海上自衛隊の主力装備・艦艇を動かすためには、多くの乗員が必要。そして、その乗員たちを統率するのが「艦長・艇長」です。
横須賀海上訓練指導隊の教育科には、海自の隊員育成で唯一の「艦長・艇長」の教育組織があります。全ての艦艇長経験者が、ここに集い、ここから巣立っていった「艦艇長の学校」を紹介しましょう。
艦艇長候補者が全員受講する教育を担当する教育科

水上艦艇指揮課程の座学。海という自然を相手に乗員の命を預かる艦艇長に必要な基礎知識を座学を通して身に付ける
艦艇の乗員を育て、命を預かる重責も担う艦艇長。最大で約500人を率いて艦艇を動かす艦艇長は、船乗りにとって憧れであり、かつ大きな目標となるポジションだ。
同教育科は、艦艇長の育成を行う教育課程「幹部専修科水上艦艇指揮課程」の運営および教育を担う日本で唯一の部署で、艦艇長候補者は約2カ月の教育をここで受ける。

艦艇が出入港する際の操艦は艦艇長が行う。教育は実際に艦艇で行われ、指揮要領も学ぶ
同科長の相馬2等海佐は「港内で用いる小型の作業船から掃海艦艇、輸送艦、大小さまざまな護衛艦まで、艦艇長になる隊員は全員ここで教育を受けます。
現在も年2回、候補者に対して艦艇長の職責に必要な教育を施しています。小型艦から大型艦に乗り替わる際も教育を受けます」と話す。
憧れの存在であってほしい艦艇長の職責と任務

戦闘指揮をする際の要領を学ぶ「護衛艦課程・機雷艦艇課程」。シミュレーターで戦闘時の艦艇を再現し、指揮方法などを教わる
艦艇長に求められるのは、艦を動かす運航や操艦の技術・知識だけではない。1部隊の長として総合的なマネジメント能力が必要とされる。
「人心把握や倫理観、経理、衛生、給養など総務的な管理と、装備や戦闘指揮に関することなど、多様な教育を行います。教官は各部門に精通した隊員を招き、力を入れた教育内容です」と相馬2佐。

艦艇長教育で教官を務めるのは、艦艇長経験者など現場のプロが担当。自らの経験も伝え、艦艇長候補者の糧にしている
その上で、艦艇長候補者たちの力が入るのが操艦、特に出入港なのだという。「時代や装備は変われど、艦長の『腕』が問われるのは出入港といわれます。自艦の乗員からも見られていますし、ほかの艦長と比べられやすいのもこの部分ですね」
1等海尉から1等海佐までが受講するこの課程では、座学や艦艇での実地訓練以上に重視していることがあると相馬2佐は話す。
訓練支援艦『くろべ』、護衛艦『すずつき』の艦長を歴任した相馬2佐。「艦長職は笑顔と健康が必須です」と語る
「教育期間中は、実任務を離れ1人の自衛官として自分に向き合えるチャンスです。自分ならどんな艦艇にし、どんな統率をしたいかを考え、責任感を醸成する機会になります。
艦は1人では動かせません。乗員たちとの協力、コミュニケーションがなくては成り立たない。『この艦長と一緒に働きたい』と思ってもらえるよう、自分を見つめ直すのがこの課程の意味と考えます。
艦艇長はとてもやりがいのある配置ですが、経験しないとその魅力は実感できません。艦艇長は船乗りの『憧れの役職』であってほしいと思っています。今後もさまざまな情勢変化を踏まえつつ、変えるべきところは改善し、守るべき根本は守り、次世代の艦艇長を育成していきます」
(MAMOR2025年7月号)
<文/臼井総理 写真/村上淳(相馬2佐) 写真提供/防衛省>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

