•  新しく艦艇をつくるとき、造船所に乗員が出向き、運用しやすいようにカスタマイズしていく「ぎ装」という工程がある。

     新型潜水艦『たいげい』でも、多くの乗員が「ぎ装員」として参加し、コミュニケーション力を発揮し、造船所担当者や乗員同士で話し合い、「最強」の潜水艦を、「最高」につくり上げた。最新鋭の潜水艦を実際に動かしている乗員たちは、「ぎ装員」として艦の建造に関わった者も多い。

     経験者のいない先駆者として最新のシステムを運用しながら、常に「改善」という言葉を話す最前線のサブマリナーたちに、“己の艦”『たいげい』に対する思いについて話を聞いた。

    (注)ぎ装とは、艦艇の運航に必要な装置や設備を取り付ける作業のこと。民間のメーカーで行われるその工程に、艦艇の乗員となる自衛官が「ぎ装員」として参加する

    初代『たいげい』型の女性潜水艦員と自覚する

    画像: 潜望鏡の映像が映るモニターに向かう東2尉は「財力があれば宇宙に行ける時代ですが、海の中へはなかなか行けません」と話す

    潜望鏡の映像が映るモニターに向かう東2尉は「財力があれば宇宙に行ける時代ですが、海の中へはなかなか行けません」と話す

    【船務士 東 静夏 2等海尉】

     船務士として艦の運航の補佐をしているという東2尉。

    「海流などを考慮した、効率的かつ安全な航路の調整や、艦が浮上して水上航走する際、ほかの船舶との接触を回避するための哨戒長へのリコメンド(進言)などを行っています。機密文書やデジタルデータなどの管理のサポートも私の仕事です」

     東2尉は、潜水艦教育訓練隊の実習で2世代前の潜水艦『うずしお』の乗員となった後、最新艦の『たいげい』に配属された。

    「個人的な感想ですが、『うずしお』がガラケーなら、『たいげい』はスマホを操作している感覚です。あるいは、それまでは人力で動かしていたものが、機械の力に取って代わったというイメージですね。例えば、既存艦では、さまざまな弁を人力で回していたのが、『たいげい』ではタッチパネル1つで済みます。潜望鏡も手で動かさなくてもコンソールを操作するだけで、外部の状況がディスプレーに表示されるようになったんです」

     どちらも体力勝負な仕事だったのに比べ、『たいげい』の運用は女性でも楽にこなせると言う東2尉。そもそも、なぜ潜水艦乗りを目指したのだろうか。

    「単純に好奇心です。『潜水艦って、いったいどこで何をしてるの?それが知りたい!』っていう。自衛隊では2018年に潜水艦への女性の配置制限が撤廃されたので、じゃあ挑戦してみよう、と」

     潜水艦の密閉された環境の中で生活をするうえで不便に感じることはないのだろうか。

    「『たいげい』は女性が乗艦することを前提に造られていて、乗員の皆さんも男女ともに生活しやすい環境にしようとしています。なので、『女性だから』と意識することも、やりづらさを感じることもなく、とても過ごしやすいですね」

    自分が後輩のモデルケースに

    「潜水艦についてもっと知りたい」という東2尉は、少しずつ業務のことを覚えつつあり、「自分の進む道が見えてくる」ことにやりがいを感じている。

    「艦を運用できるようになるため、装備や戦術のことなど、幹部自衛官として学ぶべきことがたくさんあります。でも、仕事をしながらの勉強、となるので、時間的な余裕がなくて、自分の理想まではなかなか追いついていないのが現状です。それが悔しいですね」

     女性の潜水艦乗りの先輩がほとんどいないので、自分が後輩のモデルケースになるという自覚もある。

    「個人的には、家族と仕事の両方を大切にしていきたいと思っています。今後、そのどちらかに重心を置く必要が出てくるかもしれませんが、いずれにしても私がモデルケースになります。今は仕事はずっと続けていきたいと思っていますが、どうなるにせよ、潜水艦の女性乗員の1つのパターンとして後輩に示せるよう、それを意識して仕事に臨んでいます」

    (MAMOR2023年11月号)

    <文/魚本拓 写真/星亘(扶桑社)>

    コミュ力でつくった新鋭潜水艦『たいげい』

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