陸・海・空各自衛隊には、日々の訓練でどれほど強くなったのかを試すさまざまな競技会がある。競技会の種類は、艦艇や航空機、対空ミサイルや戦車を使うものから、隊員食堂で提供する料理の調理技術にまで及ぶとは驚きだ。
陸上自衛隊大宮駐屯地(埼玉県)で各種競技会を行っているのは、第32普通科連隊。この記事では、第32普通科連隊の任務を紹介する。
首都圏防衛の一翼を担う第32普通科連隊
第32普通科連隊の任務は首都圏の担当地域の防衛。小銃や機関銃、迫撃砲、自衛隊車両などを駆使した、地上での戦闘を担当する。精強な隊員たちで部隊をつくり上げ常に臨戦態勢を保持するために、各種競技会が毎年、実施されている。
練馬駐屯地(東京都)に所在している陸上自衛隊の第1師団は首都圏1都6県の防衛・警備を任務としている。第32普通科連隊(以下、32普連)は、第1師団の1部隊として、埼玉県内の防衛を担当、首都圏防衛の一翼を担う部隊だ。5つの普通科中隊と1つの重迫撃砲中隊で構成される32普連は、有事には第1師団の他部隊と連携して防衛の任にあたるほか、災害派遣にも出動する。
全国から選りすぐりの隊員が集結
32普連は、全国から選りすぐりの隊員が集められているという。その装備は小銃、機関銃のほか、迫撃砲(注)などの大砲、軽装甲機動車や高機動車を持つ。
「32普連が担当する地域は埼玉県内ですが、第1師団が担任する1都6県には、日本の政治・経済の機能が集中しており、皇居もあります。私たちの任務の重要性がご理解いただけるでしょう」と語るのは32普連をまとめる連隊本部所属の前田尚輝1等陸尉。
そのため、32普連では、北方や南西など他地域の部隊よりも首都機能の維持という特性を踏まえた訓練に比重が置かれている。
首都圏防衛のために市街地戦闘に注力
「装備面で大きな違いはないのですが、市街地戦闘訓練が多くあります。さらに部隊の能力を強化するため、32普連の各中隊から優れた技能をもつ隊員を選抜して戦技のワーキンググループを編成し、任務遂行に必要な各種能力の向上に努めています」と、前田1尉は説明する。
新隊員に対する教育では、まず行進など自衛官としての基礎、射撃、格闘、法令などを学んだ後、各種火器の扱いを訓練するとともに、射撃や格闘の技術、体力の向上を行っている。
(注)山なりに弾を発射する大砲
さらに、陸士を対象として、部隊内のシステム通信やらっぱなどのMOS(自衛隊内での免許・資格)を取得するための教育、サバイバル術や特殊な作戦を遂行できる戦技を身に付けさせるレンジャー教育、格闘、狙撃などの戦闘技能教育、さらに近年ではドローンの操縦訓練も行っている。
前田1尉によるとこれらの訓練の実施は「32普連単独で行うこともあれば、第1師団に属する他部隊と実施することもあります」といい、第1師団隷下の各部隊で分担し合いながら隊員の錬成に努めているとのことだ。
首都圏防衛を担う第1師団隷下の部隊
第1師団には、32普連のほかに、東京23区の防衛を担う第1普通科連隊、静岡県の防衛を担う第34普通科連隊、広範な地域の警戒や必要な情報を収集する第1偵察戦闘大隊、地対空誘導弾や対空レーダーなどを用いて航空機による攻撃から防護する第1高射特科大隊、放射性物質や有害な化学物質などを専門的に対処する第1特殊武器防護隊、ヘリコプターで偵察や輸送を行う第1飛行隊などがある。
第1師団は「頭号(第1の意)師団」という別名をもち、首都圏の防衛を担うことを誇りとする精神が根付いている。32普連の隊員たちもまた、その意識を高く持っているのだ。
「32普連は1999年まで市ケ谷駐屯地(東京都)に所在していました。部隊マークは、皇居の二重橋と騎士をモチーフにしています。これは、首都防衛の意思を表すもので、隊員たちは、首都圏防衛という任務に誇りを持っています」と語る前出の前田1尉。
第1師団とその隷下部隊は、国家的行事に参加することも多く、各国の要人をもてなすほか安倍元総理の国葬儀における徒列にも32普連の隊員が加わっていたという。
<文/臼井総理 写真提供/防衛省>
(MAMOR2023年9月号)
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