日本を守る海上自衛隊の装備品のなかでも、最強といわれるのが潜水艦だ。潜航して敵の情報収集をし、攻撃力に長けた海自の潜水艦は、60年以上にも及ぶ歴史のなかで進化してきた。
そして、2022年3月、海上自衛隊の最新鋭潜水艦『たいげい』型1番艦(注)が就役した。
最新鋭の『たいげい』はこれまでの潜水艦とどう違うのか?この記事では、戦術面での装備について、軍事ジャーナリストの柿谷哲也氏に解説してもらった。
(注1)同じ設計で最初に建造された艦を「1番艦」と呼び、以後、それに付けられた艦名が型式名となり、以降、建造される艦を、「〇〇」型2番艦、「〇〇」型3番艦……と呼ぶ
最強の潜水艦に仕上げる海自の「ぎ装員」とは?
ところで、『たいげい』のように新たに建造される潜水艦などの自衛艦は、就役する前に海自の隊員がその建造の工程に関わることをご存じだろうか?
自衛艦を建造する際には、艦体が完成し、艦の命名と進水式が終わった後に「ぎ装」と呼ばれる工程に入る。ぎ装とは、艦艇の運航に必要な装置や設備を取り付ける作業のこと。民間のメーカーで行われるその工程に、艦艇の乗員となる自衛官が「ぎ装員」として参加するのだ。
最初は「第1次」のぎ装員として、ぎ装員長となる艦長予定者や補給長予定者、先任伍長予定者などの数人が着任。その後、工事の進捗に合わせて、電気機器や武器など各部署の担当者が「第2次」、「第3次」のぎ装員として段階的に増えていく。
ぎ装員の主な仕事は、仕様書どおりに工事が実施され、搭載機器などが正常に作動するかの確認や、各種装備品の扱いの習熟など。
さらに、各区画の担当者が、それぞれの作業がしやすく、居住性を考慮した仕様になるよう、メーカーへの注文なども行う。作業の効率化を図るため、モニターやスイッチ類などを設置する位置、収納や棚などの家具類の仕様を注文するのだ。
こうして、いわば住宅の施主が内装の細部を建設業者と詰めていくように、艦内の装備をカスタマイズしていく。潜水艦乗りがそれまでの任務で培った経験を生かし、メーカーやほかの乗員との綿密なコミュニケーションを通して、十二分に力を発揮できる最強の潜水艦へと仕上げていくわけだ。
新型潜水艦『たいげい』の各設備を紹介!
『たいげい』型1番艦
原子力を使わない通常動力潜水艦はディーゼルエンジンで発電・充電した電力でモーターを動かしプロペラで推進する。鉛蓄電池より多く、素早く充電できる上、水素ガスが発生しないリチウムイオン蓄電池を使用し、世界トップレベルの潜航能力を持つ。
<SPEC>基準排水量:3000t/全幅:9.1m/全長:84m/深さ:10.4m
士官室
艦長などの士官が会議や食事などを行う士官室。テーブルはディスプレーにもなる。
発令所
艦長らが指揮を執る発令所には、操だやセンサー関連機器のコンソール(出入力装置)やディスプレーが並ぶ。
魚雷発射管室
18式魚雷と対艦ミサイルが装備された魚雷発射管室。
機械室
2基のディーゼルエンジンが設置された機械室。
科員食堂
科員食堂は会議や娯楽などでも使用される多目的スペースとなる。イスの下は野菜などの貯蔵庫になっている。
調理室
潜水艦では火気使用が厳禁のため、調理室での煮炊きは電気で行われる。
居住区
潜水艦の3段ベッドの1段のサイズは、高さ約60、幅約50、長さ約180センチメートル。
ステンレス製の洗面台は、不使用時には壁側へ折りたためる仕様になっている。
原則として3日に1度、使用できるシャワー室。とくに使用時の時間制限はないらしい。
『せいりゅう』よりも若干広くなったというトイレ
【柿谷哲也氏】
1966年生まれ。軍事専門のフォト・ジャーナリスト。これまで、海自の歴代の潜水艦の艦内を取材。著書に『知られざる潜水艦の秘密』(SBクリエイティブ)や『知られざるイージス艦のすべて』(笠倉出版社)など
(MAMOR2023年11月号)
<文/魚本拓 写真/星亘(扶桑社) イラスト提供/防衛省>