•  いざ、に備えて日々、訓練に励む自衛官たち。その能力・技術は各国軍にけっして負けないが、私たち一般国民が、それを目にすることはめったにない。

     自衛隊の超絶ワザのなかには、世界各国の軍隊が参加する競技会での優勝や、多国籍の軍人が在籍する学校で優秀な成績を収めた実績などもある。

     ここでいくつか実績が評価された超絶ワザを紹介しよう。

    P–1哨戒機部隊が対潜水艦戦競技を連覇

    画像: 日本、アメリカ、オーストラリア、韓国、インドの5カ国が参加した対潜水艦戦競技会で優勝した第3航空隊

    日本、アメリカ、オーストラリア、韓国、インドの5カ国が参加した対潜水艦戦競技会で優勝した第3航空隊

     2024年1月、グアム島周辺海域で行われたアメリカ海軍主催の多国間共同訓練「シードラゴン202
    4」で実施された5カ国による対潜水艦戦競技会で、厚木航空基地(神奈川県)に所在する第3航空隊のP‐1が優勝した。

     この競技会は、仮想敵潜水艦が発する音などを探知し、追跡や捜索などを行う。海自部隊は仮想敵潜水艦の発見や模擬魚雷での攻撃精度などで高スコアを獲得し、最も優秀であると評価された。

     同競技会は、23年にも鹿屋航空基地(鹿児島県)に所在する第1航空隊が優勝し海自が連覇を達成。海に囲まれ6000以上の島々からなるわが国の防衛に必要な技術の高さが証明された。

    アメリカ空軍学校で空自隊員が総合1位

    画像: コロンバス空軍基地にて、ジェームス・ホルムス空軍大将 (左)からトロフィーを贈られる渡辺2尉

    コロンバス空軍基地にて、ジェームス・ホルムス空軍大将 (左)からトロフィーを贈られる渡辺2尉

     2017年アメリカ・コロンバス空軍基地第14飛行訓練航空団に入校(注1)していた渡辺2等空尉が、基本操縦課程で学ぶ学生のなかで最優秀の成績を収め「AETC(注2)司令官賞」を受賞。

     空軍パイロットを目指す学生にとって名誉ある賞で、基本操縦課程22人のなかで、渡辺2尉は総合成績トップを収め、主席で修了した。

    (注1)航空自衛隊には成績が優秀なパイロット候補生をアメリカ空軍に留学させる制度がある 
    (注2)アメリカ空軍の航空教育訓練司令官(Air Education and Training Command Commander)から、飛行技術、学科、服務、 リーダーシップなどの総合成績優秀者に授与される賞

    国際射撃競技会で陸上自衛官が優勝

    画像: 中央右の小城1曹と左の八木2曹。選考会を経て代表に選ばれ、陸自に初優勝をもたらした

    中央右の小城1曹と左の八木2曹。選考会を経て代表に選ばれ、陸自に初優勝をもたらした

     2016年にオーストラリアで行われた国際的な射撃競技会「豪陸軍主催射撃競技大会(AASAM16)」の狙撃銃競技の部で、小城1等陸曹と八木2等陸曹のチーム(注3)が参加12カ国の精鋭18チームの頂点に立った。狙撃手は忍耐と体力、集中力が要求される。2人の常に冷静沈着で何ものにも動じない、強い力が証明された。

    (注3)小城1曹は富士教導団、八木2曹は第50普通科連隊に所属(共に当時)

    自衛隊はなぜ超絶ワザを連発できるのか? 元アメリカ軍テクニカルアドバイザーに聞いた

    画像: 緊急発進の命令から、わずか数分で出動する空自の戦闘機部隊。「経験による技術の高さが超絶ワザ」と北村氏は語る 写真/近藤誠司

    緊急発進の命令から、わずか数分で出動する空自の戦闘機部隊。「経験による技術の高さが超絶ワザ」と北村氏は語る 写真/近藤誠司

     現在アメリカ在住で、安全保障戦略コンサルタントとしてアメリカ海軍へのテクニカルアドバイザー(海軍戦略論)として関わった経験を持ち、海軍・海兵隊関係者との交流が深く、アメリカ軍の実情に詳しい北村淳氏に、海外の軍隊から見た自衛隊のすごさ、自衛隊がなぜ超絶ワザを連発できると思うのかを聞いた。

    実戦と言える経験が超絶ワザの土壌に

     2024年4月、防衛省は領空侵犯の恐れがある国籍不明機に対し航空自衛隊の戦闘機が23年度に緊急発進(スクランブル)した回数は669回だったと発表した。過去10年で最も少ないものの、2000年代の平均の約3倍で、非常に高い水準が続いている。

     北村氏は「このスクランブルの多さは世界でも類を見ない回数で、空自はアメリカ空軍よりも多くの経験を積んでいます。パイロットは上空で自身の体重の何倍もの重力に耐えながら、体をひねって国籍不明機の捜索を行う。

     基地に帰還しても、次の緊急発進に備えて準備をし、地上での待機を再開します。緊急発進に時間がかかると、国籍不明機がその分だけ日本の領空に近付いてしまいます。

      この緊張感はものすごい。戦闘だけが軍事行動ではありません。空自はすでに“有事”を経験しているといえると思います。

     アメリカから見れば決して多いとは言えない装備と人材で任務を遂行するために日ごろからの訓練は欠かせないわけですが、いざという時の備えのために訓練の精度を向上し続けることが、自然と超絶ワザが生まれる土壌になっているのだと思います」と話す。

    軍隊の要・整備、補給への責任感が強い自衛隊

    画像: 戦車のエンジン整備を行う隊員。「安定した整備態勢は世界がうらやむ超絶ワザです」と北村氏 写真/荒井健

    戦車のエンジン整備を行う隊員。「安定した整備態勢は世界がうらやむ超絶ワザです」と北村氏 写真/荒井健

     もう1つ、自衛隊の強さにつながっている超絶ワザがあると北村氏。

    「装備品のメンテナンスです。実はアメリカでは、空軍も海軍も海兵隊も航空機の整備が間に合わない状態が続いており、稼働数が大幅に減っています。

     それに比べ、日本の自衛隊の整備態勢は非常によく整っています。艦艇の定期整備など一部は民間企業に委託されていますが、納期を守る、整備後の不具合を防ぐのは『日本人の責任感の強さ=自衛隊の強さ』といえるでしょう」

     2024年4月に開催された日米首脳会談では、アメリカ本土などに所属するアメリカ軍の艦船を日本に運び、メンテナンスを受けられる仕組みを整えることで合意している。

     自衛隊の整備力と納期を守る責任感は世界が求める超絶ワザだと話す北村氏。「装備品の整備や部隊の維持に必要な補給に関しても自衛隊の責任感の強さは際立っています。

     世界の軍隊では物資のずさんな管理や横流しなどが問題視されますが、自衛隊にはそれがない。納期を守り管理を徹底する日本人の美徳。これも世界的に見て超絶ワザなんです」

    写真提供/本人

    【北村淳氏】
    1958年、東京都出身。警視庁で勤務後、89年に渡米。ブリティッシュ・コロンビア大学で政治社会学博士号取得。アメリカ海軍テクニカルアドバイザーなどを務めた後、シアトルを拠点に国防戦略の分析や執筆活動に従事中 

    (MAMOR2024年11月号)

    <文/真嶋夏帆 写真提供/防衛省(特記を除く)>

    自衛隊の超絶ワザ24

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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