•  陸・海・空各自衛隊には、オリンピックなどの国家的な儀式や式典での演奏、訓練時や実任務中に隊員の士気を高揚させるための演奏をしたり、一般国民向けのコンサートや、各種イベントでの演奏などで自衛隊を広報する活動、そして国際親善などを目的とした演奏を行う「音楽隊」が、全国に合計32部隊ある。

     自衛隊音楽隊は実にさまざまな活動をしている。民間のプロ・オーケストラに引けをとらない数のコンサートをこなし、自衛官としての訓練を行い、災害が起きれば派遣活動をする。

     音楽家である前に、国を守る自衛官の舞台は部隊である。この記事では陸上自衛隊音楽隊の活動の一例を紹介しよう。

    陸上自衛隊「特別儀じょう演奏」を行う日本を代表する吹奏楽団

    画像: 定期公演などの大きなイベントの前には、隊員たちは「個別での練習」と「パートごとの練習」、「合奏練習」などで1日に5時間以上は楽器に触れているという

    定期公演などの大きなイベントの前には、隊員たちは「個別での練習」と「パートごとの練習」、「合奏練習」などで1日に5時間以上は楽器に触れているという

     自衛隊音楽隊のなかでも最古参なのが、陸上自衛隊音楽隊。防衛大臣直轄の中央音楽隊のほか、各方面隊の音楽隊が5隊、各師団・旅団の音楽隊が15隊と、計21の音楽隊があり約950人の演奏者で編成される。

     陸上自衛隊の中央音楽隊は年間約190回もの演奏を行っている。また、「教育科」が設けられており、全国の音楽隊員の教育も担当し、自衛官の楽器奏者や指導教官、スタッフの育成にも力を入れている。

     さらに、中央音楽隊は国賓・公賓の歓迎行事で行う「特別儀じょう演奏」の任務を与えられた自衛隊で唯一の音楽隊だ。年間に約80回、これまでに延べ100カ国、1500回以上の儀じょう演奏を実施している。これらの長年に渡る実績から、陸自の中央音楽隊は、今では日本を代表する吹奏楽団と称されるほどの地位を築いている。

    日本各地でのコンサートを定期的に開催

    画像: 中央音楽隊による「親子ふれあいコンサート」。60分と短い時間の演奏会なので子どもも飽きずに楽しめる

    中央音楽隊による「親子ふれあいコンサート」。60分と短い時間の演奏会なので子どもも飽きずに楽しめる

     陸自の各音楽隊では、自衛隊内で行われる各種式典などでの演奏や、国民を対象とした各種コンサートを行っている。加えて、各地のイベントなどにも積極的に参加。

     例えば、北部方面音楽隊(北海道)と第11音楽隊(北海道)による混成バンドは「さっぽろ雪まつり」(北海道)へ参加、また、よりローカルなところでは、中部方面音楽隊(兵庫県)が、2023年3月に「梅小路フェス! Do You KYOTO?」(京都府)に参加している。

     また、熊本城下で行われた「桜の馬場城彩苑12周年誕生記念祭」で西部方面音楽隊(熊本県)が演奏するなど、各地域での活動に積極的に取り組んでいる。

    五輪内定選手へ壮行演奏を実施

    画像: 東京2020年オリンピック競技大会では10競技に17人の自衛隊体育学校の自衛官選手が参加した

    東京2020年オリンピック競技大会では10競技に17人の自衛隊体育学校の自衛官選手が参加した

     2021年6月28日、朝霞駐屯地体育館で行われた東京五輪壮行行事に中央音楽隊が参加。同年に開催された東京オリンピックへの出場が内定した自衛隊体育学校の選手に向けて演奏を行った。中央音楽隊は安室奈美恵の『Hero』など数曲を演奏し、自衛隊体育学校に所属する選手17人を激励。音楽によるエールを選手たちに届けた。

     陸自音楽隊では、隊員の士気高揚を図るため、こうした各部隊での演奏を実施。ときには、隊員食堂や厚生センター内などで、隊員たちに向けて小規模な演奏を行うこともある。 

    硫黄島で行われる慰霊式で演奏

    画像: 硫黄島で在沖縄のアメリカ海兵隊の音楽隊と合同で式典演奏を行う中央音楽隊

    硫黄島で在沖縄のアメリカ海兵隊の音楽隊と合同で式典演奏を行う中央音楽隊

     第2次世界大戦の末期、旧日本軍とアメリカ軍の激戦地となった硫黄島では毎年、「日米硫黄島戦没者合同慰霊追悼顕彰式」が行われている。その際、日本の国会議員などの政府関係者や硫黄島戦没者遺族、アメリカ海兵隊総司令官や駐日アメリカ大使など、日米双方の200人以上の参列者を前にして、中央音楽隊が鎮魂歌を演奏。

     これまで、音楽隊ボーカルが『椰子の実』や『ふるさと』など、その年ごとに日本の風土を感じさせるさまざまな曲を歌唱し、戦没者への追悼の意を表している。

    能力構築支援で外国の軍楽隊に演奏技術を指導

    画像: 楽器を初めて見たという軍人もいた軍楽隊。20年は新型コロナの影響で、オンラインでの技術指導を実施。21年は2年ぶりに対面指導が行われた

    楽器を初めて見たという軍人もいた軍楽隊。20年は新型コロナの影響で、オンラインでの技術指導を実施。21年は2年ぶりに対面指導が行われた

     中央音楽隊は、2015年から南太平洋の島国・パプアニューギニアの軍楽隊に、演奏技術や楽器整備に関する指導を行った。「能力構築支援」と呼ぶこの事業のため、これまでに10回、現地に隊員を派遣し、吹奏楽のイロハから演奏技術を指導。日本にも同国軍楽隊を6回招いている。能力構築支援

     毎回、自衛官の熱心な指導に対し、演奏技術をマスターしようと真剣な表情で応えるというパプアニューギニア軍楽隊員たち。長年にわたる技術指導を通して、楽団同士が友情を深めている。

    画像: 能力構築支援で外国の軍楽隊に演奏技術を指導

     そして22年、パプアニューギニア軍楽隊は「自衛隊音楽まつり」に初参加。『ふるさと』、『上を向いて歩こう』を演奏し、会場を沸かせた。陸自の音楽隊は、音楽を通じた国際交流、ひいては他国との友好関係の構築による安全保障環境の改善に大きく貢献しているのだ。

    天皇陛下即位パレードでの儀じょう演奏

    画像: 祝賀パレードでの演奏。陸自では中央音楽隊のほかに、東部方面音楽隊が参加している

    祝賀パレードでの演奏。陸自では中央音楽隊のほかに、東部方面音楽隊が参加している

     2019年、天皇陛下の即位にともなう国事行為である「祝賀御列の儀」での演奏に、陸自の音楽隊も参加。第302保安警務中隊と中央音楽隊による特別儀じょう隊が、天皇の即位を祝う演奏を実施した。

     また、同隊は、皇居から赤坂御所へと向かう道中10カ所の沿道で、海自の東京音楽隊や空自の航空中央音楽隊、警視庁と海上保安庁、東京消防庁の音楽隊とともに、祝賀パレードの演奏を担当。

     演奏されたのは團伊玖磨が作曲した『新・祝典行進曲』。今上天皇が皇太子だったころの結婚パレードのためにつくられた行進曲だ。参加した隊員によると、各音楽隊がリレー形式で曲を引き継いでいくため、曲の途中から奏ではじめるのが難しかったが、祝福の意をこめて懸命に演奏したという。

    世界最大級のエディンバラ軍楽祭で演奏

    画像: メイン会場での演奏では、和太鼓や着物姿での歌唱、かっちゅうを身に着けた侍のコスプレで殺陣のパフォーマンスを演じるなど、日本の伝統文化を盛り込んだ演出が大好評となった

    メイン会場での演奏では、和太鼓や着物姿での歌唱、かっちゅうを身に着けた侍のコスプレで殺陣のパフォーマンスを演じるなど、日本の伝統文化を盛り込んだ演出が大好評となった

     中央音楽隊は2017年、スコットランドで行われる「エディンバラ軍楽祭」に自衛隊音楽隊として初めて参加した。この軍楽祭は、1950年からエディンバラ城前広場で開催され、毎年約22万人が来場するという世界最大規模の催しだ。

     アメリカ海軍欧州軍楽隊やイギリス海兵隊軍楽隊、フランス軍楽隊、インド海軍軍楽隊など、計6カ国26団体に及ぶ参加国のなか、中央音楽隊が堂々とした演奏を披露した。その結果、全出演者による投票で選ばれる「最優秀出演団体賞(ポーリーソード賞)」を受賞。エディンバラ城主から中央音楽隊長に対して「名誉の剣」が授与された。

    大規模災害などで支援活動と慰問演奏

    画像: 被災地ではさまざまな曲を演奏したが、被災した人々の心情を思い選曲には気を配った。多くのレパートリーの中で行進曲はどんな人々にも受け入れられたという 写真提供/武田晃

    被災地ではさまざまな曲を演奏したが、被災した人々の心情を思い選曲には気を配った。多くのレパートリーの中で行進曲はどんな人々にも受け入れられたという 写真提供/武田晃

     2011年の東日本大震災の発生時には、音楽隊の隊員もがれき撤去や物資搬送などの任務を遂行。その後、被災地の自治体などの要望に応えるかたちで慰問演奏などを行った。

     その結果、各被災地において、陸自(388回延べ人数7114人以上)、海自(21回延べ人数184人)、空自(54回)と自衛隊の音楽隊は、震災発生後の3カ月間で約460回の演奏を実施した。地震が発生した直後は、悲惨な状況下で楽器を演奏することに戸惑ったという隊員たち。

     だが、多くの被災者から歓迎され、演奏後には「ありがとう」と声をかけられた。音楽隊の隊員たちは、この経験から、困難なときこそ音楽が必要とされると実感したという。

    <文/魚本拓 写真提供/防衛省>

    (MAMOR2023年8月号)

    これが自衛隊音楽隊の力だ!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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