撃に対して未然に防止するための訓練を日々行っているという。

     訓練を行うにあたり重要視されるのは、警務官たちのチームワークを高めるため、現状について声を出して分かりやすく共有・確認するなど、常にコミュニケーションを徹底することだという。

     さらに、体当たりの訓練を何度も繰り返すことで基本となる動作を習性化し、要人の安全確保のために自然と体が動くようにすることだ。

     そのために主に実施されるのが、「警護体術訓練」と「要人警護訓練」だ。

    「警護体術訓練」は襲いかかってくる脅威者から要人の安全を確保するための、警務官の格闘・戦闘能力の向上を図る訓練。

     防衛省の体育館内で行われているこの訓練は、脅威者が正面から接近してきた場合や、胸ぐらをつかまれた場合、物陰から突然出てきた場合など、あらゆるケースの対処法を、「上級格闘指導官」の資格を持つ警務官が中心となり実戦的な指導を受ける。

    移動中に現れた脅威者への対処を習得する「要人警護訓練」

    画像: 要人警護訓練では、要人を先導する警務官がまず刃物を持った脅威者に対処する

    要人警護訓練では、要人を先導する警務官がまず刃物を持った脅威者に対処する

    「要人警護訓練」は屋外で実施するが、移動中の要人の前に脅威者が現れた場合を想定し、それに対処する訓練だ。

     VIP車両から降りて移動する要人役を4人の警務官がひし形に取り囲むように警備・警戒する。そこへナイフを手にした脅威者が現れる。

    画像: もう1人の警務官が加わり、脅威者を取り押さえるためにサポートをし、2人で脅威者をうつ伏せの状態に押し倒し、後ろ手に手錠をかける

    もう1人の警務官が加わり、脅威者を取り押さえるためにサポートをし、2人で脅威者をうつ伏せの状態に押し倒し、後ろ手に手錠をかける

     その瞬間、脅威者に近い警務官は迷わず脅威者のほうへと走って行きすばやく脅威者を取り押さえる。

    画像: 残りの2人の警務官が要人を脅威者から引き離し、万が一の危険に備え、盾でカバーしながら車両など近くの安全な場所まで誘導する

    残りの2人の警務官が要人を脅威者から引き離し、万が一の危険に備え、盾でカバーしながら車両など近くの安全な場所まで誘導する

     その一方、要人に近い警務官はアタッシェケースを模した盾で要人を守りながら、あっという間に脅威者から引き離し、安全な場所(VIP車両や建物など)へと避難させる。

     各担当の機敏な動作と調和のとれた連携プレーが瞬時に行われる。トラブルが発生した場合、警務官はいち早く要人と脅威者を遠ざけることを優先するのだ。

     これらの訓練を要人が来日する本番当日まで、何度も鍛錬することで、要人の生命・身体を危険から守るのだ。

    (MAMOR2025年8月号)

    <文/魚本拓 写真/山川修一(扶桑社)>

    特別司法警察最前線'25

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

      

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