太平洋戦争を戦い抜き、多くの命を救った旧日本海軍の駆逐艦『雪風』。戦後80年となる今年8月、実話を基に製作された映画が公開予定だ。
一体、映画『雪風 YUKIKAZE』とはどのような作品なのだろうか。
「海の何でも屋」の駆逐艦と「生きる」人々の物語
多くの仲間を救い続けた『雪風』乗組員の手 ©2025 Yukikaze Partners.
映画『雪風 YUKIKAZE』は、戦後80年となる2025年8月に公開した、太平洋戦争を舞台に実在した駆逐艦『雪風』の史実を基に製作された壮大なヒューマンドラマである。
『雪風』は、旧日本海軍の誇る小型高速の万能艦。戦場で何度も何度も仲間を救い続けた「奇跡の艦」として知られ、旧日本海軍内では“幸運艦”とも呼ばれていた。
その使命は、戦うことだけでなく、海に投げ出された戦友を救い、共に帰ること。どんな激戦の海でも、命を諦めず、ただ生きて帰るために戦い抜いた『雪風』と乗員たちの姿が、本作の中心に据えられている。
物語は、1942年のミッドウェー海戦から始まる。沈没寸前の巡洋艦から海に投げ出された若き水兵・井上壮太は、『雪風』に救われる。その姿を、別の艦から見つめていたのが、後に『雪風』の艦長となる寺澤一利だ。
寺澤は、冷静沈着で作戦遂行を最優先する一方で、先任伍長・早瀬幸平は、仲間一人ひとりの命を何よりも大切にする熱血漢。異なる信念を持つ2人は、戦場で意見をぶつけながらも、やがて心を通わせ、苦境を乗り越えていく。

映画に登場する駆逐艦『雪風』。激戦の海で、生きて帰るために戦い抜いた ©2025 Yukikaze Partners.
この映画は、ミッドウェー海戦やレイテ沖海戦、戦艦『大和』の出撃といった歴史の大きな流れを背景にしつつも、駆逐艦という小さな艦の中で生きる人間たちのドラマを丁寧に描いている。
竹野内豊演じる寺澤は、上官としての責任と家族への思いのはざまで葛藤し、玉木宏演じる早瀬は、弟のような乗員たちを守るために奮闘する。そして奥平大兼演じる若き水雷員・井上の目を通して、観客は戦争という極限状況の中で人が人を思う気持ちの強さ、そして命の重さを体感することになる。
さらに戦後、『雪風』は復員輸送船として、外地に取り残された約1万3000人もの人々を日本に送り届ける役割を果たす。戦争を生き延びた者が、また命をつなぐために戦ったのだ。
「生きて帰り、生きて還す」。『雪風 YUKIKAZE』は、単なる戦争映画ではない。戦争を生き抜き、戦後も闘い続けた艦と乗組員たちが、令和を生きる私たち、そして今日の日本を守る自衛官たちまでつないでくれた「命の系譜」を表現した作品なのだ。
ラストシーンで『雪風』が私たちに語り掛ける。
「頼んだぞ!」
「任せたからな」
『雪風 YUKIKAZE』
監督:山田敏久 脚本:長谷川康夫 出演:竹野内豊、玉木宏、奥平大兼、當真あみ、田中麗奈、益岡徹、石丸幹二、中井貴一ほか 協力:防衛省・海上自衛隊 2025年製作/120分 8月15日より全国公開 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/バンダイナムコフィルムワークス©2025 Yukikaze Partners.
(MAMOR2025年9月号)
<文/臼井総理>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです