•  日本を守る海上自衛隊の装備品のなかでも、最強といわれるのが潜水艦だ。潜航して敵の情報収集をし、攻撃力に長けた海自の潜水艦は、60年以上にも及ぶ歴史のなかで進化してきた。

     そして、2022年3月、海上自衛隊の最新鋭潜水艦『たいげい』型1番艦(注)が就役した。

     最新鋭の『たいげい』はこれまでの潜水艦とどう違うのか?軍事ジャーナリストの柿谷哲也氏に解説してもらった。

    (注)同じ設計で最初に建造された艦を「1番艦」と呼び、以後、それに付けられた艦名が型式名となり、以降、建造される艦を、「〇〇」型2番艦、「〇〇」型3番艦……と呼ぶ

    潜水艦が持つ2つの特長「隠密性」と「攻撃力」

    画像: 潜水艦が持つ2つの特長「隠密性」と「攻撃力」

     潜水艦の大きな特長は「隠密性」と「強力な攻撃力」だ。潜水艦は海中を潜航するため、肉眼での捜索は不可能で、海面に出た潜望鏡をレーダーで探知することも至難の業。

    「25メートルプールに落ちた1本の針を探すようなもの」と例えられるほど、居場所が特定されにくい。だから、行動を察知されずに秘密裏に敵の情報収集ができるし、警戒監視活動を実施できるのだ。

     また、潜水艦はその高い静粛性により、敵艦に気づかれずに近づき、攻撃することが可能。一般に軍艦と呼ばれる艦艇は頑丈に造られていて、そう簡単には沈まない。だが、水面下の部分に亀裂が生じてしまうともろい、という弱点がある。

     潜水艦は艦艇の底部に致命的な損害を与える魚雷を装備している。潜水艦が自衛艦のなかでも最強の艦艇だといわれるゆえんだ。

    静粛性が向上し大型化した新鋭潜水艦『たいげい』

    画像: 2020年10月14日、三菱重工業神戸造船所で行われた『たいげい』型潜水艦の命名式と進水式。自衛隊の潜水艦の名称は、「海象、水中動物の名、ずい祥動物の名」を付与することが標準とされ、海自部隊などから募集し、防衛大臣によって『たいげい』(大鯨)に決定した

    2020年10月14日、三菱重工業神戸造船所で行われた『たいげい』型潜水艦の命名式と進水式。自衛隊の潜水艦の名称は、「海象、水中動物の名、ずい祥動物の名」を付与することが標準とされ、海自部隊などから募集し、防衛大臣によって『たいげい』(大鯨)に決定した

     海上自衛隊独自の潜水艦の運用の歴史は、1960年に戦後初の国産潜水艦『おやしお』の就役以来、60年以上にも及ぶ。その間、鋼材や溶接技術などの進歩によって、潜航深度の増大、電池の性能やソナーによる捜索・探知、攻撃能力の向上、機器の低雑音化など、性能が進化している。

     では、2022年に就役した最新鋭の『たいげい』は、既存艦からどう進化したのだろうか。柿谷氏は「全体的に見ると、静粛性が向上し、船体が大型化しています」と解説する。

     潜水艦はアンテナや潜望鏡などを海上に出したとき、敵に発見されやすくなる。また、電池に充電するため、海上に出したシュノーケルから外気を取り込み、ディーゼルエンジンを稼働するときは騒音も大きくなり、これも発見される原因となる。

    「そこで、『たいげい』の前級の『そうりゅう』型潜水艦の11番艦以降は、リチウムイオン電池を搭載しています。また、『たいげい』には、その効果を生かすための新ディーゼル機関(注1)や、シュノーケル発電システム(注2)などが新しく搭載されています」

    (注1、2)どちらも従来の鉛蓄電池より大きな容量を持つリチウムイオン電池の特性に合わせて新しく開発されたシステム

    「潜水艦といえば…」おなじみの装備も廃止に

    画像: 艦長らが指揮を執る発令所には、操だやセンサー関連機器のコンソール(出入力装置)やディスプレーが並ぶ

    艦長らが指揮を執る発令所には、操だやセンサー関連機器のコンソール(出入力装置)やディスプレーが並ぶ

     これらの新しい技術により、『たいげい』では、長時間、浮上することなく中速・高速で潜航することが可能になった。また、静粛性のさらなる向上などによって、敵に発見されにくくなっているのだ。

    「艦体の大型化は、リチウムイオン電池やそれに付随する装置の搭載を可能にしました。大型化によって居住性もよくなり、乗員がストレスなく活動できるようになります。潜水艦へ女性自衛官が配属されるようになったことを受けて、女性が使用できる居住区画が、初めて作られました」

     なかでも柿谷氏がいちばん衝撃を受けたのが、貫通式の潜望鏡が廃止されたことだという。

    「『そうりゅう』型では、映画などでおなじみの、発令所から艦外までを貫く筒形の貫通式潜望鏡が搭載されていましたが、『たいげい』では、それがなくなり、高性能のデジタル画像で艦の周囲を瞬時に、発令所のディスプレーに映し出す非貫通式のみとなりました。おかげで、潜望鏡の設置場所の自由度が増し、さらに、潜望鏡を海上に出す時間が短くなることにより、被探知を防ぎやすくなっています」

    最新の魚雷と潜水艦発射型対艦ミサイルを装備

    画像: 18式魚雷と対艦ミサイルが装備された魚雷発射管室

    18式魚雷と対艦ミサイルが装備された魚雷発射管室

     戦術面での装備についてはどうか。

    「新型の『ZQQ−8高性能ソナーシステム』が搭載されています。これにより、音を発する対象を艦首ソナーアレイで立体的に認識でき、方位、深さ、自艦との距離が正確に分かります。さらに側面ソナーアレイでは、音波を受ける部分の面積が大きくなり、潜水艦の側面の探知能力が向上しています。

     従来のえい航型アレイ(注)では音波を受信する方向が不安定でしたが、側面の音を受信する能力、すなわち指向性が向上しているのです。そして、艦首と両舷、えい航型ソナーアレイといった4カ所の異なるソナーの探知情報を自動統合化することで、敵艦の探知能力が『そうりゅう』型に比べて強力になっています」

     攻撃力では、最新の18式魚雷の搭載が可能になったと、柿谷氏は言う。

    「18式魚雷は目標の形を識別してオトリとの区別も行える『音響画像センサー』や、最適なタイミングで起爆が可能な『アクティブ磁気近接起爆装置』が搭載されています。また、対艦ミサイルについては、従来の『ハープーン』より性能が高く、対地攻撃も可能な『ハープーン・ブロック2』を搭載できるようになっています」

    (注)音波の受信器を取りつけたケーブルを自艦から離し、えい航して探知する方式のソナー

    写真提供/本人

    【柿谷哲也氏】
    1966年生まれ。軍事専門のフォト・ジャーナリスト。これまで、海自の歴代の潜水艦の艦内を取材。著書に『知られざる潜水艦の秘密』(SBクリエイティブ)や『知られざるイージス艦のすべて』(笠倉出版社)など

    (MAMOR2023年11月号)

    <文/魚本拓 写真提供/防衛省 写真/星亘(扶桑社)>

    コミュ力でつくった新鋭潜水艦『たいげい』

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