• 画像: 一度に約30人、1日で約1200人の入浴が可能な陸自の「野外入浴セット2型」。隊員の入浴だけでなく、震災などの災害派遣時には、被災地で臨時の“公衆浴場”として活用される

    一度に約30人、1日で約1200人の入浴が可能な陸自の「野外入浴セット2型」。隊員の入浴だけでなく、震災などの災害派遣時には、被災地で臨時の“公衆浴場”として活用される

     さまざまな部署と職種を持ち、自分たちでどんなことにも対処する自衛隊。では、国民の命と財産を守るという、同様の活動を行う警察や消防と自衛隊とはどう違うのか?

     これら3つの行政機関の取材を行う、軍事フォトジャーナリストの菊池雅之氏に、自己完結型組織といわれる自衛隊の実態と、その今後の展望などについて話を聞いた。

    どんな環境でも活動できる自己完結型の体制を構築

     菊池雅之氏は警察や消防の取材を行う中で、自衛隊が「自己完結型組織」であることを再確認したという。

    「例えば、2007年に愛知県の長久手町で発生した立てこもり発砲事件。被疑者の男が元妻を人質にして民家に立てこもった事件ですが、このとき警察は、事件現場から半径1キロメートルを立ち入り禁止区域にしました。

     さらに警察は、その区域から少し外れていたコンビニも立ち入り禁止にしたんです。なぜかというと、現場で事件に対応している警察官の食事やトイレなどのために使用できるコンビニを確保するためだったんですね」

     自衛隊であれば、どんな場所でも調理ができる「野外炊具2号」やレトルト食品の「戦闘糧食」で食事がとれるし、天幕と呼ばれるテントで宿泊もできる。その威力を最大限に発揮するのが災害派遣の現場だ。

    「東日本大震災の取材をしたときには、私と同じ宿に被災地に派遣された警察や消防の人たちが泊まっていました。つまり、彼らは自分たちで宿を取らなければ、寝食はもちろん、風呂や洗濯だってままならない。ところが、陸上自衛隊には『野外入浴セット』『野外洗濯セット』という装備がある。ほかにも、河川や湖沼などから取水した水を飲料水にする浄水装置まであります。自衛隊は、本当に自分たちだけでどんな環境でも活動できる、自己完結型組織なんです」

    自衛隊の体制を支える、複数の特技を持つ隊員

    画像: 野外炊具1号 出典:第6師団ホームページ (https://www.mod.go.jp/gsdf/neae/6d/equipment/field_kitchen.html )

    野外炊具1号 出典:第6師団ホームページ (https://www.mod.go.jp/gsdf/neae/6d/equipment/field_kitchen.html )

     どの国であっても、軍隊は基本的に自己完結型組織だと、菊池氏は言う。ただし近年は、主要国などで戦闘以外の業務のアウトソーシングが進んでいるという。

    「アメリカやフランスなどでは、警備などの業務を民間軍事会社に委託する傾向にあります。アメリカ軍は輸送業務を国際輸送物流会社のDHLなどに委託しています。それに対して自衛隊は今のところ、先進国のなかでは業務委託が少なく、自己完結型を貫こうとしていると思います」

     その体制を支えているのが、先に挙げたような充実した装備もさることながら、やはり「人」だと菊池氏は言う。

    「自衛隊では、1人の隊員が2つ、3つの特技を持っているのが特徴です。例えば、各地を転戦することを想定した陸自では、あえて専門の給養員を配置していないため、隊員が持ち回りで調理を担当する。戦闘という本職、いわば“幹”の部分に加え、食事という隊員の生存に関わる後方支援の部分、“枝葉”のスキルも持っているわけです。陸自のなかには、隊員の給与の支払いなどを行う職種である会計科からレンジャー隊員になった人もいるといいます。こうしたマルチプレーヤーが、自己完結型という自衛隊の体制を支えているんです」

     だが、少子化による人材不足や予算などの関係から、今後もその体制を維持できるかが課題となると、菊池氏は見る。

    「隊員のなり手不足や、予算が装備に割かれやすいなどということもあって、今後も今のように十分な自己完結型を貫けるかどうかは、なかなか難しい問題だと思います。だから効率的なアウトソーシングにしよう、という傾向になるわけですが、自衛隊にはできるだけ今の体制を維持してもらいたい。でないと、有事の際に十分な戦力を維持できなくなることもあるのではないでしょうか」と菊池氏は語った。

    【菊池雅之氏】
    軍事フォトジャーナリスト。危機管理をテーマに警察や海上保安庁、消防士も取材。著書に『自衛隊だけが日本を救える 「自己完結組織」の実力がわかる本』(潮書房光人新社)など

    (MAMOR2022年2月号)

    <文/魚本拓 写真提供/防衛省>

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    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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