•  海に囲まれた日本になくてはならない装備、「たたかう船=艦艇」。現代の艦艇とその兵装を知るための解説する。

     補給艦と輸送艦はどう違うのか? イージス艦の実力は? じつは「海上自衛隊が使用する船舶の名称には命名ルールがある」などの豆知識もあわせて紹介。

    用途で異なる艦艇の名称

    画像: 用途で異なる艦艇の名称

     艦艇とひとくちに言っても、さまざまな種類がある。主に戦闘や哨戒、護衛などを行う巡洋艦、駆逐艦、潜水艦をはじめ、艦艇への補給を行う補給艦、部隊の敵前上陸を行う揚陸艦など、それぞれに役割があり、用途によって使い分けられている。

     比較的大きい艦艇を「艦」、小さい艦艇を「艇」と呼ぶが、世界共通の明確な基準はなく、国や組織によって分け方はバラバラだ。上の表は世界の主な海軍が用いる艦艇の種類をまとめたもの。

    敵を欺く構造のステルス艦

    画像: 海上自衛隊の『もがみ』。従来の護衛艦よりもステルス性を向上させた船体構造になっている写真提供/防衛省

    海上自衛隊の『もがみ』。従来の護衛艦よりもステルス性を向上させた船体構造になっている写真提供/防衛省

     ステルス艦とは、「ステルス性能」を持った艦艇を指す。ステルス性能とは、船体形状や素材の工夫によって、敵のレーダーなどのセンサーに探知されにくい能力のこと。

     一例を挙げるとレーダーは、レーダー波を発射し、反射したレーダー波(反射波)を解析することによって対象物の位置や速度などを探知する。

     ステルス艦は、船体をできる限り凹凸を減らした構造にして反射波を減らしたり、反射波を海や空に逸らしてレーダーに探知されにくくするための独特な「ステルス形状」をしている。

    画像: 複雑な幾何学模様で塗装された「ダズル迷彩」を施されたイギリス空母『アーガス』。肉眼で見たときに、針路や速度がわかりにくくなる効果を狙い施されている 出典/U.S. Navy

    複雑な幾何学模様で塗装された「ダズル迷彩」を施されたイギリス空母『アーガス』。肉眼で見たときに、針路や速度がわかりにくくなる効果を狙い施されている 出典/U.S. Navy

     ほかにも、魚雷発射管やミサイルなど、電波を受けやすい機器を艦内に格納するなど、反射波の方向を変えたり減らしたりする技術がふんだんに投入されている。アメリカの『インディペンデンス』や、海自の『もがみ』がステルス艦の代表例だ。

    役割に応じた艦内区画がある

    画像: 海自艦艇の戦闘指揮所。レーダーやソナーなどの各種センサー類、そのほか艦についての情報が集約される部屋であり、戦闘時の指揮・発令もここから行われる 写真提供/防衛省

    海自艦艇の戦闘指揮所。レーダーやソナーなどの各種センサー類、そのほか艦についての情報が集約される部屋であり、戦闘時の指揮・発令もここから行われる 写真提供/防衛省

     艦艇内部は、いくつかの区画に分類されている。海自の艦艇を例に説明しよう。

    「居住・休養区画」は、乗組員の居室、食堂、病室などがあてはまる。「事務区画」は役職に応じた事務室、「衛生区画」には医務室のほか浴室や洗面所、トイレなど。「作業区画」は、機械室やボイラー室、発電機室などの機関に関わる部屋や、操だを行う艦橋、操縦室、通信室などがある。

     艦の中枢、戦闘指揮所(CIC:Combat Information Center)では、レーダーやソナー、通信内容などがコンソール上に表示され、艦艇の任務に必要なあらゆる情報が集約されている。戦闘や操艦に関係しないところでは、調理室などは作業区画に分類され、倉庫や弾薬庫、ヘリコプターの格納庫、砲塔、通路などはまとめて「そのほかの区画」に分類されている。

    艦艇の命名は国ごとに違う

    画像: 艦艇の命名は国ごとに違う

     艦艇の命名方法は、各国ごとに異なる。海自の場合は艦種によって旧国名や地方の名(いずも、かが)、山や河川の名前(きりしま、もがみ)、海象(うずしお)などから命名される。これは、1960年の「海自の使用する船舶の区分等及び名称等を付与する標準を定める訓令」によって定められている。

     一方、海外では艦艇の命名ルールを明文化している国は少ない。都市名や山・川など自然地形の名前のほか、国王や大統領の名前、名誉ある軍人の名前など個人名が付けられることも多い。そのほか、駆逐艦や潜水艦などは単に記号+数字で呼称している国もある。表では、各国の命名パターンや具体例を示しておく。

    艦艇は同じ設計で複数建造が基本

    画像: 中国人民解放軍海軍のフリゲート『ジャンウェイ(江衛)II』級。同型艦が8隻配備されていることがわかっている 写真提供/防衛省

    中国人民解放軍海軍のフリゲート『ジャンウェイ(江衛)II』級。同型艦が8隻配備されていることがわかっている 写真提供/防衛省

     艦艇は、同じ設計のもと複数隻が建造されることが多い。これは、主に製造効率や費用効率を上げるのが理由。同じ設計で最初に作られた艦を「ネームシップ」、もしくは「1番艦」と呼び、その艦名が「型式名」となる。

     それ以降に建造された艦艇を2番艦、3番艦……と呼ぶのである。例えば『こんごう』型の場合、1番艦が『こんごう』、『こんごう』型2番艦『きりしま』、『こんごう』型3番艦『みょうこう』と続く。外国軍の艦艇の「~級」と海自の「~型」は同じ意味で用いられる。

    独特な船体は荒波でも安定させるため

    画像: アメリカ海軍の高速輸送船『スウィフト』。2003年に建造し、最大速力は45ノット以上といわれ、スマトラ島沖地震の救援にも携わった 出典/U.S. Navy

    アメリカ海軍の高速輸送船『スウィフト』。2003年に建造し、最大速力は45ノット以上といわれ、スマトラ島沖地震の救援にも携わった 出典/U.S. Navy

     艦艇の中には、2隻の船を甲板でつなげたような形状の「双胴船」方式を採用するものがある。一般的な船体形状よりも安定性が高く、船の大きさに比べて水面下の船体を細長くできることから高速が得やすいことに加え、広い甲板を作れるのもメリット。

    画像: 海自の音響測定艦『ひびき』。1991年に就役し、呉基地(広島県)を母港とする。仮想敵国が使う潜水艦の音響情報を収集する艦。その運用については極秘とされている 写真提供/防衛省

    海自の音響測定艦『ひびき』。1991年に就役し、呉基地(広島県)を母港とする。仮想敵国が使う潜水艦の音響情報を収集する艦。その運用については極秘とされている 写真提供/防衛省

     アメリカ海軍の高速輸送船『スウィフト』や、海自の音響測定艦『ひびき』、民間船舶では、かつて海洋研究開発機構(注4)が運用していた海洋調査船『かいよう』などが双胴船だ。『ひびき』や『かいよう』といった調査を主目的とした艦船の場合、調査機器の使用にあたって、波浪に強く安定性が高いことが求められたため、双胴船構造が採用されたとされている。

    (注4)調査船を用いて海洋などを観測・研究する組織。2004年に設立され、15年に「国立研究開発法人海洋研究開発機構」に名称が変更された

    高性能な迎撃システムを搭載したイージス艦

    画像: ミサイルを発射する海上自衛隊のイージス艦。マストの下に六角形の高性能レーダー(破線部)が設置されている 写真提供/防衛省

    ミサイルを発射する海上自衛隊のイージス艦。マストの下に六角形の高性能レーダー(破線部)が設置されている 写真提供/防衛省

    「イージス」とは、ギリシャ神話の神ゼウスが娘であるアテナイに与えた悪を払いのけるといわれる「盾」のこと。

     その名を冠したイージス艦には、アメリカ海軍が開発した艦艇搭載の防空システムが搭載されている。高性能レーダー、コンピューター、対空ミサイルによって構成され、多数の標的を捜索、探知、追跡し、目標の分析や攻撃まで一連の動作を自動的に行うことができる。システムを搭載した艦艇から数百キロ離れていても、100以上もの目標を同時に追跡でき、同時に多数の目標を攻撃できる「鉄壁の防空システム」である。

     アメリカ海軍の艦艇のほか、護衛艦『こんごう』以降、日本の護衛艦の一部にも搭載され、弾道ミサイルの監視・迎撃にも用いられる。2024年現在、海自は8隻のイージス艦を保有し、加えて弾道ミサイル防衛を目的とした2隻の「イージス・システム搭載艦」を建造する計画である。

    船舶用語の基礎知識

     艦艇を知るうえで押さえておきたいのが民間船舶にも共通する用語だ。基本的な用語をいくつか解説しよう。

    【深さ】

    船の大きさを表す数値で、船体の一番下から上甲板までの垂直距離を表す。

    【喫水】

     船が浮いている状態で、船体の水面が来る位置を喫水線と呼び、船底から喫水線までの距離を喫水という。

    【トン数】

     船の大きさを示す指標「トン」。艦艇に使われるのは、船を浮かべた際、押しのけた水の重さをいう「排水トン数」。また、主に客船や漁船に用いられる「総トン数」は船の上部構造物から船体まで全ての容積を表し、トンといっても重量を表す単位ではない。

    【ノット】

     船舶や航空機の速度を表す単位。指標となる島や大陸がない広い海の上では、緯度と経度を用いて現在地を把握する。そのため速度を表す単位も、緯度と経度に由来。地球上の緯度1分にあたる長さ(1海里)を1時間で航行する速度が1ノットだ。

    【国際信号旗】

     18世紀ごろにイギリスで考案され、1857年に世界共通の「国際信号書」としてルールが整備された、海上において船同士が交信するのにマストに掲げる旗。

     文字や数字を表す旗、代表旗、回答旗の種類がある。文字旗はアルファベットを表現する以外に、1枚だけでも特定の意味を表す(例:O「人が海に落ちた」、V「私は援助が欲しい」)。また、2枚、3枚使って特定の意味を表すこともできる。

    (MAMOR2025年3月号)

    知っておきたい国守る船の基礎知識

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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