•  敵の侵略や自然災害から、日本の国民を守るため日ごろからさまざまな状況を想定して訓練や任務に当たる自衛隊。その活動範囲は、火の中、水の中、空の上といった極限の環境から、爆発物の処理、化学兵器、ウイルスなどへの対応など実に多種多用だ。

     そのため、このような特殊な環境での任務を行うために、自衛隊には特殊服が装備されている。陸・海・空各自衛隊が使用している特殊な環境下で活動するための装備品を紹介しよう。

     どのような環境でどのように使うのか、その特徴をまとめてみた。併せて実際に使用している隊員の声もお届けする。

    耐Gスーツ

    戦闘機パイロットの失神リスクを軽減

    画像: 耐Gスーツは操縦者の下腹部から大腿部を圧迫するため下肢に装着する

    耐Gスーツは操縦者の下腹部から大腿部を圧迫するため下肢に装着する

    <SPEC>素材:アラミド繊維(長期耐熱性と難燃性に優れた繊維)

    【使用例】
    戦闘機パイロットが上空で任務を行う際は原則として着用が義務付けられている

    【この特殊服を保有する部隊】
    航空自衛隊の戦闘機や練習機がある部隊

    画像: 耐Gスーツを装着する様子。下半身および腹部をきつく締め付けるくらいの感覚が、適切なフィッティングとされている

    耐Gスーツを装着する様子。下半身および腹部をきつく締め付けるくらいの感覚が、適切なフィッティングとされている

     航空機の旋回により搭乗員は旋回とは逆方向に体が押しつけられる。これをG(重力加速度)といい、高いGがかかると心臓より上にある脳に血液が供給されず、視覚の一時的喪失、失神などで操縦困難または操縦不能に陥る危険性がある。これを防止するのが耐Gスーツ。

     飛行中に高負荷のGを受けるとセンサーが自動的に検知し下半身と腹部に空気を送って加圧。脳への血流を確保する。

    隊員の声

    「地上でも締め付け感があり上空ではさらに空気が送り込まれ、圧迫による痛みを感じるほどです。太ももなどに内出血を起こすこともありますが、任務遂行のために重要な装備です」(航空自衛隊第2航空団 望月健太郎2等空尉)

    耐寒耐水服(航空用)

    漂流をした際に着用し体温低下を防止する

    画像1: 漂流をした際に着用し体温低下を防止する

    <SPEC>素材:ラバー

    【使用例】
    万が一の漂流時に耐水服を身に着ける。寒風・冷水で多量の体温が奪われることを防止し、救助を待つ(写真は訓練の様子)

    【この特殊服を保有する部隊】
    海上・航空両自衛隊の航空機部隊など

    画像2: 漂流をした際に着用し体温低下を防止する

     航空機の搭乗員が陸地から離れた海域を飛行する場合に携行し、寒冷水域で遭難した場合に即時着用する(イラストは海上自衛隊のもの)。耐寒耐水服はフードと一体型で、耐水手袋および耐水靴を着け、水が入らないようにベルトなどで固定する。水温0度においても約5時間の保命能力を有している防寒装備。

    隊員の声

    「生地が厚く動きにくさはありますが、これにより保命時間が確保されている心強さを感じます。緊急時に備え航空機に搭載することにより、安心して任務に臨むことができます」(海上自衛隊第2航空隊(注4) 髙橋倫世1等海曹)

    (注4)八戸航空基地(青森県)に所在する海上自衛隊の航空部隊。潜水艦や艦艇などを捜索する警戒・監視任務などを行う

    防寒着(南極観測支援用)

    氷点下の南極地域での活動を支える防寒着

    画像: ジャンパー型の曹士用の防寒着

    ジャンパー型の曹士用の防寒着

    <SPEC>重量:約2.3kg(幹部用)、約2.2kg(曹士用) 表面:ポリエステル100%、撥水加工 裏地:起毛

    画像: 氷点下の南極地域での活動を支える防寒着

    【使用例】
    艦上では航空機の整備作業など、南極・昭和基地沖接岸後は雪上でのパイプライン輸送、基地設営支援などの各種作業で着用される

    【この特殊服を保有する部隊】
    砕氷艦『しらせ』

    外套型の幹部用の防寒着

     海上自衛隊は、 砕氷艦『しらせ』で南極地域観測を支援している。この『しらせ』乗務員が南極地域の寒冷地で作業をする際に着用するのがこの耐寒服だ。重ね着をしても着膨れしないよう少しゆったりめの造りで、ポケットは手袋をしていても開閉しやすいスナップボタンを採用。

    隊員の声

    「ボタン式で開閉しやすい収納ポケットの使いやすさなど、寒冷地での作業に適していると思います。1年を通して気温が氷点下で、風も強い南極ででも温かく、頼りになる存在です」(海上自衛隊砕氷艦『しらせ』乗務員 井上翼宿3等海曹)

    (MAMOR2023年4月号)

    <文/真嶋夏歩 イラスト/ナカニシリョウ>

    機能がすごい自衛隊特殊服

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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