MAMORのキャッチフレーズは「日本の防衛のこと、もっと知りたい!」です。防衛省・自衛隊の政策や活動を広く国民にお知らせすることがマモルの使命なのです。
そこで、読者の皆さんから募った防衛に関するさまざまな疑問、質問について、われらが広報アドバイザー・志田音々さんがインタビュアーとなって、各界の識者に教えていただこうと思います。
【志田音々さん】
タレント、女優。1998年、埼玉県出身。2023年から防衛省広報アドバイザー(注)を務める。25年2月14日に3rd.写真集(講談社)が、2種類同時発売予定
※(注)防衛省・自衛隊の各種広報活動への協力を目的として2023年に設けられた制度
【鶴岡路人さん】
1975年、東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部准教授。現代欧州政治、国際安全保障などが専門。著書に『模索するNATO-米欧同盟の実像』(千倉書房)など
NATOってなに?

加盟国の国旗が掲げられているNATO本部。本部はベルギーの首都ブリュッセルに置かれ、軍事司令部は同国のモンス近郊に置かれている 出典/NATO公式HP
志田音々(以下、「志田」):ここ数年、よく「ナトー」という言葉を耳にします。欧米の国々が、お互いに協力し合って国を守る組織のこと、と理解してますが、合ってますか?
鶴岡路人(以下、「鶴岡」):その通りです。「北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)」は、冷戦時代の1949年に当時のソ連に対抗するために欧米12カ国で発足し、現在の加盟国は32カ国です。「世界でもっとも成功した軍事同盟」といわれています。各加盟国にとってNATOの本質は「アメリカとの同盟」です。
志田:アメリカとの同盟というと、日米同盟と同じということですか?
鶴岡:ええ。ですが、日米同盟が日本とアメリカの2国間同盟であるのに対し、NATOは多国間同盟です。NATOの中核的な任務は、「集団防衛」、つまり「1つの加盟国が攻撃されたら全体への攻撃とみなし、皆で対処する」ということです。
これは北大西洋条約第5条に書かれています。助けてもらうと同時に、ほかの国を助ける義務を負います。この2つは常に一体です。人間関係でも、自分は助けて欲しいけど友達を助けない、という人は嫌われますよね。ほかの国を助けるためには、覚悟も準備も必要です。同盟は楽ではないのですよ。
志田:32カ国もあると頼もしいと感じますが、義務も生じるなら大変そうですよね。
鶴岡:そもそも、同盟というのはかなり特殊な関係です。「あなたが攻撃されたら必ず助けます」という約束を国家間でするわけです。そんな約束をしてくれる国はなかなかありませんから、同盟のハードルは高いのです。さらに、約束が本当に守られるか不安ですよね。
日本はNATOに入ることができるのか?

NATOの招待を受け、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、EUとともに議論を行う中谷防衛大臣(写真中央) 出典/防衛省HP
志田:ちなみに、日本はNATOに入ることはできるのでしょうか?
鶴岡:条約上、ヨーロッパの国しか参加できないので難しいですね。仮に加盟できたとしても、日本にほかの加盟国を守るための能力と意志があるかが問われます。
志田:能力と意志ですか?
鶴岡:例えばヨーロッパの加盟国が侵略を受けたとき、憲法上の問題はさておいて、日本(国民)は他国の戦地に自衛隊を派遣する意志があるか、自衛隊に遠く離れた戦地で任務を行う能力があるかということです。
志田:NATOにとっての「敵」はやっぱりロシアですか?
鶴岡:そうです。ロシアと地続きになっている国々にとって、ロシアの脅威は切実な問題です。ロシアによるウクライナ全面侵略がまだ続いていますが(2024年12月時点)、ウクライナが負けてしまえば、「次は自分かもしれない」という不安がぬぐえないのです。
ただし、ロシアも「NATOと直接対決になったら大変だ」と考えているため、NATO諸国には手も出せません。
志田:NATOの抑止力は強大だということなのですね。
鶴岡:まさにそうです。ほかにも、NATOが75年間で積み上げてきた実績に「相互運用性の向上」があります。多国間で軍隊を動かすわけですから、事前に用語、手順、兵器の規格などをそろえる必要があります。
NATOには、標準化・共通化のための協定が無数にあり、共同訓練をひんぱんに行っています。そのため、NATO加盟国の軍隊は、すぐに一緒に行動できるわけです。
志田:皆が力を合わせれば強くなりますね。よく分かりました。例えれば、ファンの皆さんは、私にとってのNATOってことですね?
鶴岡:守ってもらうだけでなく、守ってあげる必要もありますよ?
(MAMOR2025年3月号)
<文/古里学 写真/山田耕司(扶桑社)>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです