•  特別司法警察職員として、自衛隊内部の事件・事故の捜査の権限を与えられているほか、警護や交通統制などを任務とする陸上自衛隊警務隊。

     その中に、海外の高官などが自衛隊の市ケ谷地区の施設を訪問する際などに、警護を担当する専門の部署がある。

     それが、中央警務隊の第2班だ。取材したのは、ちょうど同班が要人警護を数日後に控えた時期。あわただしく準備に精を出す部隊の様子をリポートしよう。

    来訪の数週間前から始まる警護の準備

    画像: 要人警護のための事前のミーティングでは、警護を実施する場所の地図と関係者のミニチュアを基に、任務を遂行する上で必要なチーム内の意思疎通と認識の統一が図られる

    要人警護のための事前のミーティングでは、警護を実施する場所の地図と関係者のミニチュアを基に、任務を遂行する上で必要なチーム内の意思疎通と認識の統一が図られる

     2025年4月某日、9時。防衛相会談のため、数日後に防衛省に来訪するトンガ王国皇太子の警護に備え、中央警務隊第2班の事前のミーティングが始まった。

     テーブルに広げられた防衛省の敷地内の地図に、警護対象者である要人と警務官、車両のミニチュアを配置し、警護のシミュレーションを行うのだ。

    画像: 来訪の数週間前から始まる警護の準備

     要人が乗っている車両の位置や各警務官の配置、移動経路、要人を襲う「脅威者」が隠れそうなトイレなどの施設の位置、非常時に使用する退避用の通路などが、班長によって警務官たちに伝達された。

     要人警護の準備はすでにその1週間前から進められていた。まずは来賓の国の情勢などを調査。その国の政治や経済、国民性、治安の状況などを調べ、来賓の警護や対応の際の参考にする。

    画像: トンガ王国の皇太子を乗せた専用車が防衛省から出発する際、鋭いまなざしで周囲の警戒にあたる警務隊の隊員

    トンガ王国の皇太子を乗せた専用車が防衛省から出発する際、鋭いまなざしで周囲の警戒にあたる警務隊の隊員

     また、来賓が利用する空港や宿泊施設、防衛省などの目的地への移動経路を現地偵察し、脅威者が潜む死角がないかなどを重点的にチェックする。

    「お出迎えからお見送りまで、来賓の安全を守ることは当然として、いかに気持ちよく日本に滞在し、お帰りいただくかというホスピタリティーの意識を持つことも重要です」と、第2班の班長・村松3等陸佐は話す。

    「われわれは『警務官プライド』という言葉を胸に、またその責任を感じながら、日々の警護に勤しんでいます」と語る村松3佐

    「直接対応するわれわれの行動が、来賓の日本に対する印象にも影響します。ですから、来賓の滞在中は安全確保だけでなく、多面的な配慮が必要であり、来賓が無事に、かつ快適に帰国されるまでが任務なのです」

     そのため、村松3佐は来賓が帰国の際に搭乗した飛行機の運航状況までネットで確認するという。

    防衛省内の秩序維持を任務とする中央警務隊

    画像: 警務隊の警護専用車は、事前に車体を整備し、磨きあげ、車内を入念に掃除する。警護任務の完遂とともに、要人を迎えるにあたって意識するという警務隊のホスピタリティーが、こうした気配りにも表れている

    警務隊の警護専用車は、事前に車体を整備し、磨きあげ、車内を入念に掃除する。警護任務の完遂とともに、要人を迎えるにあたって意識するという警務隊のホスピタリティーが、こうした気配りにも表れている

    「複数の隊員で要人を警護するという任務の性格上、第2班には特にチームワークが求められます」と話すのは、中央警務隊長の松岡1等陸佐。

    「そこで、1つの任務を遂行した後、『アフター・アクション・レビュー』といういわば反省会を実施し、連携にミスがなかったかなどを振り返って教訓事項を抽出して、次の任務に生かしています」

     ほぼ警務隊一筋という自衛官人生を歩んできたという松岡1佐。そもそも警務隊は自衛隊の中でどのような役割を担っているのか。

    「警務隊は日本全国にある自衛隊の基地、駐屯地の秩序を維持するための警察のような部隊であり、その任務は2つに大別されます。

     1つは自衛隊内部の犯罪の捜査や被疑者の逮捕などの司法警察業務。もう1つは交通統制や警護、防犯活動、規律違反の防止などの保安業務です。

     私が隊長を務める中央警務隊は、市ケ谷にある防衛省内の秩序維持のため、以上の任務に就いています」

    松岡1佐は、「警務隊は自衛隊という組織の健全性を保つために、あくまで裏方として存在しています」と話す

     防衛省は自衛官をはじめ、約1万人の職員が勤務するという巨大な組織。その健全性の保持を任務とする中央警務隊は、陸・海・空の警務官のスペシャリストが集められている。

    「個々に能力があり、任務へのモチベーションも高い部隊なので、私が率先して統率する、ということもなく、安心して仕事を任せられますね。ただし、任務完遂のためには心身の不調があってはいけないので、悩みを抱えた隊員には、話を傾聴し、対応策を丁寧に説明しています」

    要人警護に特化した中央警務隊第2班の装備

     中央警務隊第2班の隊員は任務中、迷彩柄の戦闘服を身に着けない。

    「本当に自衛官ですか⁉」と思うような、私たちがイメージするほかの自衛官とは異なる装備を紹介する。

    制服

    画像: 制服

    警務官は自衛官用の戦闘服や作業服ではなく、警務官用の制服かスーツを着用。スーツは黒か紺で統一し、ネクタイは当日の任務により全員が統一して、仲間を認識しやすいようにしている

    警務手帳

    警務手帳にはその所持者の顔写真や氏名、所属などの記載がある。警務官であることを証明し、身分を提示する際に使用される重要なアイテムだ

    タクティカルベルト

    画像: タクティカルベルト

    第2班の警務官だけが身に着ける「タクティカルベルト」。ベルトにはさまざまなアイテムが装備されており、それを収納するケースも付いていて機能的だ。なお、写真はスーツ用のベルトで、これとは別に制服着用時のベルトもある

    【特殊警棒】
    護身用具や逮捕具として使用される棒状の武器。伸縮して収納できるようになっている

    【ライト】
    夜間警護の際の見回りや車内に不審物がないかなど暗がりを確認する際に使用

    【手錠】
    要人警護の際、脅威者を確保した際に使われる、犯人拘束用の手錠

    【拳銃】
    9㎜拳銃。スイスの「シグサワーP220」のライセンス生産品。1982年に制式採用された小型・軽量の拳銃

    (MAMOR2025年8月号)

    <文/魚本拓 写真/山川修一(扶桑社)>

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

      

    This article is a sponsored article by
    ''.