古今東西の軍隊において活用される偵察任務。自衛隊には陸上自衛隊と航空自衛隊に偵察を任務とする部隊が所在するが、どのような偵察を行っているのだろうか?
安全保障環境の変化や装備品が進化し、偵察部隊もまたそれに対応をしている。偵察任務に従事する陸自の部隊を取材した。
新編成で任務や訓練を遂行する第12偵察戦闘大隊
2023年3月、相馬原駐屯地(群馬県)に新編された「第12偵察戦闘大隊」。
これまで強力な火力を持たなかった偵察隊にMCVや火砲が配備され、人員も増強されている。任務内容や訓練など、新編された部隊で活躍する隊員に話を聞いた。
戦いながら情報収集。偵察戦闘大隊の意義
第12偵察戦闘大隊は、装甲車や偵察用オートバイ、赤外線などで敵の車両や人員の移動を監視するレーダーなど、従来の偵察隊に配備されていた装備品に加え、MCVや敵戦車などを攻撃する60ミリ迫撃砲などの火力装備や人員が増強された部隊だ。初代大隊長、山下典昭2等陸佐は偵察戦闘大隊について次のように語る。
「従来の偵察隊は、敵と正面切って戦う能力は高いとはいえず忍者のように敵に見つからないように活動していましたが、機動力、攻撃力のある装備が追加され、より『戦う偵察隊』になった印象です。
南西シフトにより、有事の際は部隊が担当エリアを離れて機動展開することもあるでしょう。隠密偵察で情報を集めますが、敵陣近くの危険な地域では威力偵察の可能性も同時に高まります。そんな場合に、強い火力を持つ偵察戦闘大隊はこれまでの強い火力がなかった偵察隊よりも成果が得られると思います」
第12偵察戦闘大隊は課題もあると山下2佐は続ける。「新たな部隊運用法や訓練方法を検討中です。課題の1つが部隊全体の技術の向上で、射撃訓練の回数を増やしました。偵察隊なのでメインはあくまで情報収集ですが、戦闘力の底上げを図った取り組みです」。
戦車乗りの経験を偵察行動に生かす
偵察戦闘大隊は、偵察要員のほか同じ機甲科の戦車部隊から同部隊に転属した隊員もいる。第12偵察戦闘大隊に配属され、戦闘中隊の分隊長としてMCVを指揮する牧山義人1等陸曹はこう話す。
「以前は戦車部隊で10式戦車に乗っていました。これまでは敵を発見したら攻撃し、敵戦力を撃破することが任務でした。ですが今は偵察がメインです。敵を発見してもすぐには攻撃せずに、状況を探ることが求められます。MCVの運用など、これまでの戦車部隊の経験を生かしつつも、考え方を変えなくてはいけません」
「MCVをはじめ、部隊は多様な装備と特性を持ったチームで編成されています。戦闘中隊と偵察中隊がそれぞれ訓練を積み重ね、各チーム同士の連携力も強化して、情報収集活動における最良の行動をとれるようにするのが今後の課題だと思います」
精強な偵察部隊員に1日も早く近づきたい
偵察戦闘大隊に新しく配備された60ミリ迫撃砲。これは組み立て式で軽量・携行性に優れているため、敵陣で素早く展開し敵を攻撃して離脱する、といった偵察隊の戦い方に合った装備だ。第12偵察戦闘大隊で迫撃砲分隊の弾薬手を務める関口修哉陸士長に話を聞いた。
「今は60ミリ迫撃砲の射撃動作を訓練しています。弾薬の確実な点検、射撃における安全な動作を意識して臨んでいます」
関口陸士長は地上で戦闘するための各種行動を行う普通科から第12偵察戦闘大隊に異動してきた。
「前部隊では経験がなかった偵察任務について知識不足を感じ、毎日が勉強です。偵察隊は精強なイメージでしたし、先輩隊員を見てそう実感しました。私も早く追いつけるよう頑張ります」
偵察部隊の新しい風を追い風にして取り組む
では、もとから偵察要員だった隊員は、今回の新編にどのような思いを持っているのか。第12偵察戦闘大隊の母体である第12偵察隊に所属していた長野隼治3等陸曹は、環境の変化についてこう語る。
「同じ機甲科でもあまり接点がなかった戦車部隊出身者が加わり、部隊の雰囲気はより前を向いていると思います。装備面もMCVなど種類が増え、学ぶことが増えました。偵察隊としてより強くなったと感じます」
第12偵察戦闘大隊は、ヘリコプターからロープを使い降下するリペリングなど空中機動能力を高める訓練も行っており、長野3曹は隊員にリペリング技能を指導をする立場だ。
「第12偵察戦闘大隊に新たに加わった隊員たちを中心にリペリング技能などを教えています。ヘリ降下の能力も発揮できるよう、全員の練度を上げていきたいです」と今後の抱負を語った。
偵察の装備品も連携しより確実な情報収集を
偵察戦闘大隊は地上の動きを遠くから察知する85式地上レーダ装置を装備し、敵の状況を監視する。レーダーは情報収集で捉えた敵の行動を、継続的に監視する場面で能力を発揮する装備なのである。これらの開設、撤収作業に携わる齋藤好美陸士長は、部隊が新編されても仕事に変化はないと感じる一方で、刺激も多いと話す。
「まだ基本訓練を重視している段階です。今後はMCV、偵察用オートバイなどさまざまな装備品を運用する小隊が連携した実践的な訓練も計画されています。小隊同士が刺激し合い、一体感が生まれると期待しています」
「偵察中隊と戦闘中隊が連携した、偵察戦闘大隊らしい実践的な訓練も始まると思います。私も訓練を重ねて多くの経験を積み、レーダーで集める情報の識別能力を上げたいと考えています。目指しているのは、敵情解明率100パーセントです」
(MAMOR2023年10月号)
<文/臼井総理 写真提供/防衛省>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです