東富士演習場(静岡県)で行われた、FH70の実弾射撃訓練の様子をリポートする。当日、富士学校の学生たちは「観測」という任務でこの訓練に臨み、富士教導団と中部方面特科連隊第3大隊(注1)は教育支援を実施した。
同日には19式の実弾射撃訓練も行われている。訓練に参加した第4中隊の隊員たちから、訓練の意義や目標について話を聞いたので、こちらもあわせて紹介する。
火砲の間接射撃を実習する、富士学校の学生たち

FH70の実弾射撃訓練を行う中部方面特科連隊第3大隊の砲班員たち。9人の素早い連携プレーで間を置かずに砲弾を発射していた
東富士演習場では耳栓が必要なほどのごう音が鳴り響き、その振動は体にまで伝わってきた。19式の射撃の次に、目の前には12門のFH70がずらりと並んだ。中部方面特科連隊第3大隊の各砲班長の「撃て!」の号令に合わせ、火砲から次々に砲弾が発射された。

実弾射撃を行う火砲から約3キロメートル先にある射撃目標の付近では、発射から約10秒後に着弾し、土煙が舞い上がった
そこで行われていたのは、「前進観測班」の訓練。前進観測班の任務は、目標の発見と射弾の判定、射撃の修正などを行うこと。
学生たちは「左へ20」、つまり着弾地点が目標から右方向に20メートルずれていた、などと観測した結果を口に出し、前進観測班の後方に陣地が設置された「射撃指揮班」に伝達していた。
卒業後は各部隊へ戻り、現場で学びを生かす

着弾を観測する前進観測班の実習を行う富士学校の学生たち。学生が口頭で射撃指揮班に伝えた観測結果に対し、教官がその場で講評していた
前進観測班から受けた情報を基に、射撃指揮班では、目標に命中させるようFH70の砲身の方位や角度などを計算して修正。その結果を、撃ち方や弾薬の種類などとともに、射撃部隊に口頭やデータで伝達し、その後、発射の号令をかける。
同時に、前進観測班へ、着弾のタイミングなどを伝達する。これらの任務も、学生たちが訓練していた。
学生たちは、こうした実習を通して火力戦闘を行う職種「野戦特科」の知識と技能を習得。卒業後は各部隊へと戻り、富士学校で学んだことを現場で生かしていくのだ。
教育班長と教官、そして学生の声を聞いた
どんな状況でも確実に任務を遂行する人材を育成
野呂1等陸佐
富士学校特科部教育課術科教育班長の野呂1等陸佐は、「本校の特科部では、どんな状況でも確実に任務を遂行できる人材を育成するためのカリキュラムを組んでいます。
今回の実弾を使用した訓練の目的は、気象や火砲の状態などの諸要素が射撃に与える影響を踏まえて、観測や射撃指揮を実行する能力を養うことです。学生たちには本校で学んだ内容を吸収して、今後の部隊勤務につなげていってくれたらと思っています」と語った。
これまで錬成してきた成果を遺憾なく発揮
鈴木3等陸佐
富士学校の教官、鈴木3等陸佐は、「大きな威力がある弾薬により火力戦闘を行う、野戦特科部隊の高い錬度は抑止力につながります。今回の実弾射撃訓練は自衛隊にとって極めて重要な訓練だと思います。
その中で学生たちはこれまで富士学校の教育で錬成してきた成果を遺憾なく発揮し、それぞれが与えられた職務を完遂しており、教育目的を達成できたと思います。この経験を生かして活躍する幹部となってほしい」と話した。
学生たちの声
宮澤3等陸尉
富士学校の学生、宮澤3等陸尉は「前進観測の訓練は、目標の地形を事前に研究したことで効率よく実施できました。貴重な実弾訓練を行ったことは今後の部隊勤務に活かせると思います。 射撃指揮班の訓練では、素早く状況判断をして任務を遂行する難しさを感じた反面、各隊員と問題を共有して解決策を見いだす能力が向上しました」と訓練の成果を話した。
永井3等陸尉
富士学校の学生、永井3等陸尉は「実弾での訓練は初めてで緊張しましたが、前進観測も射撃指揮も、落ち着いた対処を意識して臨んだ結果、スムーズに実行でき、それが自信につながりました。 ただ、不慣れな任務なのでほかの隊員とのより緊密な連携が必要なのに、自分がやることに集中してしまいチームワークの重要性と難しさを実感しました」と語った。
実弾射撃訓練を行った、富士教導団特科教導隊 第4中隊

19式の実弾射撃訓練を行った第4中隊の隊員たち。実弾装填から射撃までの流れを一切無駄のない見事な動きでこなしていた。チームワークの秘訣は日ごろからオンオフを切り替えて、オフのときは、隊員同士でたわいもない話を楽しみコミュニケーションを深めているのだという。
「富士教導団特科教導隊は、富士学校の学生に対する教育の支援、また火砲などの調査・研究の支援を主な任務としています」
そう話す中隊長の髙部1等陸尉によれば、特科教導隊は陸自の全ての特科部隊の模範としても位置づけられているという。
そこで、19式は特科教導隊にまず最初に配備され、運用を開始した。それにより、火砲の操作や実弾射撃訓練を通じて19式の調査・研究を行い、その結果を基に今後、配備される部隊や隊員たちへの教育を実施しているのだという。
「特科部隊の隊員に必要な資質は、『周密』、『機敏』、『沈着』、『豪胆』であること」だと話す髙部1尉
「今回、実弾射撃を行った富士教導団特科教導隊第4中隊の隊員は、19式の開発試験の段階から携わっているので、この装備品の知識・経験が蓄積されています。ですので、19式の配備予定の部隊で砲班長や照準手を担う隊員に対して、第4中隊の隊員が逐次、操法の教育をしています」
ベストな精度・速度での効果的な射撃を行うにはチームワークが不可欠

19式の実弾射撃を研修に来た、野戦特科について学ぶ富士学校の学生たち。特科教導隊による7発の射撃が無事に完遂されると拍手が湧き起こった
火砲によるベストな精度・速度での効果的な射撃を行うためには、「各隊員の射撃技術の熟達、射撃に関係する前進観測と射撃指揮、射撃部隊の各班内、その相互間のチームワークが必要不可欠となります」と、髙部1尉は言う。
「今回の射撃訓練では、特に安全管理を徹底するために砲班員の連携を強化し、迅速な射撃動作ができるようにすること。その上で、射撃の精度と速度に関わる目標を設定したのですが、それ以上の成果を出せたと思います。
今回は7発の実弾射撃を行いましたが、不発は1発もなく全てスムーズにテンポよく射撃することができました。それも砲班員の日ごろの訓練へ真剣に取り組む姿勢や、射撃する際の砲班長の的確な指揮のたまものです」
髙部1尉は最後に、「今後も全国の19式の運用部隊の『魁』としての誇りを持ち、任務においては最善を尽くしていきたいと思います」と語った。
作業の基本基礎の徹底と適時的確な指示に留意
砲班長の熊ケ谷3等陸曹は、「われわれの部隊では、『培った技術と努力は弾先に結集される』といわれています。
日ごろの錬成が実弾射撃の結果に表れるので、19式を操作するための一連の動作の基本基礎の徹底と、適時的確な指示を出すことに留意しています。
また、日常的に班員とコミュニケーションを図り、各隊員の個性に応じた分かりやすい指示を出せるよう、心掛けています」と成果を語った。
将来の目標は女性初の19式の砲班長になること
「実弾射撃訓練中は、気が緩んでいるときに事故が起こりやすいため、常に緊張感を持つようにしています。今回は照準手として参加しました。
7発いずれも無事に任務を完遂できましたが、これに甘んじず次回はもっとスムーズに動作が行えるように励みたいです。19式の利点はタッチパネル操作で砲身などが自動で動くので、力のない女性でも扱えるところです」と照準手の久保田3等陸曹は話す。
実弾射撃訓練を行った富士学校の組織図

陸上自衛隊富士学校は、防衛大臣直轄の教育機関。陸自の幹部自衛官(注2)と陸曹(注3)の教育を行う富士学校、富士学校本部の教育支援を行う富士教導団、陸自部隊の対戦形式の訓練で敵の部隊を担当する部隊訓練評価隊で編成。
同校には、レンジャーを育成する教官になるために過酷な訓練を受ける「幹部レンジャー課程」も設置。
(注1)日本原駐屯地(岡山県)に所在する特科部隊。FH70などの火砲を扱う
(注2)陸・海・空各自衛隊の階級区分のうち、将から3尉までの隊員のこと。部隊の骨幹として、強い責任感と実行力で部隊を指揮する立場にある
(注3)陸上自衛官の階級区分の1つ。「曹」は、専門分野における技能を有し、幹部を補佐する立場にある
<文/魚本拓 写真/村上淳 イラスト/nerve8>
(MAMOR2025年2月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです